挨拶
おはよう。
そう語りかけると、君はいつも、ふわり、と微笑んだ。
そして、
おはよう。
……と、優しく返してくれるのだ。
頂きます。
味噌汁と白飯。
いつものメニューに、今日は、いかなごの釘煮も添えてある。
美味しい?
君は、私の顔を覗き込んで、どこか不安げに言う。
今日は、どうやら味噌を入れ過ぎたらしい。
少ししょっぱいだろうか、と、君は私の顔色を、心配そうに伺う。
美味しいよ。
不思議と、君の作った料理は、どこか焦げていようが、甘すぎようが辛すぎようが、どれも美味しく感じてしまうんだから、仕方が無い。
そんなことを友人に告げると、お前はあの人に甘すぎる、だからあの人は料理が上手くならないんだ、と言われる。
ふん、私の君は、とっくに料理が上手いのだ。
これ以上、何を望めば良いと言う?
行ってきます。
私はきっちりとした正装を着込んで、焦茶色の鞄を持つ。
ちなみにこれは、君が、去年の秋に選んでくれたものだった。
なるほど、使い易い訳だ。
……そんなことを呟くと、君は少しだけ頰を染めて、職人さんの腕が良いんだ、と言う。
なに、その職人さんの鞄を選んだのは君だろう?
そう言うと、君は、
いってらっしゃい。
……と、照れながら言うのだ。
実は、この可愛さ見たさに、毎日君を褒めるのだが。
ただいま。
仕事という戦場から、ふらふらになって帰ってくると、君は柔らかな笑顔で、
お帰りなさい。
……と、言ってくれる。
そんな時はもう、疲れなんてものは吹き飛んで、笑う気力も無かった筈なのに、君に微笑むことが出来る。
おやすみなさい。
灯りを消して、君は小さな声で、私に囁く。
優しく柔らかな声は、私を夢の世界へと誘う。
おやすみ。
眠たくて眠たくて堪らないので、私は言葉を省略する。
暗闇の向こうで、君が微かに笑った気配がして、私はついに、眠りに落ちた。
おはよう。
眠たげな君に、そっと耳打ちしたら、
おはよう。
君は、まだ眠たげな顔に、ふにゃふにゃとした柔らかな笑みを見せてくれた。