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辺境遊戯・改訂版  作者: 渡来亜輝彦
第十章:異端・シャザーン=ロン=フォンリア
41/98

1.ロゥレンとレックハルド


 ***


 その日は風が強く、彼女の赤い髪を巻き上げていた。

 砂塵にけぶる荒野。白いマントが砂埃で汚れても、彼女は気にした風もなく、大きな瞳で地平線の方を見つめている。

「貴女は戦場に行かないの?」

 ふいに声をかけられて、彼女は振り返った。

「ああ、けれど、今のメソリアはギルファレスと微妙な関係だったものね。帝国の応援に行くわけもないか」

 気配に敏感な彼女ですら気が付かないほど、巧妙に気配を隠して現れたのは、一人の妖精だった。緑がかった繊細な金色の髪を揺らせながら、彼女は六枚の翅でかすかに地面から浮かんでいる。

「ロゥザリエ。いつここに来たの?」

 笑顔を向ける彼女に、暁のロゥザリエは苦笑気味だ。

「心ここにあらずといった風じゃない。メソリアのメアリーズシェイルがそんな風じゃ困ったものね」

「それは貴女の気配を消し方がうまいからだわ。私に対しての殺気も感じられないものね」

 にっこりとほほ笑むメアリーズシェイルは、実年齢よりもずいぶんと若く見える。彼女は、辺境の狼人を祖父に持つといわれていたが、辺境の血を引くものには稀に彼女のように強くその血をひいてしまうものがいた。通常女性は妖精の力を引くことが多いが、彼女は狼人に近い力を持っている。それゆえに、人間の女性とは思えないほど戦闘能力が高い。それを買われて、メソリア王国の女将軍として名を馳せている。

「心配をしているからじゃないの?」

「それはそうだわ。あの方が、メルシャアド市に向かわれたというのは文書でこちらにも伝わっているもの」

「さほど実体のない政略結婚の相手でも、心配なわけねえ。人間の気持ちはわからないわ」

 ロゥザリエがあきれたように言うと、メアリーズシェイルはくすりと笑った。

「そんなことはないわ。確かに今は私はメソリアの将軍であって、彼はギルファレスの宰相。彼の国が辺境に対して強硬な政策をとり始めているから、今はこうして別れて暮らして滅多に会えないけれど、けして私と彼の間にあるのは国同士の事情だけではないのよ」

「聞いた私が馬鹿だったわ」

 のろけ話は結構よ、と言いたげにロゥザリエは肩をすくめた。

「けれど、メルシャアド市のカルナマクを降伏させるように仕向けられたと聞いているけれど、勝算はあるかしらね。メルシャアド市は、ギルファレス帝国の再三の挑発にかたくなになっているわ」

「ええ、それは気になっているの。けれど、メルシャアド市の将軍は、黄炎石のザナファル。彼は話の分からない男ではなかったはず。あの方なら、殺されるとわかっていて正攻法で正面からは乗り込まないわ。話をつけるなら、おそらく……」

「ザナファルを懐柔してからカルナマクに話を通そうということね。あいつの考えそうなことだわ」

「彼は狼人に比較的好かれやすい性格をしているし、彼自身も狼人が好きなのよ。ただ、問題は、カルナマク王の周囲まで説得できるかどうかだわ」

 ロゥザリエは頷いた。

「それはそうね。あいつの詐欺師みたいな口のうまさは天下に知れ渡っているわ。会わせたら終わり、って囁かれているほどだもの。心が決まっているなら、会わないし、周囲が会わせないかも」

「そうね。それさえどうにかできれば……」

 メアリーズシェイルは、やや目を伏せた。

「本当はね、私がメルシャアド市に行って彼の護衛を務めてあげればいいのだけれど……。私にも彼にも立場があるから、そういうわけにはいかないのよ」

 寂しげにそういう彼女に、ロゥザリエはふっと笑っていった。

「そんなに心配することはないわ。……あの男は、貴女が思っているよりもよっぽどしぶといもの。あれの息の根を止めるのは、そう簡単なことではないわ。たとえ狼人でもね」

「そうね」

 と、メアリーズシェイルは微笑み返す。

「そのことを、忘れていたわ」

 

 ***



 狼人には大食漢が多い。

 とにかく、よく食べるし、酒も飲み始めたら相当量飲んでしまう。体格のいい彼らのこと、そうでもなければ体がもたないのかもしれない。

 狼人には見目麗しげな外見のものが多いが、そんな男たちががつがつと上品さのかけらもなく食べるさまは、外の人間からすれば衝撃的ではある。だが、狼人というのは概してそういうものなのかもしれない。見た目と中身が裏腹で、なにを考えているのかわからない。

 しかし、マリスはそういうことにさほど気を取られるような娘でもなかったので、目の前で自分の持ってきた昼飯が次々と平らげられているのを、ほほえましく見ていた。シャザーンはマリスの持ってきた昼ごはんを、本当においしそうに食べていたものだった。 

「好評みたいでうれしいわ」

 マリスはのほほんと微笑んだ。シャザーンは答える間もなく、それを食べ終え、ようやく彼女の方を向いた。

「ありがとう。とてもおいしかったよ」

「いいえ、困っている人を助けるのは、当然だわ。それに、あなたはレックハルドさんとファルケンさんのお知り合いみたいだし」

 にこりと笑ってそういうが、シャザーンは少し複雑そうな顔をした。それはそうだろう。シャザーンは彼らと確かに知り合いだが、別に味方ではない。

 好んで敵対したいとは思わない。だが、どちらかというと敵になる可能性の方が高い。彼らはきっと、自分の考えをわかってくれないだろう。それを思うと、シャザーンは申し訳なくなる。

「どうなさいました?」

 きょとん、とマリスはこちらを見た。シャザーンは、困ったような顔をして彼女のほうを見る。それから、首を横に振った。

「いや、なんでも」

「そうでしたの。あ、あたしったら、水筒を持ってくるのを忘れたみたい」

 マリスは気づいて、残念そうな顔をする。

「あなたに、水も差し出せばよかったのに、気づかなくてごめんなさい」

「い、いや、そんなに僕に気遣うことないんだ」

 シャザーンは、首を振った。マリスは立ち上がる。しゃらん、とファルケンからもらったものらしい守護輪シールクルリークが彼女の剣の柄に当たって鳴った。

「あたし、そのあたりで汲んでくるわ」

「え?」

 シャザーンはあわてて立ち上がった。

「そんな、悪いよ。僕が取ってくるよ」

「でも、あたしが忘れたんだし」

 シャザーンはにっと微笑んだ。

「先ほど、ご馳走になったんだから、今度は僕が……。辺境の中のことも少しは知っているから、おいしい水が見つかると思う」

「まあ、そうですか?」

 マリスは、にこにこと答える。

「じゃあ、お願いしますね」

 シャザーンはうなずいて、走り出す。その足がひどく速いのをみて、マリスは彼も辺境の住人だろうかと考える。

「レックハルドさんやファルケンさんや、ダルシュさんはどうしているかしら? 今はお仕事がお忙しいのかしらね」

 マリスは、空をみながら、ふと思い出した。

「ロゥレンちゃんもこないし、皆と一緒に辺境で遊びたかったのだけれどね」

 ロゥレンがやってくる気配はない。彼女は、きっと自分が辺境に来ているのに気付いているだろうに。シャザーンが去ってしまって暇になったマリスは、ぽつんと切り株にすわった。


 *


 ふらふらと飛んでくるうちに、かなり、火柱の近くまで来てしまっていた。

 禍々しい赤い色をして、炎はまっすぐに立ち上り、森の木々を赤く染め上げる。まだ火の勢いが収まらない。さすがのロゥレンも、少しだけ恐くなっていた。

 熱い。それに、下では気に燃え移った朱色の炎が蛇の舌のようにちろちろと光っている。

「ちょ、ちょっと近すぎたかな」

 ロゥレンは不安げにつぶやき、仕方なく空中で立ち往生した。レナルなどの狼人が消しにきていると思ったのに、火柱の周囲にはだれもおらず、そんな気配すらないのだ。

「ど、どうしよう」

 迷っているロゥレンの目に、突然赤い光がいっそう強く飛び込んできた。

「きゃあっ!」

 突然火が燃え上がり、危うくロゥレンの髪の毛を焦がしそうになる。ロゥレンは、反射的に体をそらしたが、翅の一部が木の枝に引っかかり弾かれる。魔力でできたそれは、その気になると実体化しないこともできるのだが、混乱している彼女にそんな細やかな調整はできなかった。

「ちょっ! いやっ!」

 ロゥレンはバランスを崩し、あっという間に宙に投げ出されてしまった。そのまま声も上げる暇もなく、垂直に落下する。下には炎と、まだ燃えていない緑の草が生い茂っている。

 だが、どすんとロゥレンが落ちた先は、草よりも少し固めで地面よりもやわらかいものだった。おまけに、うめき声と文句が下から聞こえてくる。

「い、いててっ、お前、どこから降りてくるんだよ」

 目を開くと、頭に巻かれた白い布と、濃紺の外套がちらりと見える。そのまま視線を移すと、細い目があきれたように彼女の方を見ていた。見覚えがある。確かレックハルドとかいう、ファルケンと一緒にいる商人である。

「妖精ってもっと軽いのかと思ったら、案外重いのな~。ちょっと痩せた方がいいんじゃね?」

 どうやら、受け止めてくれていたらしいが、重さに耐え切れず後ろに倒れたらしい。それは、感謝すべきことなのだが、ロゥレンはレックハルドの手が背に触れているのに気づいてあわてて立ち上がり、あとずさった。 

「きゃああ! 変態! 近づかないでよ!」

「変態だあ? いきなり人の上に落ちてきて、何だ! その言い草は! オレがせっかく無料でたすけてやったんだぞ! 感謝しやがれ、感謝を!」

 さすがにむかっとしてレックハルドも言い返す。命がけで助けてやったのに、変態呼ばわりなどされるいわれはない。ロゥレンは、少し赤面しながら、きつい口調で応酬する。

「あたし、助けてくれなんて頼んでないわよ!」

「はーん、じゃあ、オレの上に落ちてくるなよ」

 レックハルドは、軽く肩をすくめる。それから、彼独特の皮肉の利いた口調でしゃべりだす。

「そんなにいやなら、炎の上に落ちればよかったんじゃないのか? ちょうど、いいんじゃないの? 刀も曲がったら、火にくべて打ち直すだろ? あんたの性格も直るんじゃないのか?」

 にやり、とレックハルドは笑う。

「その前に、まあ、妖精の丸焼きができあがるだろうけどよ」

「なによ! その言い方!」

 ロゥレンがカッとして怒鳴りつける。レックハルドは身を起こしながらさらに面白そうに笑う。

「へへえ、怒ったのかい? 思ったより、繊細なんだなァ?」

「なんですって! どういう意味よ! あたしが鈍感に見えるって言うの?」

 精一杯むくれながら、ロゥレンはレックハルドに怒鳴りつける。だが、レックハルドは平気の平左といった顔をしている。

「なんてえかなあ。そんなに繊細な神経してるように見えなかったからよお」

「それは鈍感ってことでしょ! 大体、曲がってるってなによ!」

 レックハルドは、にやりとする。

「あれぇ? まさか、自分の性格が曲がってるのをしらねえとでも?」

「曲がってる、って、な、なによ!」

 あまりに強いレックハルドに、ロゥレンはつまりながら懸命に言い返す。そのさまが、また面白くてレックハルドはついついいじめてしまう。

「な、なによ! なによ! あたしの性格が曲がってるなら、あんたも相当曲がってるじゃない!」

「ふん、オレは生まれつきだからいいんだよ。もとよりこーゆー風になる運命だったのさ。だから、曲がってても平気だね。なおそうったって、なおらねえからな」

 レックハルドの言葉は詭弁に近かったが、なぜかロゥレンは反論ができない。完全に、ペースにのせられているのだった。

「もう、あんたなんか知らない!」

 つん、とロゥレンはそっぽを向く。

「知らなくって結構。別にお嬢さんに知ってもらったところで金が儲かるわけじゃねえからな。ん?」

 レックハルドはそう言い放ったが、不意に冷静になって周りをみた。言い合いに一生懸命になってしまって気づかなかったが、あたりの熱気はすさまじくなっていた。すでに二人の視線の先にある木がくすぶりだしていた。

 ここも危険だ。

「ちぇっ! 下手な言い合いで、無駄な時間をとっちまった。おい、妖精の嬢さんよ! とっとと逃げるぜ!」

「え?」

 ロゥレンは、はた、と気づいて急に体をこわばらせた。すでに歩き出そうとしていたレックハルドが、ロゥレンの変化に気づいて足を止める。

「どうした?」

「ひ、火、火が、火が……」

 ロゥレンの顔色は心なしか青ざめているようだった。だが、火の反射を受けて朱色に染まっていてはっきりとはわからない。

「火って、もうさっきから燃えてるだろ? ほら、煙に巻かれたらまずいからはやく。今は風向きがいいからぐずぐずしてられねえぜ」

 レックハルドが、ロゥレンの手をつかんだとき、ちょうど、ロゥレンのほうに火花が飛んできた。

「いやああ! 熱い熱い熱い!!」

 急にロゥレンは暴れだした。あわててどこかに飛んでいきそうだったので、危険に思ったレックハルドは、彼女の手をつかんで必死でそれを止める。 

「ちょ、落ち着けー! 落ち着けってばよ! あぶねえ! 冷静になれ、冷静に! 大丈夫、やけどしてねえよ! 火花ぐらいじゃなんともならねえ!」

「火は嫌いなのよ! どっか違うところ! 違うところに連れて行ってよ!」

 ほとんど半泣き状態で、ロゥレンは騒ぎ立てる。

「わかった、わかったから!」

 また火花がこちらに向かって飛んでくる。ロゥレンは悲鳴を上げて、レックハルドの背後に隠れた。レックハルドはしがみつかれて、危うく後ろに転倒しそうになる。文句を言おうにも、ロゥレンはどうやら本気でおびえてしまっているようだ。

(参ったな。まあ、他の狼人の連中の反応見てたら、こいつの反応も仕方ねえか)

 この炎嫌いの娘をどうやって外に連れ出すか。今、レックハルドが頭を悩ませるのはそこである。一人なら余裕で切り抜けられそうだったが、この娘を連れて行くとなると、炎のすぐそばは通り抜けられない。

(まったく、ファルケンのヤツ)

 困難に出会うと、いつものように、レックハルドはファルケンに責任を向ける。

(お前がしっかりしてりゃあ、こーゆーことにはならなかったんだぞ。後で、絶対代償は払ってもらうからな!)

 炎は燃え上がっている。炎を消そうといっていたレナルたちの姿もまだ見えていない。 そして、イェームも、まだこない。

(まったく、どうしてオレはこうついてねえんだ)

 いろいろと嫌気がさして、不意にため息が出る。

「仕方ねえな」

 レックハルドは、自分の長い外套を脱ぐとロゥレンの頭からばさりと引っ掛けた。いきなり、視界が闇に閉ざされたので、ロゥレンは、急に暴れだした。

「何するの! ちょっと!! 人さらいっ、妖精さらい!! 馬鹿! はなしてってばあ!」

 罵声を浴びせながら暴れるロゥレンを、頭から押さえつけながらレックハルドは大声で言った。

「ああ、もう! 暴れるなって! 火の粉が恐いんだろ? これなら、生地が厚いから多少は大丈夫だ。それに、大体、こんなところであんたをさらってどうするんだよ!」

「ホント? ゆ、誘拐するんじゃないでしょうね!」

「何馬鹿なこといってんだよ、あんたは」

 レックハルドはあきれ気味にため息をつく。

「あんた、市場であたしを売りそうだもん! 珍しい妖精とかいって!」

「ば、馬鹿にするなよ! オレは、そこまで身を落としちゃいねえぜ!」

 レックハルドは、少し言葉を荒げた。

「ホントでしょーね!」

「ふん、辺境の森の中でそんなことできる余裕あるかよ」

 ロゥレンは、しばらくぶつぶつ言いながら何か考えていたが、最終的に納得したらしくうなずいた。

「わかったわよ。あんたのこと、信用するわよ」

「最初から信用してほしいところだがね」

 レックハルドは、肩を軽くすくめた。

「じゃ、そのまま進みますよ、お姫様~」

「その言い方やめてよ! 馬鹿にしてるの?」

 ロゥレンがそのいかにも子ども扱いした口調に腹を立てるが、レックハルドは知ったこっちゃないといったような風情である。

「口答えすると、このまま置いてってもいいんだぜえ?」

 ロゥレンが、うっと詰まる。それを横目に、レックハルドは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「そうそう、静かにしてればいいんだよ」

 早くこの娘を安全な場所につれていって、それから戻ってきて何とかあの火柱を消す方法を見つけなければ……。

 レナルの奴は何をしているのだろう。それに、ソルに任せたファルケンも気になる。イェームがああいっていたのだから、多分大丈夫だとは思うが、それにしても。

 レックハルドは首を振る。思いをはせている時間はない。

 今日はどうにも忙しい。なんにせよ、急がなくては、炎に巻かれてしまってはいけない。

 ふと、背後から赤い光が走った。同時に何かが弾けるような音がする。レックハルドは反射的に、ロゥレンを引っ張りながら横に逃げた。

「なんだ!」

 振り返ったレックハルドは、思わず絶句する。

 先ほどまで彼らがいた場所は、いつの間にかすさまじい炎が立ち上っている。燃え移ったのではない。今、爆発でもするように突如として燃え上がった、といったほうが正しいだろう。そして、それは一箇所ではなかった。周りにも、いくつか紅蓮の炎が、彼をあざ笑うように広がっている。そして、徐々に進行方向にも……。

 まさか、先ほどまでちろちろとくすぶっていただけの場所だったのに!

「な、何だよ。これ! 何で……!」

 常識的には考えられない速さで、火が侵食している。さすがのレックハルドも、背筋がぞっとするのを禁じえなかった。

 まるで、オレ達が狙われているみたいじゃないか。 

「どうしたの?」

 ロゥレンが熱気とレックハルドの様子におびえたのか、細い声で聞いた。レックハルドは首を振り、額に浮かぶ汗をぬぐった。

「い、いや、なんでもない」

 大騒ぎするのがわかっているので、ロゥレンには言わない。

「先を急ごう」

 そういって、レックハルドはロゥレンの手を引いた。何かに見られている気がして、いやに気分がはやる。右手に短剣を握っている自分に気づき、レックハルドは苦笑いした。

(なんだよ、これじゃ)

 目の前をちらりと火花が走る。

(……オレが怯えてるみたいじゃねえか。)

 レックハルドは自嘲的に笑った。

 その通り、まさに今彼は怯えているのだ。

 また、後ろで何かが燃え上がる音がする。足が無意識に速まる。

 ――急げ!

 急かされるようにレックハルドは歩き出していた。



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