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サンタ・ルチア! 〜もしくはサタン・マリア〜

せっかくなので、聖ルチア祭によせて。

「マリアさんのお名前は、そちらの世界の聖女様から取られてるんですね」


 ある日の夕方、わたしとマリアさん、エドアルド殿下の3人は、焚き火を囲んでお話していました。


「まぁ、正確には聖母なんだけどね。ああ、そういえばさぁ、たしかあたしの世界にも“ルチア”って名前の聖女がいたわよ」

「そうなんですか!」

「うん、詳しくは知らないんだけどね〜。あっ、そういや前テレビでそのお祭りのことがやってたな。なんだっけ、たしか白いドレス着て、頭にロウソクつけてた」

「頭に……ロウソク、ですか?」


 それは、ちょっと危ない気がします!

 しかし、マリアさんのお話を聞いたエドアルド殿下は、ニコニコと笑いながらゴーサインを出してしまいました。


「白いドレスかぁ、やってみれば?」

「そうね! よし、行くわよルチア!」

「えっ、ちょ、待ってください! やるんですか⁇」

「白のドレスは何枚もあるから! さ、早く!」


 普段は着替えにわたしの手を借りないのに、一体どうしたんでしょう。ロウソク対応でしょうか?

 --そう、このときは思っていました。


「えぇっ! わたしが着るんですか!?」

「あたしが着てどうすんのよ。聖ルチア祭はルチアのお祭りでしょ? ルチアはあんた。あたしはマリアよ」


 馬車の中でドレスを広げたマリアさんは、その中の1枚をわたしに当てると、それを着るように言いだしました。


「これ、レースアップになってるから、多少サイズ調整できるわよ。つか、あんたのこの胸、ちょっとは寄越しなさいよ!」

「痛いです! 揉まないでください! だいたいマリアさんのドレス、わたしじゃウエスト入りませんよ!」

「なんのためにコルセットがあんのよ、あんたたちの世界。締めるに決まってんでしょ!」


 そう宣言して、マリアさんはコルセットを取り出します。


「それはマリアさんのですよ、使えません!」

「根性で乗り切んなさい! あんたとコルセットくらい共用できるわよ!」


 マリアさんは、わたしの服に手をかけると、抵抗する手をかいくぐって、どんどん脱がしていきます。なんでそんなに手早いんですか!


「わたしはそんなに華奢じゃないです!」


 引っ張られて肩が出てしまったワンピースを抑えながら、わたしは叫びました。

 マリアさんは骨格からして華奢です。二の腕も細くて、ウエストもくびれています。多少胸が大きいだけの普通体型なわたしに、マリアさんのドレスを着るのは非常に無茶だと思えました。


「締めればいける! ちょっと〜! セレス! あんた手伝いなさい!」

「やめてください!!」


 しかし火がついてしまったマリアさんはとまりません。

 マリアさんはわたしの服を引っ張る手をとめると、馬車の窓を開けました。そして、大きな声でセレスさんを呼んだのです。テントを張っていたセレスさんが、その声に振り返るのが見えました。


 わたしは一瞬で真っ青になりました。やめて、コルセット姿を他人ひとに晒すなんて、恥ずかしすぎて死んじゃいます!


「無理、ホント無理です!」

「あんたはやればできる子! さっさとコルセット着ないと、セレス来るわよ? ほら、近づいてきた!」


 ひ〜〜!!

 わたしは声にならない声をあげました。マリアさんはやると決めたらやる人です。つまり、ここで抵抗していても無駄ということです!


「セレス、ご褒美あげるわ」

「褒美……ですか?」

「セレスさん、来ちゃダメですよっ!」


 怪訝そうなセレスさんの声が聞こえて、思わず叫んでしまいました。


「ルチア?」

「いいからぁ、セレス入ってらっしゃい! 聖女命令よ! 今すぐ! 早く!」

「やめてくださいぃ〜」


 窓から身を乗り出すマリアさんを押しとどめるため、わたしはマリアさんの腕に手をかけました。マリアさんの向こうにセレスさんの顔が見えます。


「ッ……!!」


 目が合った瞬間、セレスさんの顔が真っ赤になりました。ものすごい勢いで顔をそらされます。


「はは〜ん、セレス、見たのね? なに見えた? イイもの見えたよね? 正直に言いなさいよ」

「いえっ、なにも……」

「言わないとこの姿のまま、ルチア外に出すわよ? 熊野郎ガイウスあたりに見られるかもね〜」

「マリアさんっ、やめてください!」

「なに考えてんですか!」


 わたしの悲鳴とセレスさんの怒声が被さりました。が、マリアさんはとまりません。


「うーん、セレスいじめるの楽しいわ〜」


 この場合、いじめられてるのってわたしじゃないんですか!?


 結局、わたしはマリアさんの手を借りつつもほとんど自力でコルセットを締め、どうにかこうにかドレスに身体を押し込みました。思ったよりドレスのウエストが緩められたのが幸いでしたね。はー、でも苦しいですね……。


「なかなかいいじゃ〜ん! どう? エド、可愛くない? あたしも着てみたの。白でお揃い!」

「マリアはいつも通り綺麗だよ。ルチアは……ほぉ、馬子にも衣装とはよく言ったものだな。それにしても、お前意外と胸があるんだな」

「聖女様はいつも通りお綺麗ですよ! ルチアは……なんかすごいね!」

「…………」

「あー、隊長サンには目の毒だな、これ。ほ〜れほれほれ、そっぽ向いてねぇで、見てみろや」

「兄さん、嬉々として揶揄うのやめてあげてください」

「聖女様、これはなんの騒ぎですか?」


 自分ではそこまで太ってるとは思っていませんでしたが、華奢なマリアさんのドレスを着ると、やっぱり太って見えるんでしょうか……。あ、セレスさんがチラッとこっちを見た挙句、やっぱりものすごい勢いで目をそらしました。そんなに見苦しいんですね……がっくり。


「んで、ロウソクね。どうついてたか覚えてないけど、五徳に刺すのって丑の刻参りだっけ?」

「ウシノコク?」

「あたしの国の呪いよ!」

「これは呪い師の真似なのか?」


 マリアさんは楽しそうにエドアルド殿下とお話されています。


「マリアさん……」

「勝手に脱いだらダメよ〜。たしかなにか食べ物配ってたんだよねぇ。なんだったかな〜」

「せめてロウソクは勘弁してください……怖いです」

「あー、それじゃ《光の球》!」


 マリアさんが光魔法で小さな光の球を頭上に浮かべました。


「あとはぁ、なんだっけ〜。プレゼント配るのは……サンタか。とりあえず夕ご飯配って、ルチア」


 マリアさんはご機嫌でケラケラと明るい笑い声をあげています。


「今日はガレットです。皆さん、中身なにがいいですか?」

「あたしぃ、ベーコンとチーズね! それに卵と〜キノコと〜アスパラ入れてぇ」

「マリアと同じでいい」


 リクエストを受けて夕ご飯の仕上げにかかろうとしたところ、頭の上から布が降ってきました。


「わっ!」

「夕飯、俺がやるから。ルチアはそれにくるまって待ってて」


 降ってきたのはセレスさんのマントでした。


「すみません、見苦しくて……」

「いやっ、そんなことはないよ! むしろ眼福って、いやいやいや! あのさ! とにかく、それ着てて!」

「セレスのえっち〜。ねー、エド」

「まぁ気持ちはわからんでもない」

「は? エドもおっぱい星人? あんなん脂肪の塊じゃん! サイテー。もうしらないっ!」

「あ、いやマリア!」


 喧嘩を始めたマリアさんとエドアルド殿下に、ガイウスさんが爆笑を始めて、レナートさんのたしなめる声がそれに続きます。

 そうして、いつもと違う夜は、やっぱりいつも通りに更けていくのでした。


 はぁ、ダイエットしましょう……切実に。

フ「セレスティーノ」

セ「団長」

フ「きみ、今日寝れなさそうだから、不寝番ね」

セ「え、俺昨日も……」

フ「寝れるの? アレ見た後で」

セ「……無理です」

フ「じゃ、そういうことで。若いっていいね〜」

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