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徒然枕物語 参  作者: 緋和皐月
8/15

挨拶

 おはよう。


 そう語りかけると、君はいつも、ふわり、と微笑んだ。

 そして、


 おはよう。


 ……と、優しく返してくれるのだ。



 頂きます。


 味噌汁と白飯。

 いつものメニューに、今日は、いかなごの釘煮も添えてある。



 美味しい?


 君は、私の顔を覗き込んで、どこか不安げに言う。

 今日は、どうやら味噌を入れ過ぎたらしい。

 少ししょっぱいだろうか、と、君は私の顔色を、心配そうに伺う。


 美味しいよ。


 不思議と、君の作った料理は、どこか焦げていようが、甘すぎようが辛すぎようが、どれも美味しく感じてしまうんだから、仕方が無い。

 そんなことを友人に告げると、お前はあの人に甘すぎる、だからあの人は料理が上手くならないんだ、と言われる。

 ふん、私の君は、とっくに料理が上手いのだ。

 これ以上、何を望めば良いと言う?



 行ってきます。


 私はきっちりとした正装を着込んで、焦茶色の鞄を持つ。

 ちなみにこれは、君が、去年の秋に選んでくれたものだった。

 なるほど、使い易い訳だ。

 ……そんなことを呟くと、君は少しだけ頰を染めて、職人さんの腕が良いんだ、と言う。

 なに、その職人さんの鞄を選んだのは君だろう?

 そう言うと、君は、


 いってらっしゃい。


 ……と、照れながら言うのだ。

 実は、この可愛さ見たさに、毎日君を褒めるのだが。



 ただいま。


 仕事という戦場から、ふらふらになって帰ってくると、君は柔らかな笑顔で、


 お帰りなさい。


 ……と、言ってくれる。

 そんな時はもう、疲れなんてものは吹き飛んで、笑う気力も無かった筈なのに、君に微笑むことが出来る。



 おやすみなさい。


 灯りを消して、君は小さな声で、私に囁く。

 優しく柔らかな声は、私を夢の世界へと(いざな)う。


 おやすみ。


 眠たくて眠たくて堪らないので、私は言葉を省略する。

 暗闇の向こうで、君が微かに笑った気配がして、私はついに、眠りに落ちた。



 おはよう。


 眠たげな君に、そっと耳打ちしたら、


 おはよう。


 君は、まだ眠たげな顔に、ふにゃふにゃとした柔らかな笑みを見せてくれた。

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