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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第三章 潤いの町トトロイ
32/77

―情操部にて―

 派遣所の本部、と言われている『情操部』がアラウ城敷地内に存在する。

 深い森の奥――振り続ける雨は一時止み、今は濃い霧が立ち込めていた。霧に姿を隠されながらも、薄っすらと確認できるアラウ城。それよりも少し離れた森の中に本部はある。

 派遣所から届けられる書類、軍事機密、アラウの情勢――それら全ての情報が集められていた。それらの情報は王族が共有し、魔天族らにも流されている。全ての目的はただ一つ、アラウ国の発展。情操部はその目的を遂行するために存在する機関である。


「『使魔掃討作戦』は順調に遂行されております」

 丸い大きな机を囲むように、幾人かが席についている。全員、真紅のローブを身にまといどれも配られた資料に目を通していた。

「回収された使魔は二桁を突破しました。現在、捕らえた使魔はアラウ城に幽閉中。その後の処理を待っている状態であります」

「報告ご苦労」

 悠然と席に座る者が一人。資料を投げ捨てるように机に置くと、肘を付き口元に手を組み合わせる。座る者全てに目を配らせ、半ば睨みつけていた。白い半面の仮面がさらに助長し、一瞬にしてその場が凍りつく。その者はただ一人、水色のシャツとズボンを着ている。真紅のローブが集まるこの場において、異常な存在となっていた。――もっともそれは間違いではなかったが。

「処理に関しては直接、ダック様がなさる。それまで逃がさぬよう見張っておけ」

「……かしこまりました」

「で、他に報告することはないか?」

「はい。一つ気になることがありまして……潤いの町トトロイに向かった者たちと連絡が取れなくなっております」

「トトロイ、か。……あの方は相変わらずだな。まぁいい、そのまま放っておけ」

 トトロイの使魔については一度、直接見たことがあった。捕まえて暴れてもらっても困る。何せ国境を一人で守っているほどの魔力の持ち主。下手に突付かないほうが無難であろう。それに目的の使魔は一度確かめている。

「かしこまりました」

 仮面の男は机をぐっと押すように立ち上がる。

「では、今日は解散だ。また後日、報告を待つ」

 男の一言で一瞬にして、座っていた者たちが姿を消した。

 机に置かれた極秘書類。作戦の内容がつらつらと書かれているが、本当の目的など書かれてはいない。知るのはごく一部。彼もその一人である。

「次会うときは二人か……それとも一人か」

 口の端を持ち上げ、薄く笑みを見せる。広い部屋に響く彼の声は、消えるようになくなり、彼自身もすっと部屋から姿を消した。


    ◇    ◇


 彼女ははっと意識を取り戻した。


 今まで何をしていた。今はいつなのだろう。記憶を失っているかのように、今まで何をしていたのか思い出せない。

 ――私は何をしていた?

 周りを見渡せば自室であるのは間違いない。――寝ていただけだろうか。それでも何か違和感がある。

 身体はだるく、頭も重い。まるで自分の身体ではないようだ。頭に手を当てながら、必死に今までの記憶を遡っていく。


 確か――別れた後だ。そこからの記憶が曖昧でうまく思い出すことができない。

 何かがおかしい。何かを忘れている。

 そもそも、なぜ別れることになったのだ。

 それを考えるとひどく頭が痛む。まるで思い出さないよう仕組まれたようだ。――それでも思い出さなければ。


 彼女は頭が割れるような頭痛に耐えながら、それでも記憶を辿る。欠けている記憶が間違いなく存在する。

 父上……王族……魔天族……使魔……。

 私の使魔――ヨウ。

 思い出す。

 私は知ったのだ。それを伝えるべく走っていた。父上に忠告するために。その途中に――。


 その時、頭を殴られたように痛みが走る。その痛さ故に再び目を瞑る。

 また――意識が遠のいていく。私が私ではなくなるような感覚。私は一体どうなってしまうのか。


 父上どうか気づいてください。そして、ヨウ……どうか戻ってきて。

次話から第四章が始まります。お楽しみに。

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