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平凡シンデレラ!

シンデレラ:ルチア・アルカ

継母:西銘真理亜

継姉:エリク・アクアフレスカ

魔法使い:レナート・カナリス

御者:ガイウス・カナリス

王子:エドアルド・フリスト・バンフィールド

門番:フェデーレ・ブリッツィ、ジェレミア・アスカリ

騎士:セレスティーノ・クレメンティ

 よく晴れた、ある日のことです。

 王子様の結婚相手を決めるための舞踏会が開かれると、国中におふれが出されたという話を聞いて、マリアお義母さまは柳眉を逆立てました。


「舞踏会ぃ!? 対象は年頃の娘だけなの!? あたしだって若いわよ!」

「あはは、チャレンジしてみるとかどぉ? あ、ボクは面倒くさいしお断り!」

「面倒くさいとか言ってんじゃないわよ! この家の命運がかかってんの。あんたはさっさと王子落としてきなさいよ。ていうか、なんでこの完璧美少女なあたしが継母なのよ!」

「あの……家のためということでしたら、わたしも頑張ったほうがいいですか?」


 マリアお義母さまとエリクお義姉さまが喧嘩をはじめそうでしたので、つい口を挟んでしまいました。ダメです、地味なわたしより何倍も可愛らしいエリクお義姉さまのほうが、王子様の目に止まりそうですよね。


「舞踏会にあんたも行きたいってぇ? 仕事してから言いなさいよ! いいわね、この豆を灰の中からぜ〜んぶ拾い集めて、ピカピカにしたら考えてあげるわ! 悪く思わないでよね? あんたのためなんだから! お城なんて行くんじゃないわよ?」


 お義母さまは美しいお顔を背けると、火の入っていない暖炉の中へ豆を投げ入れました。麦とかでなくてよかったです。灰に埋もれたら麦は見づらいですが、豆なら灰を集めて篩うだけでだいぶかたがつきそうですね。


「いい!? あんたはお留守番! 王子の相手はこの子がするんだからね!」

「はい、わかりました」


 そうですね、わたしはお呼びじゃないですね。

 わたしはマリアお義母さまの言葉に頷くと、おとなしくお留守番をすることにしました。


 綺麗に着飾ったお義母さまとお義姉さまが連れ立って舞踏会へ行ってしまうと、お家の中はとても静かでした。

 頼まれた豆拾いも済みました。ついでに灰掻きもできて一石二鳥です。そろそろしなきゃと思ってましたし、きっとお義母さまはこのことを気づかせるために豆を撒いたんですね。


「いや、あの方はそこまで考えてないかと思いますよ」


 感動していると、背後から声がしました。


「あなたは……」

「私は騎士……ではなく、魔法使いです。ルチア嬢」

「あ、今はシンデレラって呼ばれてます。よく掃除のときに灰だらけになっちゃうんで」

「そうですか。ではシンデレラ。貴女にはこのドレスを着てお城へ行ってもらいます」

「え、無理ですよ」


 魔法使いさんは水色のドレスを取り出すと、綺麗なガラスの靴と共にわたしに差し出します。

 ですが、わたしはそれを手に取るのをためらいました。だって、あだ名の通りわたしは灰まみれなんですもの。


「見ての通り、汚れているので無理です」

「“シャボン”で綺麗になってから着るのはどうですか?」

「あ、それもそうですね。では……《シャボン》!」


 わたしは魔法で汚れを取ると、魔法使いさんからドレスを受け取りました。


「ですが、お義母さまの言いつけを破るのはためらわれます」

「大丈夫です。バレません、ご都合主義ですから。いいですね? 貴女が動かなければ話は進まない。殿下たちがお待ちです。お早くどうぞ」

「はぁ……」


 わたしは魔法使いさんに従って、ドレスを着ようとしました。


「あっ、ちょっと待ってください! さすがにここでは着替えないで! 私はまだ死にたくないです!」

「もちろんあの衝立の裏で着ますよ?」

「そ、そうですか……。いえね、ちょっと殺気が明後日の方向から飛んできまして。ええ」


 魔法使いさんは相当高名なんでしょう。命を狙われるなんて、国の存亡なんかに関わったりしてらしたんでしょうか?


 わたしは素早くドレスに着替えると、渡されたガラスの靴を履いて魔法使いさんの前に立ちました。


「この靴、ガラスなんで滑るんですが。絹の靴下ストッキングとは相性悪いです」

「我慢してください」


 靴の中でつるつる滑る足をなだめつつ、わたしは懸命にバランスを取りました。


「では、お次は馬車と御者の手配ですね。馬車は……この大きなカボチャにしましょう。って、なんでこのカボチャはおかしな顔がくり抜いてあるんですか!」

「あ、それは先月お義母さまと“ジャックオランタン”というものを作ったんです。中身はプティングにして食べました」

「それは美味しそ……いえいえ。本当に貴女たちは予想外のことをしますね!」

「ごめんなさい」


 怒りながらも、魔法使いさんはカボチャに魔法をかけて馬車にしてくれました。側面に顔がついてるのはご愛嬌です。


「魔法が使えるんですか!?」

「今回の私は魔法使いです。魔法使いは魔法を使うから魔法使いと言うんですよ。……では、次は馬と御者ですね! え〜い!」


 魔法使いさんが再び魔法を使うと、そこには馬車を牽く立派な馬が2頭と、馬につながる手綱を握る熊さんみたいな御者さんが現れました。


「魔法は12時には切れます。日付が変わる鐘の音が鳴る前に、必ず帰ってきてくださいね。では、兄さん。彼女をよろしくお願いしますよ」

「あいよ。ホラ嬢ちゃん、さっさと乗れや。出発しちまうぞ!」

「あ、はい! ありがとうございます、魔法使いさん!」


 わたしは魔法使いに頭を下げると、急かされつつ馬車に乗り込みました。

 ドアが閉まるか閉まらないかのタイミングで、馬車は勢いよく動き出します。待って、まだ座ってないです! 転んじゃいましたよ!

 そうして、わたしを乗せたカボチャの馬車は、舞踏会が催されているお城へと向かったのでした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 初めて間近で見るお城は、とても素敵でした。ぴっちりと隙間なく積まれた石造りの壁は、隙間風とは無縁そうです。


「あ、舞踏会に参加の方ですね」

「はい。よろしくお願いいたします」

「僕は門番のブリッツィと言います。あなたのお名前は……」

「おい、ナンパしてる場合じゃねぇぞ。オレらは門番。その人はもしかしたら王太子妃になるかもしれない候補者。触っていい人じゃないっつーの」

「く……っ、なんでまたモブなんだよ!」

「仕方ねぇだろうがよ。あ、通っていいですよ」


 仲が良さそうな門番さんたちに挨拶をして、わたしはお城の中へと足を踏み入れました。

 中は外よりもっと素敵です。各所に金や銀で壮麗な意匠が凝らされ、キラキラと煌びやかな雰囲気です。


「可愛い小鳥さん。よければ僕と1曲踊ろう」

「あの、わたしダンスは……」

「大丈夫、僕がリードするよ。ね、いいだろう?」


 あまりの豪華さにぽぅっとしていると、近くにいらした男性からダンスに誘われました。プラチナブロンドにエメラルドの瞳をした、とても整った容貌をした方です。まるで王子様みたい。


「って、もしかして王子様ですか!?」

「うん? ああ、そうだね。僕はエドアルド・フリスト・バンフィールド。この国の王太子だ」


 さらさらのプラチナブロンドの上に輝く宝冠に、わたしはざあっと青ざめました。


「無理です、畏れ多いです!」

「僕の誘いを断る方が不敬だと思うけど?」

「そうでした!」

「じゃあ決まりだね」


 王子様に手を引かれてダンスホールの真ん中へ進んだとき、急に12時の鐘の音が鳴り響きました。


「えっ、まだそんな時間では……」

「すみません王子様! わたし帰らなくちゃ!」

「待って、まだ名前すら……」

「名乗るほどのものではありません! あっ、ホラ、あの方とかどうですか? とっても美人さんですよ!」


 わたしは近くでこちらを見ていたマリアお義母さまを推すと、慌てて来た道を戻ります。ガラスの靴は、本当に滑りやすいですね。走りづらい!


 そんな滑りやすいガラスの靴と、磨き上げられた大理石の階段は、相性最悪でした。

 ツルッと足を滑らせたわたしは、階段の下へ真っ逆さま! ……なはずだったんですが。


「危ないっ!」


 詰襟の隊服をきっちりと着込まれたイケメンさんが、落ちかけたわたしを抱きとめてくれたので、九死に一生を得ました。


「よかった……」

「ありがとうございます。でも、わたし急いでるんです。ごめんなさい!」

「あっ……待って!」


 イケメンさんに呼び止められましたが、魔法使いさんからお借りしたドレスが消えてしまっては大変です。

 わたしは一目散に逃げ出しました。


 ※ ※ ※ ※ ※


「王子様がさ〜、あの日会った人を探してるらしいよ!」

「そうなんですか」


 そのお話をもたらしたのは、エリクお義姉さまでした。


「玉の輿だけど、王太子妃なんて面倒くさいよね! 選ばれた人、可哀想に。ボクはごめんこうむるよ」

「たしかに、色々大変そうですよね」

「なんでもガラスの靴を手がかりに探してるんだって」


 ガラスの靴!

 わたしは青ざめました。ダメです。王太子妃とか、無理ですよ。

 ここはお部屋に隠してある片一方のガラスの靴をこっそり処分して、知らないふりをするのが得策でしょうか。

 ああ、でもお家のためにはよくない、ですよね……う〜ん。悩みます。


「すみません、ここに舞踏会へいらした娘さんがいらっしゃると伺ったんですが」


 悩んでいると、玄関の呼び鈴とともに男性の声がしました。


「はい、いらっしゃいませ」

「! 君は!」


 ドアを開けると、そこにはきっちりと騎士団の隊服を着たイケメンさんがいらっしゃいました。あれ、どこかで見たような……? でも、騎士様なんて知り合いにいませんしね。


「ずっと探してたんだ!」

「ひっ、人違いです! ガラスの靴とか知りません!」


 逃げようとしましたが、手首をがしっとつかまれてしまって、逃げるに逃げられません!


「脚は平気だった?」

「脚……ああ!」


 そうでした。あの夜転びかけたときに助けてくださった人ですよ! そりゃ見覚えもあるってものです。


「あの日はありがとうございました」

「いや、君に大事がなくてなによりだよ」


 イケメンさんはとてもいい人のようです。イケメンで性格もいいとか、すごいですね。


「でも、どうして我が家に?」

「殿下の命令でとあるお嬢さんを探してたんだ。ガラスの……あっ」


 そう言うと、イケメンさんは手にしていたガラスの靴を見ました。つられてわたしもそれを見ます。


「…………」

「…………」


 居心地の悪い沈黙が降りました。これは……バレてますか⁇


「まぁ! わざわざ我が家へようこそ! あがって!」


 困っていると、マリアお義母さまの朗らかな声が響きました。魔法がとけるように固まっていたイケメンさんの表情が動きます。


「ちょっと待っててね」


 優しい笑顔を浮かべたイケメンさんは、ガラスの靴を持ってマリアお義母さまのところへ歩み寄りました。


「殿下のご命令で、あの日ダンスを踊った女性を探しています。このガラスの靴を履いてみてください」

「あたしが!?」

「はい」


 イケメンさんの申し出に、マリアお義母さまは手近にあった椅子に座ると、ツルツルとしたガラスの靴に足を入れました。お義母さま、それ滑りますから気をつけてくださいね!


「ぴったりですね!」

「いや、どう見てもゆるゆるでしょ! あたし、足は小さいの。いっつも靴探すの苦労するんだから」

「あ、手が滑りました」


 ガシャン!と、床に打ち付けられたガラスの靴は、粉々に割れてしまいました。


「ガラスは滑りますね」

「いや、今あんた叩きつけてたでしょ」

「なにか? さあ、行きましょう。殿下がお待ちですよ」


 靴を割ったイケメンさんは、しれっとお義母さまを立ち上がらせると、玄関の方へと連れて行きます。


「ああ、君。君も来てくれるかな」

「わたしですか!?」

「はい」

「いえ、わたしは……」

「俺が用があるんだ。さあ、お嬢様、馬車へどうぞ。君は僕の馬へ」

「ちょ、ルチアは関係ないでしょ!?」

「ルチアっていうんだね。可愛い名前だ。俺はセレスティーノ・クレメンティ。ぜひセレスと呼んでくれ」


 イケメンさんは、マリアお義母さまを馬車へ押し込むと、わたしの手をつかんで足早に馬の方へ進みます。


「ルチア、あんたどこでなにしたのよ!」

「あの、ちょっとお城に……」

「だから行くなって言ったのに! セレスとエンカウントしちゃったじゃないの!」

「失礼ですね。さあルチア、行こうか。このお嬢様を殿下に預けたら、その足で神殿へ」


 馬に乗るのをためらっていると、胴に腕を回されて強引に引き上げられました。待って、神殿って、なにする気ですか!


「待ちなさいよ! あんたにルチアは渡さないわよ!」

「なにかおっしゃってるようですが、聞こえません。殿下が首を長くしてお待ちなので、もう出発します」

「このロリコンっ! 変態! 未成年に手を出したら逮捕されるんだから!」

「婚姻を結ぶのは何歳からでもできるんですよ、この国は」

「本編ではヘタレのくせに〜〜!!」


 怒り狂うお義母さまには動じず、セレスさんは馬車を出発させました。


「ごめんね、手荒な真似をして。でも、逃したら君とは2度と会えなくなりそうで」

「あの……」

「まずは神殿に行こうか。話はそこで。聞いてほしいことがあるんだ」


 そうしてお義母さまは王太子妃として、わたしはセレスさんの……奥さんとして、幸せに暮らしました。


 おしまい!

ブクマ1万記念。

読んでくださって、本当にありがとうございます!


そしてシロを出し忘れました。

話はペロー版のシンデレラをベースにしています。グリム版はちょっと長かったので……。

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