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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第二章 港町シトモン
24/77

―潜む影―

 町の影に身を潜める者がいる。ひっそりと静まり返る暗闇の中、半面の白い仮面だけがうっすらと浮かび上がっていた。

 坂を下る黒いローブの男をじっと見張る。

 息を殺した。相手は自分を探しているかもしれない。しかし、男は気づかぬまま横を通り過ぎて行った。見れば肩に乗る使魔に何か小言を言っている。が、その内容が耳に届くことはなかった。使魔を見れば、安心しきった様子で笑みを浮かべている。

「あいつは……異空間へ飛ばされる直前のことは忘れているらしいな」

 建物の影から姿を現したマスクは、坂を下っていく真一たちを見下ろした。

 長い棒を持ち肩からかばんを提げ、背中には何か背負っている。フードを被っているものの、その姿はやはり異常な格好であった。

 マスクは腕組みをしたまま、じっと真一について思案した。

 五匹も魔物を召喚した。が、再び目の前に現れた姿は別れた時のままだった。イシャイナーであるシトモンの娘が、回復魔術を施したのかもしれない。しかし、それを考慮しても腑に落ちない点がいくつかある。

 まず、どうやって魔物を倒したのか。五匹もいれば多少なり苦戦する。当初は、自分に助けを求めに来た所を狙い仕留めようと思っていた。

 が、失敗だった。別の出入り口があったことも原因の一つではあるが、やはり魔物を全て倒されたことだろう。手元に帰ってきた魔物は一匹もいない。

 もう一つ疑問に思うのは、パラッグの雛の不在だった。

 間違いなく頭の上にいた。見る限り、慣れている様子だった。そんなパラッグの雛を手放すとは考えにくい。非常食にもなる最弱の雛だ、殺したなら殺したで死体を売りさばけば金になる。となると、考えられることは一つ。雛の進化だった。

 しかし、マスクはそれがどうしても信じられなかった。

「どうするんだ、あのまま行かせるのか?」

 白い仮面の奥から幼い声が問いかける。思案を中断し、その問いかけに答えた。

「行き先は知らないが……大方予想はつく。が、確信はない。それを調べた上で、ダック様への報告が先だ」

 そう言うと真一たちに背を向け、城の方向へと歩み始めた。


 シトモンは真一が去った後も、ずっと窓から町を見下ろしていた。家々から灯りが漏れ、ほのかな灯りが町全体を覆っている。静かなことは町が平和である証拠。そのことにふっと息を漏らし胸を撫で下ろした。

 ライトもこれからは心配させないと約束した。悩むことも少しは減るだろう。そう思いシトモンは窓を閉じようと手を伸ばした。

「夜分遅くに失礼、シトモン統治者殿」

 と、部屋の中央から突然声がした。驚きすぐさま振り返ると、見たことのある片面の仮面を被った男が立っている。目を細め顔は笑っているように見えるが、仮面のせいか不気味さを感じた。

「……どうやって入ってきた」

 それでも落ち着きを払い問いかける。ドアが開く音など聞こえなかった。何よりこの部屋へ来るのなら、誰か必ず警備の者がついている。しかし、ドアは開いた様子もなければ警備の姿も見えない。ただ手段があるとすれば――。

「移動魔術、と、言わなくても大方予想はつきましょう」

 笑顔を崩さぬまま、その男は言った。しかしおかしい。男の腕に巻きついている布は青い。その布は男がイシャイナーであることを示している。

「あぁ……これですか。確かにイシャイナーです。ですが、私には使魔がいるのです」

「し、使魔だと?」

 驚いた表情のまま、シトモンは慌てた様子でその男に駆け寄った。と、言うのも、最近新たな政策が発表されたのだ。じっと男の顔を見るが、男は冷めた様子でシトモンを見ているだけだった。

「……そなた、証を貰い受けに来たマスクと言う者だろう」

「おっしゃる通り」

 にこやかな顔を向けているが、見つめられるだけで背中に悪寒が走るようだった。その視線から逃げるように、マスクの頭や肩を注意深く見た。が、やはり使魔の姿は見えない。

「どこにいるかは知らぬが、使魔は掃討作戦が近々実行される。そなたの使魔も気をつけられよ。契約者関係なく使魔は……」

「知っております」

 言葉を遮った声ははっきりとしていた。驚き身を引いたシトモンとは対照的に、マスクはふっと笑みをこぼした。

「私はダック公爵の部下です……王族であるシトモン様もご存知でしょう」

「ダ、ダック公爵……の部下、だと? そなたがか!」

 ダック公爵。貴族中の貴族で、魔天族の頂点に君臨する。

 貴族は王族に対し資金援助をしていることが多い。王族と言えど、町を統治する上で経費は出てくる。税を民から徴収していても、厳しい財政に陥ってしまうことがあるのだ。それを防ぐために、貴族が王族の後ろ盾をしている。

 四大都市を治める王族には、それぞれ資金援助をしている貴族たちがいる。表立っては公表しないものの、町への貢献度は高い。その一方で、見返りとしてそのような貴族たちには、特別な身分が与えられていた。

 それが魔天族と言う肩書きだった。王族に直接関わっている証。資金援助をする代わりに、王族たちの相談役になっている。どの都市も王族と協力し、それぞれの町の発展に貢献をしていた。シトモンも例外ではなく、援助を貰っている魔天族がいる。

 しかし、ダック公爵はそれをも超える立場だった。

 ダック公爵が資金援助をしている相手はアラウ国王だった。そのためか、ダック公爵自身がアラウ国王と肩を並べる存在になっていた。四大都市の統治者たちでさえ頭が上がらない。しかし、実際に姿を見た者は少ない。シトモンも直接ダック公爵を見たことはなかった。ただ一言、ダック公爵に関する情報は耳に入っていた。――影の国王だと言う、噂を。

「……私が伺ったのは、そのようなことを言いに来たのではないのです。少々お尋ねしたいことがありましてね」

 すっとマスクの顔から笑みが消えた。

「一緒に証を貰い受けに来た、ハギノシンイチ、と言う男についてです」

「……彼か。一体彼がどうしたと……?」

 意外な人物の名に、シトモンは少々気が抜けた。部下直々に来ること自体が滅多にない。ましてや身分を隠して近づいてきたのだ。否応なく緊張してしまう。

「彼は、証を貰い受けた後どちらへ向かわれたかご存知か?」

 無駄口を叩かせない無表情な面構えに、冷や汗が出てきてしまった。白い仮面がそれを助長させているのか。シトモンは唾をごくんと飲み込んだ後、慎重に言葉を選びながら答えた。

「……娘の話では、何かを返すため、とか申していたが……それ以上のことは知らぬ」

「そう、ですか。それだけで十分です」

 再びマスクは目を細め笑みを浮かべた。そして、満足したのかそのまま窓へと歩み寄って行った。

「……どこへ行く?」

 その後ろ姿にシトモンは思わず話し掛けた。一体何の目的でやって来たのか理解できなかった。

 すると、顔だけ振り向かせ白い仮面をシトモンへ向けた。のっぺらの白い仮面は、暗闇に浮かび上がって見える。

「ダック様の元へ帰るのです。少々事情がありましてね。シトモン統治者殿には関係のないことです。ご安心なさってください」

 そう言うと顔を元に戻した。が、シトモンはまだ食い下がった。

「ま、待て。彼が何かやったのか? どうして彼の行く先を聞くのだ」

「……彼、自体には問題はないのです。彼にまとわり付いている使魔に、少々用事があるのです」

「な……か、彼にも使魔がいたと申すのか……!」

 すると、マスクは戻していた顔を再びシトモンへと向けた。が仮面の下から覗く目から殺気を感じた。シトモンは思わず口を閉じ、息を呑んだ。これ以上何か言うと身の危険がある、本能がそう悟った。

「……もうよろしいか?」

 酷く低い声の問いかけに、シトモンは声を出すのがやっとだった。

「あ、あぁ……すまない」

「では、失礼する」

 すると、窓にいたマスクはふっと姿を消した。残像さえ残すことなく、一瞬にして消えてしまった。窓には、いつもの夜空と町の風景が広がっている。

 シトモンは一気に身体の力が抜け、その場に跪いた。今更ながら足の震えが止まらなくなってしまっていた。

「なんと……恐ろしい男。目的は一体何だったのだ」

 知らないうちに頬を伝っていた汗が、床に落ちていく。シトモンはその汗を拭いながら、マスクがいた窓を呆然と眺めた。


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