5-1 決戦の地へ
五章 最終決戦
「目的地はギーグ山のふもとだったわね?」
決意を新たにした表情で、アスカは確認するように聞いてくる。
「うん、そうだよ」
僕は首を縦に振り答える。
太陽はまだ顔を出していないが、東の空は徐々に明るくなっていて、どうやら僕は結果的にこの森の中で一夜を過ごしてしまったらしい。
周囲の景色も徐々に明るくなってくるにつれてお互いの表情もはっきりと見えるようになる。「ナナ? 大丈夫か?」
決意の凝り固まった表情をしてはいるものの、表情の節々からナナが無理をしていることはひしひしと感じる。
「うん。もう大丈夫だよ。その悪魔を倒したら今度こそユウヤは元の帰れるんだよね。頑張ろうね。きっと大丈夫だよ。アスカさんの魔法もあるし、治療しながら戦えば私たちが負けることはないはずだよっ!」
それでもナナは、僕に心配をさせないようにと懸命に笑顔を作って答えてくれた。
きっとナナも内心不安で仕方がないのだろう。
それでも僕は一緒に戦う仲間のひとりとして、ナナの作戦に意見を挟ませてもらった。
「いや、その戦法は無理だよ。もしサマンサがアスカの治癒魔術の存在を知ったら、間違いなくアスカを集中的に狙ってくることになる。だからこそ、僕たちはサマンサの意表を突くために、奥の手であるアスカの魔法をできるだけ隠しておかないといけない」
「そうね。あたし達が取れるアドバンテージは、その悪魔がが治癒魔術の存在を知らないこと。だから、あたしの魔法を使う時は相手の虚を突く時じゃないとダメ。無闇に回復したところで、回復が追いつかなかったらジリ貧になるだけよ」
いたって平静な口調でアスカが僕の言葉の続きを述べる。
「そっかあ……でも、大丈夫! 根拠はないけど、多分大丈夫!」
厳しい現実を突きつけられてもなお、ナナは拳を固めて気合いを入れてみせる。
「うん。そうだね。僕もそう思うよ。根拠はないけど」
本当に根拠はないけど、なんだか力が沸いてくるようなそんな気分だった。
「ええ、そうね。あたしも大丈夫な気がしてきたわ。根拠はないけど」
そんな僕たちのやりとりを、マリヤはただ眺めていた。
それからも僕たちは明るい雰囲気を保ったまま歩き続け、前にイヴを倒した北の山のふもとまでやってきた。
「あの洞窟だ」
山のふもとの崖にぽっかりと空いている洞窟。昨日も見たときは何も感じなかったのに、洞窟の奥に眠る邪悪な気配が感じるような気がした。
「そう。あれ。あそこに本当の敵がいる」
ここまで黙っていたマリヤが洞穴の入り口を指さして言う。
あと少しで僕の奇妙な冒険が終わるんだ。いや、終わってしまうと表現するほうが正しいかもしれない。
少しでも迷いを見せたらサマンサに勝てないことはわかっている。だから僕はただ世界に危機をもたらす悪魔を滅ぼす、そのことだけを考えて一歩踏み出した。
「行こう。これがきっと最後の戦いだ」
改めて気合いを入れるために、小気味いい音とともに自分の頬を叩く。力の加減を少しばかり間違えてしまったせいで、頬が真っ赤に腫れてしまったが、それくらいは構わない。気合いは十分に注入された。
「ユウヤは相変わらずね」
そんな僕の姿を見て、アスカは呆れたように言う。
「だけどユウヤの気持ちもよくわかるわ。あたしにとって、この世界で過ごした時間は決して長いものではなかったけれども、この世界を滅ぼしていけないと思うくらいの愛着は沸いたわ。だからこそ絶対にこの世界を救いましょう!」
アスカは綺麗に整った顔を硬く引き締めて言う。
「ニールの仇。絶対にとろうね!」
ナナもそれにつられるように両手の拳を握りしめている。
「これで世界は救われるはず」
静かなマリヤの声にも確かな決意が伝わってくる。
最後の決戦へ向かうため、僕ら四人は揃って洞窟の中に足を踏み入れたのだった。
洞窟の中に入った瞬間に感じたのは異臭だった。実際に不快な臭いが漂っているわけではないのだが、なんとなく鼻を刺激する何かを感じた。
洞窟の奥に進むにつれて、どんよりと、そしてべっとりとした空気感が強くなってきた。
ギーグの山を登っている最中に感じたものと根本的には同じものな気がするが、それ以上に嫌な感覚が身体全体をくすぐっていた。
「なんか、やなかんじだね。ここ……」
ナナもその空気感を感じ取ったようで、あたりをキョロキョロと見渡しながら恐る恐る進んでいる。
「そうなの? あたしにはさっぱりね」
その一方でアスカは何も感じないらしい。
鈍感というか、たくましいというか、アスカらしいというか。
こういう空気の流れや根拠のない雰囲気などといったことを基本的には信用しないアスカだが、そのくせ場の空気を読むことには長けている。だから人付き合いも上手で交友関係も広い。
嫌な空気を身体全体で纏ったまま洞窟の奥へと進んでいく。
入り口のあたりは二人並んで通れるほどの道幅だったが、奥に行くにつれて四人で横に並んでも余裕なくらいの道幅になっていた。
ただ四人で並んでいても会話らしい会話はなくなっていた。
きっとみんな気づいているんだろう。重苦しい緊張感が僕ら四人の間に蔓延していた。
途中で何も感じないと言っていたアスカさえも、この異常な空気を感じ取って無言になっていた。
「この先」
その沈黙を破るように、マリヤが小さく呟いて洞窟の先を指した。
その先に視線を向けると、広場のような空間が見えた。そこは洞窟の中だというのに不自然なほど明るかった。
四人の間を包み込んでいた緊張感が最高潮まで膨れあがる。
それでもここで退くわけにはいかない。意を決するように、僕は小さく息を吐いて広場へと進んだ。
広場に足を踏み入れた瞬間、洞窟内に蔓延していた不快な空気感がさらに濃密になって襲いかかってきた。
そしてその空気を発していると思われる本人が、僕らが来たことに気がつくと姿を現した。




