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第一話 カメラオブスクラ ③

 世界は技術的特異点を越え、新しい時代が幕を開けた。時代を象徴する3つの出来事がある。1つがC・Oの誕生。2つ目に神経接続による人間と機械の融合の実現。そして3つ目が自身で考え感じ行動できる人型機械、ヒューマノイドの誕生である。

「得意でしたよね」

 現在、イノウエと八咫烏がいるのはタテの長さは23.77m、ヨコの長さは8.23mで区切られ、短く刈りそろえられた芝生の上。グラスコートと呼ばれるテニス用のコートである。

「まぁテニス部ではあったね」

「じゃお願いします」

 言いながらイノウエは飄々とした足取りでコートの外へ、脇に設置されたベンチに座り暢気にペットボトルのお茶を飲み始める。そして少女の声で。

 スタート!

「……確かテニス用ヒューマノイドのハイレベル設定ってプロ用だったよな」

 そう呟いた八咫烏の右頬を200km/hのテニスボールがかすめていく。冷や汗が落ちる。

 フィフティーン・ラブ!

 再び少女の声が現状を教えてくれる。

「1ゲームとるだけでいいみたいですよー」

「その1ゲームとるのがどれだけ大変か!わかってんのか!」

 イノウエにひとしきり怒鳴ると八咫烏は正面に立つ女性型ヒューマノイドの姿をしっかりと見据えた。身長は170cm前後、自分よりも低そうだ。体重もおそらく50kg程度だろう。機械といえど中に詰まっているのは人工知能と制御システム、強化有機金属と人口筋肉だ。軍事用でもない限り無茶な動きは出来ない。出来るのは人間と同じ動きのみ。

「でもテニスって!人間のっ!スポーツだからなっ!」

 人間と同じ動きが出来るのならば人間のスポーツをやるうえではなんの支障もない。八咫烏と彼女との間にある差は男性と女性の差程度しかないのだ。

「意味のわからんこと言ってないで頑張ってくださいよー」

「テメー!人が全力疾走して球追っかけてるときに本なんか読んでんじゃねーよ!てか見ろよ!」

 サーティ・ラブ!

「負けそうっすねー」

 八咫烏はすでに肩で息をしている。彼は学生時代テニス部に所属し大会での優勝経験もある。真面目に打ち込んでいればプロになることも出来ただろう。

「ふんがっ」

 200km/hで打ち下ろされるまっすぐのサービス、それは教科書通りの動きで針の穴を通す正確さ。まったく同じ位置に、まったく同じタイミングで。八咫烏のラケットが中心でボールを捕らえた。そしてそのまま吸い込まれるようにコート隅へ。

 サーティ・フィフティーン!

 イノウエが口笛を吹く。

「おおーやるじゃないすか。現役時代なんでモテなかったんすかね」

「一言余計だよ!」

 そこからは簡単なものだった。同じことを繰り返せばいいだけ。といっても高速で打ち下ろされるサービスを逆サイドに正確に打ち返すのは容易なことではないが、八咫烏にはそれが可能であった。

 ゲーム!ウィナーヤタガラス!

 その少女の声が流れると機械の少女の動きも止まる。

「なんだか期待はずれでしかが、時間はかからずにすみましたね」

「もう突っ込む気にもなれんが、まぁあくまで練習モードだったってことだな。同じ動きしかしないなら負ける道理はないよ」

「そうですか。ところでなんでモテなかったんですかね」

「……次は」

「次が最後ですよ。きさらぎ地区にある工場跡に行きましょう」

 イノウエがベンチから腰をあげ、ズボンを叩く。ついてもいない埃を落とした。気分か習慣か。

「入れるのか?あそこ私有エリアだろう。パスコードが必要なんじゃないか?」

「必要ありませんよ。ずいぶん前に管理していたフィッシャーマンズカンパニーは権利を放棄していますし、その後も誰の手にも渡らず放置されています」

 イノウエは目の前に浮かび上がった半透明のモニターを見ながら同じく半透明のキーボードをタイプする。

「さ、移動しますよ」

 目の前に「ゲート」が現れる。C・Oの移動手段である「ゲート」はアドレスを打ち込むだけで誰でも使用可能でどこにでも自由に行くことが出来る。がそれは許可された範囲内のことであり、許可されていない場所には当然入ることは出来ない。なので会社で使用しているオフィスであったり、プライベートに私用する目的の空間であったりする部屋にはパスコードや特別な許可が必要である。

「いったい工場跡で何をやらされるんだろう……。ちょっとわくわくしている自分がいるのが怖いね」

「なにぶつぶつ言ってるんですかー」

 イノウエは身体を半分ゲートに入れている。なので半分は別空間に移動しているため、こちらからは半分しか見えない奇妙な状態である。

「はいはい、行きますよー」


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