表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第一話 カメラオブスクラ ②

「それで、いまから飛べと。そういうわけなの?」

 八咫烏は疑うように目を細めイノウエを見る。

「そんな目で見られましてもね。僕も噂を聞いただけなんで」

 時刻は深夜3時を回ったところ。場所は日本エリア内の日本C・O管理局(JCCO=Japan Camera Obscura office)が公式に管理運営している部屋のひとつである霧雲公園に来ていた。霧雲公園の敷地面積は1750,000㎡。日本一有名な遊園地や上野動物園が3つ入る。巨大遊泳施設を初めとした様々なスポーツ施設があり、この場所で出来ないスポーツはないと言われている程だ。が、開発当初こそ賑わっていたものの次々に新しく開発され人のアイディアの数だけ生み出されていく様々な施設に話題は流れ、現在は閑古鳥が鳴いている。

「ユー助さんが言うには結構条件が多くて、会うまでに10時間以上かかったそうです」

「……これユー助情報なの」

「そうですね」

 八咫烏は現在膝上丈の海水パンツ一丁という姿。O・Cの中では指先ひとつの操作で着替えも容易に可能だ。更衣途中に裸になってしまうということもない。

「……結構高いよ?」

「そりゃ10mありますからね」

 深夜のプールの飛込台の上にいい大人が2人立っていた。

「たしかに今時ゴーストなんて珍しいけどさ、古いMMORPGのクエストじゃないんだからさ、会うための条件ってなんなの?どういうシステム?クリアしたら伝説の剣とかもらえる?」

「別に無理にやれとは一言も言ってないですよ。あと剣はもらえません」

「わかってるよー!嫌いじゃないぜこういうの。障害が多い方が恋は燃えるっていうしね!」

「じゃあ」

 イノウエは前方を指差す。その先には地面はない。一歩踏み出せばそこは天国も地獄もなく10m自由落下が待っている。

「おっしゃー!」

 八咫烏が飛ぶ。3本目の足もなく。背中に黒い翼もない彼は、悲鳴を残して視界から消えた。

「……まじで飛んだよ。あの人のこういうバイタリティはほんと尊敬できるね」

 覗きこむ。玩具のゴム人形のような大きさの八咫烏が水飛沫を飛ばしながら手を振っている。派手に着水した割にはどうやら無事らしい。

「無事なんですねー」

「なんだか無事じゃないほうがよかったみたいに聞こえるんだけどー!?」

 八咫烏の声はよく通る。どんな人ごみの中でもカクテルパーティー効果のように彼の声だけは不思議とよく聞こえる。人気のない深夜のプールでは誰の声でもよく聞こえるが。

 八咫烏が両手を大きく掲げこっちへ来いとアピールしながら言う。

「おいイノウエ!お前も飛べ!」

 イノウエからの返答はない。というよりはすでに八咫烏の視界から消えている。

「おーーーーい。……あいつどこ行きやがった」

「お疲れ様です」

 イノウエはすでに地上へ。八咫烏の背後、プールサイドに服装はそのままに立っていた。

「いやいや、なかなか無様なカラスでしたね」

「生身と同じ身体なんだから当然だろ。いや、無様ではなかったろ」

 イノウエの近くまで平泳ぎで進むと手を上げる。引っ張ってくれの意思表示。

「手が濡れるんで」

「えぇ……」

 八咫烏は軽くため息を漏らすと両手をプールサイドにつけ、自身の身体を持ち上げる。

「で、これで条件の一つはクリアできたのかね」

「まぁおそらく」

「おそらくかよ」

 イノウエが指先ひとつで中空から取り出したバスタオルを八咫烏に手渡す。優しさというよりは半裸の中年男性の裸を注視したくないという気持ちからのものだが。

「MMORPGのクエストじゃないんで、条件達成みたいなアイコンはでませんから」

「なんだか意味のないことをしている気分だよ」

「意味、あるんですか?」

「美人に会えるんだろ?」

「……ゴーストですけどね」

「今となっては珍しいからねー。それに興味あるんよ。……自立型思考AIってのに」

「あるじゃないですか。そこらじゅうに」

「あんなんじゃダメなんだよ。規制下でしか動けないようなロボットじゃ」

「……アイザック・アシモフですか」

「そそ。第一条」

 八咫烏が指を1本立てる。

「……ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」

 答えるのはイノウエだ。

「第二条!」

「ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない」

「第三条!」

「ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない」

「お前も好きじゃないの」

 濡れた頭から飛沫を飛ばしながら八咫烏が薄く笑う。

「いや、もう常識ですよ」

「でもこれを作ったのが1990年代の人間だなんて、もう殆どの奴が知らない」

「教科書に載ってましたけど」

「……そういうことを言ってるんじゃないんだよ。とにかく!……もういいや。次いこう。次は?何?ユー助情報なのは癪だけどしたがうよ」

「次は八咫烏さんの嫌いなロボットと戦わなきゃならないみたいですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ