表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護者と鍵   作者: 井藤美樹
7/18

第六話 悪夢

 


(……ここは、どこ?)



 時代劇にみるような……ううん、もう少し古い時代かな、それもどこかの農村のような場所だった。



 そこには僧侶と、村の庄屋らしき人。そして大勢の村人が集まっていた。



「この大岩の下に、人食い鬼を封じ込めておる。この鬼が、結界を護る守護者になるだろう」

 僧侶の言葉に、村人の一人が訊いた。



「そんなところに、人食い鬼がいて大丈夫なのかい?」



「偉いお坊様が大丈夫って、太鼓判を押されているんじゃ。大丈夫に決まっておるじゃろ」

 庄屋が失礼だと、村人を嗜める。



 それでも、村人たちの不安な気持ちを和らげることは、到底出来なかった。正直言えば、庄屋自身も、村人たちと同じ気持ちだった。しかし立場上、そうは言えない。



「皆の気持ちは分かる。しかし、守護者を置かないと、この結界の力は半減する。もし、結界が解かれたら、この周辺は人が住めない地獄とかするだろう。この人食い鬼は力を持つ鬼だ。この役割にもってこいだろう」



 僧侶の言葉に、異論を挟めることが出来る者は、この場に誰一人いなかった。いるはずがない。庄屋さえ何も言えなかったのだ。ここにいる皆、あの地獄をもう一度味わうぐらいなら、死んだ方がましと思うほどの、地獄を味わってきたのだ。結界が半減することは、彼らにとって耐え難い恐怖だった。



 だが……この場にいる者は、皆思うだろう。



 もし結界が敗れ、この人食い鬼が放たれたら、間違いなく自分たちはこの鬼に喰われてしまうだろう。この世の地獄を味わうより前に。それとも、この世の地獄を味わってから、じっくりと喰われていくのかもしれない。



 彼らの不安な心が……私の心を汚染していく。だがそれと同時に、いたたまれない罪悪感が入り雑じった、何とも言えない気持ちが、私の心を支配した……。









 涙が頬を伝う。



 その感触に、私は目を覚ました、LEDの淡い明かりが私を照らし出す。私は布団の上に寝かされていた。私はゆっくりと体を起こす。



「大丈夫? 朔夜ちゃん」

 黒髪の綺麗な美しい女の人が、心配そうに声をかけてくる。



 彼女があまりにも落ち着いているので、私は自分が長い夢を見ていたのだと思った。どこからどこまでが、夢なのか分からない。それにしても……リアルで最悪だ。かなりたちの悪い悪夢ーー。今でも思い出すと、吐き気が込み上げてくる。



 ここに来たくない気持ちが見せたものだと、私は思い込む。本当は、私は貧血で倒れてしまったのだ。勝手にそう思い込んでいた。だから気付かなかった。目の前の美女が戸惑うことなく、自分の名前を呼んだことに。



「…………あの……貴女は一体? それに加奈は?」

 彼女はにっこりと微笑むと、熱いお茶をすすめてくれた。私は一口、口に含むと飲んだ。それを、彼女は黙って見ていた。



「私は二○一号室の安藤咲といいます。加奈ちゃんなら、今、部屋の片付けにおわれているわ。他の住人たちと一緒に」



『部屋を片付けている』



 安藤と名乗った彼女のその言葉に、私は言い様のない、得体の知れない何かを感じた。心臓がドクドクと大きな音をたてている。冷や汗が頬を伝って、畳の上に数滴落ちた。



「……どの部屋の…片付けに?」

 どうにか、私は声をふり絞って尋ねた。尋ねずにいれなかった。例え後悔したとしてもーー。



 安藤はにっこり笑うと言った。



「決まってるじゃない? 二○三号室よ。朔夜ちゃんも部屋の中を見たでしょう」



 私の脳裏に、先ほどの光景が鮮やかに甦った。



 壁まで飛び散った血。転がった先輩の首。力なく横たわった死体。死体からは内蔵が見えていた。腸が床にまかれてあった。そして、転がった先輩の首を拾う加奈。加奈は先輩の首を持ったまま、私に笑いかけた。満面の笑みでーー。



(…………あれは……夢ではなかったの……)



 急に込み上げてきた吐き気を抑えることが出来なくて、私はキッチンのシンクまで走った。





 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。少しでもひんやりして頂ければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ