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4-6 決意新たに

 墓地を後にして、ギーグ山へ続く林道へと戻ると、こちらへと近づいてくる二つの人影があった。

「ユウヤー!」

 体当たりをするような勢いで、ナナが僕の胸に飛び込んでくる。

 衝撃で、先ほど受けた傷が痛んだが、痛みを感じられるということが嬉しかった。自分が生きているということを実感できたから。

「アスカさんの魔法すごいんだよ。傷がすぐ治っちゃった」

 ナナは興奮気味に目を輝かせている。

 アスカの治癒魔法はこの世界には存在しない魔法だ。

 初めて見る時は誰だって驚くだろう。たとえそれが悪魔であったとしても。

「傷はもう大丈夫みたいだね。よかった。はい腕輪。ちゃんと取り返しておいたよ」

 サマンサが持っていった腕輪を、本当の所有者であるナナへと戻す。

「えっ。ホントに? あの仮面の人はどこ行ったの?」

 そう言って、ナナはキョロキョロとあたりを見回す。

「…………」

 ナナとは対照的に、アスカは少し離れた位置で無言で僕を見つめている。

「それじゃあ、事情を説明するね」

 そう切り出して、僕は二人に事情を説明した。

 ナナを襲った仮面の男はイヴを召喚した悪魔の大元でいずれは魔王と呼ばれる存在であること。こいつが何度もナナの腕輪を奪うために襲撃をかけてきたこと。ニールは仮面の男との戦いの途中で駆けつけてくれたが、その最中に命を落としたこと。そしてその悪魔は北の洞窟へ逃げ込んだこと。ニールの恋人リリィさんの体を乗っ取って復活を企んでいること。

 僕は間違ったことはなにひとつ言ってない。ナナを襲ったのはサマンサだし、今までの襲撃だって裏にはサマンサがいた。

 だからあれは全部サマンサのせい、それでいいと思った。その中にはわずかでもニールの意志が混じっているのかもしれないが、それは僕の中にしまっておこうと思う。

「じゃあ、ニールさんは……?」

 アスカは唇をわなわなと震わせる。

「うん」

 僕は小さく頷くことしかできなかった。

「嘘だよね……?」

 呆然とした表情でナナが聞き返してくる。僕は同じように小さく頷いただけだった。

 やがて僕の言葉が真実であることを察すると、二人は下を向いて黙ってしまった。

 アスカは懸命に涙を堪えているようだが、ナナの目からは涙が零れていた。

「この近くに共同墓地があってさ。ニールはそこに眠らせてきた」

「うっ……」

 ナナの声は涙声で言葉になっていなかったが、頷いたということだけはわかった。

 アスカはこれと言った反応を見せなかったが、ナナの意見を尊重するということなのだろう。

 無言のまま四人で歩き、リリィさんのお墓の前へと向かう。

 リリィさんの墓の前まで行くと、ナナは真っ先に墓の前に眠っているニールの存在に気がついた。

 ナナは先頭歩いていた僕を通り越してニールへと駆け寄った。

「ねえ、ニール! ねえ!」

 ニールの手を握りながら、ナナは顔をくしゃくしゃに歪ませて涙を溢れさせている。

 僕にはその光景を直視できず、ナナから目を逸らした。

「ねえ、ユウヤ」

 そんな僕の様子を見ていたアスカが横から話しかけてくる。

「なに……?」

 アスカはのど元までせり上がった言葉を発しようとして、結局飲み込むという決断を取った。

「いえ。何でもないわ……」

 僕とアスカは長い付き合いだ。そんなアスカだから、きっと気付いているはず。

 僕が二人に話した内容に嘘はいっさいないが、意図的に真実を少しぼかして話したということに……。

「あたしも、ニールさんに挨拶してくる。ユウヤはもういいの?」

「僕はいいよ。もう別れは済ませた」

 アスカはナナの隣に並び、ナナの肩を優しく抱いた。

「ニールさんありがとう。あたしはあなたと出会って数日しか経ってないけど、その数日はかけがえのないものだった。そして何よりもあたしの友人を守ってくれてありがとう」

 アスカはニールの身体を見つめて掠れた声で告げる。

「そろそろ行こう」

 僕の言葉に反応してアスカとナナが立ち上がる。

 振り返ったナナの目に涙はなく、決意を固めたように口を強く引き結んでいた。一方、アスカは涼しい顔をしていたが、その奥に眠る熱い決意はひしひしと伝わってきた。

 ――リリィさんを連れてくるまで少し待っててね。

 心の中でニールへ告げて共同墓地を後にする。

 いつまでも感傷に浸ってはいられない。僕らにはやらないといけない使命があるのだから。


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