昨晩の2人。
「だから俺と,共犯友達,しませんか?」
そういうと,小春はきょとんとした顔をして,瞬の顔をジッとみつめた。
「・・・・共犯友達って・・・・・何するんですか・・・・?」
瞬はニコッと笑って答えた。
「俺が柴木と岡田と3人で仲よくやっていくためには,不器用な岡田と鈍感で無愛想な柴木の仲を,うまく取り持つ,いわば真ん中に立つ人でなければいけなかったんです。そうしなければ,このうまい具合に均衡の保たれた関係を奴らと続けていくことなんてできない。・・・・・わかるでしょ?」
「・・・・・はい。」
「俺,本当は全然優しいジェントルマンなんかじゃない。薄々気が付き始めたんじゃないですか?」
そういうと,瞬はふぅ,と息を吐いた。
「でもその均衡は,想定外の小春さんの登場によって破られてしまいました。
・・・・だってそうでしょ?岡田のポディションにいたら誰であろうと,動揺するでしょ。明らかに両想いみたいだし。」
「・・・・・そうかもしれませんね。両想いかどうかは置いておいて。」
「案の定岡田は突然キスをするという暴挙にでてしまった。」
「・・・・・ええ。それで,あなたは次に,なにをするんですか?人の恋路を邪魔して。・・・・・私,今日は本当に,女友達とくる予定だったんですよ?予定が狂ってしまっただけで・・・・。」
「でも,おそらく柴木は,俺の送ったメールをみて,小春さんに彼氏がいると思うでしょうね。」
小春は徐々にイライラしてきていた。瞬の性格の悪さや豹変ぶりは,あまりに意外すぎた。きっと瞬の友人,誰もがこのを悪い方の顔を知らずに付き合っているのだと思うと,なんだかとても嫌な感じがした。
「そして,落ち込んだ柴木に付け入るように,岡田は柴木を誘うでしょうね。」
「・・・・本当に,何がしたいのかさっぱり分かりません。相沢さんは,麻衣さんのことが好きなんでしょう?なら・・・・・・」
「だから,さっきも言ったじゃないですか。大人の恋は,純粋なだけじゃ叶わない,と。ただ想い続けるだけで,あの柴木や,あの岡田を,落とせると思いますか?・・・・・そんなの無理なんですよ。たとえあなたが幼馴染であったとしても。特別な関係であったとしても。」
瞬は崩れかけた笑顔を作り直し,続けた。
「俺はずっと窺っていました。柴木と岡田をくっつける機会を。
・・・・・奴らはたぶん,俺たちがどれだけ努力しても,いずれ一度は恋人関係になる運命だったんですよ。それは間違いないです。だったら,さっさとくっついて,さっさと別れて,さっさとこっちを向いてもらった方がいい。」
「・・・・理屈は分かります。・・・残念ながら。でも,他にも方法があったんじゃないですか?」
「・・・・じゃあ聞きますけど,小春さん,柴木と両想いである可能性が高いことを分かったうえで,何もしようとしなかったですよね?
・・・・・あなたが鈍感な柴木から告白されるのを,こんなになるまで待っていないで自分で動いていれば,さっさと片付いたと思いません?」
痛いところを突かれて,小春はうつむいた。
そして,瞬に言った。
「・・・・あなたが最低だ,ってことはよく分かりました。
そして,駆け引きがうまいことも,この先に起こることを予測するのがお上手だということも分かりました。
・・・・・・だからやります。あなたと,共犯友達。」
瞬はニコッと笑った。
「ありがとう。助かるよ。」