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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
序章 旅の始まり
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【第一話】 落下物

 初めまして、作者のぱくどらと申します。

 拙い文章のため誤字脱字があるかもしれません。感想欄、またメッセージでも構いませんのでご一報をくださいますようお願い申し上げます。

 本作品と長くお付き合い下さいましたら嬉しい限りでございます。

 真一は弓道部に所属していたが、今年の六月に引退をした。しかし、引退が決まったあとも街の弓道場に通い続けている。

 真一は純粋に弓道が好きだった。通っている町の弓道場には尊敬する先生がいる。先生は知り合った中で一番心許せる人間。話しづらいことでも、先生なら自然と話すことができた。先生も、他の部員にはない真一の弓道に対する熱心さに感心し、面倒をよく見ていた。真一にとって、弓道という己を鍛える武道とその先生と会える弓道場は特別な場所となっていた。


 出会いの日も、その弓道場へ向かっている最中だった。夏の太陽がギラギラと輝き、その日光の照り返しの熱気がアスファルトにぶつかり再び湧き上がる。

 誰もがだれるような狭い路地を、真一は右手に弓巻きに包まれた長い弓を持ち、左肩からはトートバックを提げ歩いていた。背中には右肩から提げた矢筒を背負っている。狭い路地はいくつもわき道があり、住宅が並ぶ至って普通の道だった。この道をまっすぐ行けば弓道場はもうすぐだった。

「……ん?」

 目の前を車が横切り止まって待っている時、異様な音が聞こえた。何かが落ちてくるような、風船の空気が抜けるようなそんな音が聞こえてきたのだ。その音は徐々に大きくなり近づいている。不思議に思い顔を見上げた瞬間、目にも止まらぬ速さで何かが落ちてきてそれが左腕にぶつかった。

「うわっ!」

 衝撃が左腕に走る。身体がよろけ、その場にうずくまった。右手で左腕を押さえたがさほどの痛みはない。手をどけて見てみても、打った様なあとも擦り傷もない。ただ、赤い血が一滴ほど腕に付いている。

 一体何が落ちてきたのか、それを確認するべく前に落ちているものを見た。――それは人形のようだった。

 体長三十センチほどしかないその人形は、顔を歪め痛そうに手で口元を押さえている。

 真っ先に目に入ったものは金色の髪と赤い瞳。服装が紺色のゆったりとしたズボンとシャツという地味な格好に対し、あまりにも頭が派手に見えた。人形にしてはおかしい。

「……いたた。わしは一体、どうしてこんな場所に」

 しゃべった。真一は思わずびくっと反応し、お尻を引きずるように後ろに下がる。

 おまけによく見ると押さえている口元からは赤い血が出ていた。真一は、左腕についている血とその人形から出ている赤い血を、まさかと思いつつ見比べた。

「ん。……お主、まさか」

 人形と目が合った。変わった人形だ。表情まで豊かに表現しているのか、徐々に目を見開き何度も瞬きをしている。

「わしが見えるのか!」

 驚いているのか大きな声を出す人形に、真一は恐々と頷いた。人形は決められた台詞ではなく、自分で言葉を発しているように見える。そう考えると気味が悪い。暑い日差しに頭をやられてしまったのかと思い、真一は頬を抓ってみた。抓ってみてもやはり痛い。

 一方で、その人形は唇をかみ締め、鋭い目つきで真一を睨んだ。そして、ゆっくりと宙に浮かび始めた。

「わしが見えるということは……どこかに……。ぬ……やはりそうか。わしの血が付いておったか」

 口調がじじくさい割に顔は幼い顔をしている。その顔は真一の左腕に付いた一滴の血を凝視していた。顔の目の前まで浮かび上がった人形をよく見てみると、背中のほうからちらちらと白い羽根のようなものが見え隠れしている。

「なっ、なんだこれ。動いたりしゃべったり飛んだり、血が出る人形なんて……。……夢でも見てんのかな」

「夢などではないし、わしは人形などではない。わしの名はヨウじゃ。……そうじゃの、こっちの言葉で言うなら妖精だ」

「は? 妖精?」

「そうじゃ。わしはアラウから来た妖精じゃ。お主こそ、名はなんと言う?」

「は、萩野真一って名前だけど……アラウ? なんだそれ。しかも妖精? ……馬鹿にしてんのか、意味わかんねぇ」

 こんなことはあえりない。きっと誰かのイタズラに決まっている。そう思った真一は、大きなため息を漏らすと立ち上がった。

「その様子は信じていないようじゃの。しかしなシンイチ! これからはそうは言っておれんぞ! さっきわしとぶつかったせいでシンイチとわしは……」

「うっせぇよ! よくしゃべる人形だな。誰のイタズラだよ、ったく」

 真一はそう言うと、落ちていた弓を拾い直し、背中に背負っている矢筒を担ぎ直した。そして、その場にヨウを残したまま再び路地を真っ直ぐ歩き始めた。

「おい、待たんか! シンイチ!」

 しかし、真一はその声を無視しどんどんと背中が遠くなっていく。その小さくなる背中を見つめながら、ヨウは大きくため息を吐いた。

「……面倒なことになったわい」

 ヨウは頭を何度か掻きながら、小さな羽根を羽ばたかせ真一の背中を追った。



 しん、とする空間である。道場は外に向かって大きく開かれていて開放感がある。床は木の板が張られていて、外からは道場に向かって風が吹き込んでいた。

 その外の先には白と黒が交互に重なり合った的が五つほど、一定の間隔に並んである。その的の直線状には真一が袴を着て、的と平行に立っている。真一の真正面には、顔に多くの皺が深く刻まれた老人が一人、背筋をすっと伸ばし真一を見据えていた。

 真一がゆっくりと足を開く。開き終えると倒していた弓をゆっくりと起こし、弓と十字になるように矢を番える。

 番え終えると、弓を左ひざに一旦置く。そして弓を伝って的を見据え、再び弓に視線を戻す。

 右手につけているかけを使い、筈と弦を丁寧にかけにひっかける。そしてそのまま再び的をゆっくりと見据える。視線は真っ直ぐ的に向かう。

 邪念などいらない。ゆっくりと形が崩れないように弓を持ち上げる。地面と矢が平行になるよう、しっかりと心がける。

 頂点に達すると、力を均等にゆっくりと左手は弓を押し、右手は弦を引き、矢が真っ直ぐになるようにゆっくりと、矢が口元までつくまで引き分ける。

 無心になる。その状態のまま的を見据える。いつ離すのか、それは自分の心持次第。長くてもいけない。短くてもいけない。

 いまだ。そう思った時、自然とかけから弦が離れる。離れた矢は真っ直ぐ、的へ一直線に伸びていく。

 ――パンッ。

 しん、とする空間に的を射止める音が響き渡る。心地の良い音。的に刺さった矢を数秒見つめ、ゆっくりと腕を下ろす。

 顔を真正面に向きなおし、広げていた足を元に戻した。

「うん、萩野くんは会と離れが綺麗だ。もっと自信を持っても良いだろう」

「ありがとうございます」

 腰から折るようにおじぎをした。すると、その老人はにっこりと笑った。

「きっと萩野くんの射なら審査も通るだろう。確か、二段は取っているから受けるとしたら三段だろう?」

「はい。……しかし先生、高校生で三段を取るというのは難しいと聞いたのですが」

「なんだ、自信がないのか。心配しなさんな、萩野くんの射はどこの誰に見られても胸を張ることができる。もっと自分に自信を持ちなさい。私はあなたが三段に合格するのを楽しみにしておるよ」

「……ありがとうございます」

 再び真一は深々とおじぎをした。すると座っていた老人――真一の弓の先生はゆっくりと立ち上がった。

 背は真一の頭一個分低い。胴衣から出ている腕は細くたるんだ腕であった。しかし、袴をきちっと着こなしているためなのか堂々としていて何かしらの雰囲気を漂わせている。

「まぁ審査の話はまた今度にしよう。……私も弓を引くから、何か聞きたいことがあったら遠慮なく声をかけてきなさい」

「はい。ありがとうございました」

 そう言うと、先生は弓具を取りに行くため道場の後ろの廊下へと出て行った。

 一人道場に残った真一は先生の言葉を何度も繰り返し思い出していた。

『もっと自分に自信を持ちなさい』

 真一は気のない息を漏らした。すると、そこに突然先生ではない声が聞こえてきた。

「シンイチ! こんなところで一体何をしておるんじゃ」

 声のした頭上を見上げてみると、先ほどのヨウが羽根を羽ばたかせながら真一を見下ろしていた。

「勝手に行きよって……わしの話はまだおわっとらんぞ。大事な話をまだシンイチに言っておらんのだ」

「……またかよ」

 真一はため息を一つ吐いて、床においてあった矢を右手に持ち、再び弓を引く準備を始めた。矢を番え、再び弓を持ち上げゆっくりと引き分ける。引き分けた状態で遠くにある的を見据える。

 集中している真一をよそに、ヨウは少し降り真一の真正面にふわふわと移動する。そして、怒ったような口調で叫んだ。

「これは夢ではないぞ! わしの血が付いたシンイチ! お主はわしのマスターになったんじゃ!」

 引いた弓から勢いよく飛んで行った矢は見事的に命中し、その音を道場に響かせる。

「……うるせぇな。夢なら覚めろよ。意味わかんねぇことばっかり……俺は知らねぇ」

「ふん……そう言うだろうと思ったわ。だから、責任を取れ」

「は?」

 真一は持っていたもう一本の矢を番えはじめた。

「わしとぶつかって、シンイチに血が付かなかったらマスターにはなっておらんかったし、わしの姿も見えるはずもなかったのだ。わしのマスターになる気がないのなら、責任を取れ!」

「落ちてきたのはそっちだろ……」

 的を鋭い眼光で見つめた。ゆっくりと口元に矢をつけるまで引き分ける。静寂する道場。が、そんなのお構いなくヨウは声を響かせた。

「わしと一緒にアラウまで来てもらう。そこで前のわしのマスターにわしを引き渡してもらう。今、シンイチがわしのマスターであることを変えることはできん。それがお主の責任じゃ!」

 真一が弓からかけを離した。矢が弓から真っ直ぐ飛んでいく。しかし今度は的には当たらず、的より離れた場所に突き刺さっていた。

「……ちょっと待て、アラウってどこだよ」

「アラウはアラウじゃ。地球ではない」

 嘘を言う様子でもなく、ヨウはむっとした表情のまま真一を見ていた。

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