残された2人。
「大人の恋」って,おそらく本物は,高校生がやっているようなことと,大差ないんでしょうね。でも,私めが思い描く大人の恋は,もっと,・・・・・こんな感じなんです(笑)
「追いかけて!」
反射的にそう叫んだあと,小春は大きく後悔した。
諒助は「お,おう」と納得いかないような返事をしながらも,麻衣を追いかけて居酒屋を飛び出していった。
・・・・どうしよう,麻衣さんもりょうちょんのこと好きっぽかった・・・・。
しかし今更外に出て,「やっぱり追いかけないで!」などと言えるわけがない。
「・・・・よかったんですか?柴木をいかせて。」
頭が真っ白になりかけた時,ななめ向かいに座っていた相沢・・・・瞬,に声をかけられる。
「小春さん,柴木のこと好きなんでしょ?」
「・・・・まあ,あたりまえですよね。」
そう答えると,瞬は自虐的に笑った。
「そう。柴木のそばにいて,柴木に惚れない女性なんていないんですよ。」
「・・・・・?それって・・・・」
「小春さんもなんとなく気が付いたでしょうけど,岡田も柴木にべたぼれッスよ。」
「・・・・ですよね・・・。で,相沢さんは,麻衣さんに?」
「ハハ八ッ,まあこれも,当然ですね。」
こんなに良い人なのに・・・・。と小春は思う。
「失礼かもですけど,どう考えても相沢さんの方がモテそうですけど・・・?」
思ったままに口に出すと,瞬はまた,ははは,と笑った。
「そうですね。実際会社で告白された回数は俺の方が多いかもしれないですね。・・・でもちがうんですよ。わかるでしょう?なんとなく。」
小春は曖昧にうなずいた。わかる気もするし,理解しきれていないような気もする。
「俺と柴木は,入社してからずっと仲良いんですよ。常に一枚岩・・・みたいな。
だから必然的に,俺と仲よくなりたい女性は先に柴木に近づいて,逆に柴木と仲よくなりたい女性は,まず俺に近づいてくるんです。ホラ,親友の友達なら,警戒心とけるでしょう?」
「たしかに,そうですね。」
ずいぶんと勇ましく,そして頭の良い女性たちだと思う。しかし,きっとそれくらいの事をさらっとやってのけるくらいでなければ,良い男性を捕まえることなど,到底むりなのだということだろう。
「始めはね,俺と仲よくなりたいからって,柴木に近づく人の方が多いんですよ。俺,社内ではどうやらジェントルマンで通っているらしくて。」
どうやら,ではなく,明らかにジェントルマンとよぶにふさわしい人ではないか,と小春は密かに思った。
「でも,俺に告白してくる前に,柴木におとされちゃう人がだいぶいるみたいですね。情けないことに。」
「でもりょうちゃんて,そういうのにすごく疎くないですか?たとえ相沢さんに近づきたくてりょうちゃんと仲よくなっても,絶対に相沢さんまでたどり着けないですよね・・・・?」
「そうですね。だからこそ,そんな不器用で馬鹿な柴木に惚れちゃうんじゃないですかね?まあ,知りませんけど。」
2人でクスクス笑っていたところで,テーブルに置いてあった小春のスマホが,
ヴヴヴッ,と音を鳴らした。
覗き込むと,柴木からメールだった。
「あ,りゃうちゃんからメールでした。」
「ははは,ならよかった。」
「ですね。」
そんなことをいいながら開いたメールの内容に,愕然とした。
小春のおかしな反応に気が付いた瞬が,「どうかしました?」と声をかける。
「・・・・りょうちゃん,麻衣さんのこと,家まで送るって・・・。」
「え・・・・・あ,ああ,そうですか・・・・。」
お互いの好きな人同士が,どうにかなってしまうかもしれないのだ。正直,とても複雑な関係だ。
「ちょっと,スマホ貸してくれません?」
ふいに瞬に頼まれて,何も考えずに言われたまま,小春はスマホをさしだした。
「なぜ?」とか,「何をするの?」とか,そんなことすら考える余裕がなかった。
小春からスマホを受け取った瞬は,すぐさま何かを打ち込み,タップをしたと思ったら,すぐに小春に返した。
返されたスマホをのぞいて,小春はハッとした。
「あ,相沢さん,これ送ったんですか・・・?」
相沢が送ったメールは,先ほど柴木からきたメールの最後についでのように書かれていた質問に対する答えだった。
「こ,これじゃあ私に彼氏がいる,って言っているようなものじゃないですかっ!」
必死の抗議も虚しく,すでにメールは送られた後だ。
「・・・・小春さん。大人の片思いは,純粋なだけじゃ実らないものらしいですよ。」
瞬は一言そういうと,グラスに残った酒を飲みほした。
「だから俺と,共犯友達,しませんか?」
これは,諒助と麻衣が,のんきに二人で風呂に入っていたころのことである・・・・。
「だから俺と,共犯友達,しませんか?」・・・・って,「ついに本性表したな!この野郎♡」ってかんじしません?
・・・・・そんなかんじで,もうすぐ早くもクライマックスきそうですね。