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4-2 戦いの終わり、旅の終わり

「大丈夫? ユウヤ!」

 耳元から声が聞こえる。それは聞き慣れた声で、とても安心するナナの声。

「うん。大丈夫だよ。ナナ」

「本当によかった。アスカさんとマリヤちゃんから話は聞いたよ。ユウヤがこの世界の人間じゃないってびっくりしたけど、でもなんか不思議とすんなりと受け入れられたんだ」

「そっか……」

 目を開けると、ナナの顔が目の前に見える。どうやら膝枕をされていたようだった。ちょっと離れた所にアスカが立っていた。僕が寝ている間に合流したんだろう。アスカも僕が起きた事に気付いたようだ。

 太陽はちょうどてっぺんに登っているような時間帯で、柔らかな日差しが注いでいる。

「あっ、アスカとも合流できたんだね」

 頭の中がズキズキする。一気にいろんな情報を取り込んでしまったせいで、いまだ脳の処理が追いついていないのだろう。

 だけどその記憶の数々は紛れもなく僕のものなのだ。一度は奪われたものの、ようやく取り戻した僕の大切な思い出。

 そんなふうに考えたら、この頭痛すら愛おしく思えてくる。

「あら。目を覚ましたの? 戦いに参加できなくて悪かったわね」

 少し離れたところから僕を見下ろしていたアスカが言う。

「ううん。いいんだ。みんな無事だったし、僕ももう大丈夫だよ……」

 頭痛がだいぶ治まってきたところで、僕は地面に手をついてゆっくりと起き上がる。

「ちょっと、ユウヤまだ……」

「ナナ。もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 ナナの肩をぽんっと叩き。ゆっくりと立ち上がってゆったりとした足取りでアスカの下へと歩み寄る。

「戻ってきたよ」

「遅いわ。あたしに心配をかけさせるなんて、いい度胸してるじゃない」

「心配してくれたの?」

「あたりまえじゃない! だからこうやって――今は責めるのはやめましょう。おかえり、ユウヤ」

 妖艶に口元を緩めるアスカだが、目の端にうっすらと涙が溜まっている。

「うん。ただいま」

 僕は晴れ渡った快晴の空に向かって右腕を掲げ、天を突き破るように人差し指を突き出した。

 僕のその姿を見て、アスカは感慨深そうに目を伏せてから、僕と同じように人差し指を天に突き出す。

 天に突き出した二つの人差し指の腹がお互いに触れ合う。

「なにやってんの?」

 ナナの疑問を上げる声が、背後から聞こえる。

「これは、僕とアスカの勝利のポーズみたいなもんだよ。まあ考えたのは、僕たちじゃないんだけどね……」

「…………?」

 そもそもナナは僕とアスカの関係を知らないのだから、余計に混乱していることだろう。キョトンした表情で首を傾げている。

「誰かに勝った時とか、何かを成し遂げた時にこのポーズをするの。カッコいいでしょ。『あたし達が一番よ!』って主張するの」

「カッコイイ! 私も混ざっていい?」

「勿論よ。ナナちゃんもいらっしゃい」

 とはいえ、細かいことを気にしないのがナナの美点だと思う。アスカの説明を聞いて、ノリノリな感じで右手を掲げる。

ナナも加わって、三人で指を天に突き出した。僕らの指は、天をも貫く事が出来るんじゃないか? なんて馬鹿な妄想をしてしまうくらい気分が晴れやかだった。

 そういえば、この世界でアスカと再会した時、アスカは僕を見るなり人差し指を高く上げていた。おそらくはこのポーズをやろうとしたのだろう。記憶を失って忘れていたとはいえ、無視した形になってしまったのはちょっと罪悪感がわいてくる。

 腕が疲れて来たので、三人ともゆっくりと腕を下ろす。

「そう言えばさ、すっごい今更かもしんないけど、アスカってなんでこの世界にいんの? はっ! まさかアスカも通り魔にやられて、こっちの世界に来たとか!?」

「違うわよ。あたしは――」

 説明しようと声を上げたアスカだったが、その横からのっそりとマリヤがやってきて口を挟む。

「私が彼女を送り込んだの。ユウヤを送り込んだのはいいのだけれど、ユウヤの反応がすぐなくなった。だから、私は使命をまっとうするために、あなたの安否を確認するために親友であるアスカに声をかけた」

「僕の反応が消えた?」

「そう。あなたはイヴの手によって記憶を奪われた。その時に、あなたの身体にも変化があったはず。その際にあなたはこの世界の数年前にタイムスリップし、身体までも数年前に戻ってしまっていた。この世界とユウヤが元いた世界では生命体から発せられる波長が異なるの。でもユウヤは元の世界の波長を持ったままこの世界に来たからイヴに目をつけられた。この波長は人間には見る事が出来ないのだけれど、イヴのような悪魔や私のような存在になると、反応の違いを簡単に感じ取ることができる。

 そして、あなたは数年間この世界で暮らし、この世界に慣れ過ぎた結果、この世界の一員と同じような波長になってしまって、波長の違いからユウヤを探すのは難しくなったの。ユウヤとこの世界の人を判別する方法は一応あるのだけれど……、ナナ、私に触れてみて」

 マリヤがナナに向かって手を差し出すと、ナナは事態が飲み込めないながらも、言われた通りにその腕を掴もうとうする。

「あれっ?」

 しかしナナの手はマリヤの手を掴むことはなく、すり抜けてしまった。

「見ての通り、私はこの世界の人に触れる事が出来ない。色んな人に同じ方法を試し、実際に触れる事が出来る人間がユウヤと言うことになる。でも、これは面倒なうえに目立ち過ぎる。それにこの世界になれすぎたユウヤに触れられるかどうかもわからなかったの」

「でもでも、その波長ってのはよくわかんないけれど、ユウヤを見ればユウヤってわかるんじゃないの?」

「それは確かにその通りだけれど、この世界で再会するまで私はユウヤとほとんど面識がなかったわけだから、外見でユウヤを見分けられるとは思わなかった。そんなわけで、ユウヤと親交のあるアスカの力を借りることにした」

 マリヤがそう言ってアスカの方を見たので、僕とナナもアスカの方に視線を向ける。

 三対の瞳を向けられたアスカは、少し得意げに腕を組んで胸を張った。

「そういうことよ。あたしはあなたのお母さんにもちゃんと面倒見るように頼まれてるんだから、あんまりアホなことばっかりしてるんじゃないわよ」

 アスカの頬が少し紅潮しているように見えるのは、少しばかり照れがあるからなのだろう。

「悪いね。迷惑ばっかりかけて」

「無事なら全然問題ないわ。この場合、無事と言えるかはちょっと不明であるのだけれど……。とりあえずいつまでもうだうだしているわけにもいかないし」

「それじゃあ丁度いいし、ユウヤにいまのうちにもう一つ説明しておくわ」

 マリヤがゆっくりと口を開く。

「あなたにあげた憎しみを力に帰る能力。ようやく使えたみたいね。この前の洞穴では、能力に支配されていた感じだったけど。これでもう、憎しみに支配されることはない。これで、あなたの身体能力が飛躍的に上がる魔法が使える。その時は『トランス』と言ってくれればいい」

「それじゃあ、さっきも憎しみの力で身体を強化してたのか。でも、その力に理性が追い付いてなかったと……?」

「まあ、そういうことね。それじゃあ、話はこのへんにして戻りましょうか」

 僕とマリヤの会話が一段落ついたところで、四人はゆっくりと下山を開始する。ここで僕は一つ重大なことに気づいてしまった。

「ところで、ニールはどこいったの?」

「「「あっ!」」」

 三人とも驚いた声を上げてその場に立ち止まる。

「アスカさんと一緒じゃなかったんですか?」

 ナナがアスカを問い詰めるように視線を向ける。

「いや。違うわ。てっきりこっちにいるもんだと思ってたけど……」

「まあ、ニールだったら心配いらないよね」

 僕らよりもよっぽど腕の立つニールの心配を、僕らがするなんてむしろおこがましいだろう。

「そう言えば、ナナのその腕輪って結局何なの?」

 イヴと戦っていたときには輝いていたその腕輪は、今はその輝きが失われている。

「うーん……。なんか急にピカピカ光ってて、力が沸いてきたの。そのおかげで、難くて強い魔法も唱えれるようになっちゃった」

 首を捻ってナナが思案していると、横に並んでいるマリヤが疑問に答えてくれた。

「おそらく、その腕輪には魔力強化の効力がある。その腕輪を狙ってきたやつらはその効力に目が眩んだヤツら。ただ、今までのナナが使いこなせなかったように、その腕輪を使いこなすのには資格が必要。それでもイヴのような高位の悪魔だったら、きっと容易く使いこなすはず」

 横目でその腕を見つめるマリヤの瞳が憂いを帯びていることに、僕は気づかなかった。

 きっと自分の記憶が戻ってきたこと、その元凶を倒したことで完全に気が抜けていたのだろう。


「どう? 調子は?」

 山の中腹を通り過ぎたあたりでマリヤが話しかけてくる。

 下りのほうが楽なイメージがあるが、実際に下りてみるとわかるのだが下る時も普通に辛い。ヘトヘトの身体に鞭を打ちながら、僕は一歩一歩足を進めている。

 対してマリヤは平然とした調子で、足取りが乱れることもなく涼しい顔をしている。

「特に問題はないよ。記憶が戻ったってそうそう変わらないみたい。記憶が戻った時、自分のどんな秘密が明らかになるかちょっと恐かったけど……」

「そうね。でも、あなたは変わらないかもしれないけれど、アスカは少し変わったわ。ユウヤが気づいていたかわからないけれど、ユウヤが記憶を取り戻すまで、彼女はユウヤを一度も名前で呼んでなかったのよ」

 言われてみれば、アスカにはいつも「あなた」と呼ばれていた気がする。ただマリヤは気づいていなかったみたいだけれど、僕が記憶を取り戻す前に一度だけ僕を名前で呼んだんだ。

「今さらユウヤに言う必要なんかないかもしれないけれど、アスカは本来寂しがり屋。だから、いつぞや宿で、寝惚けてユウヤのベッドに侵入したりしたの。久しぶりにあなたに会えて感極まっていたのでしょう。寝惚けながらあなたの名前を何度も呼んでしまうくらい、彼女は感極まっていた。それと何度か一緒に寝てあげようか。と彼女は言っていたでしょ。ホントはユウヤと一緒に寝たかったのはアスカの方なのよ。そのへんの気持ちも察してあげて」

 僕とアスカとの付き合いは長い。ようやく取り戻した記憶の数々を探っても、あんな無防備なアスカは見たことなかったと思う。

「って言うか、なんであのときのことをマリヤが知ってんだよ!」

「私はなんでも知っている」

 それは妙に説得力の籠もったセリフだった。

ここ最近、何度も夢に登場した謎の女の子。それはアスカだったと思う。

おそらく記憶が奪われても、頭の奥底で彼女のことを忘れられなかったのだろう。もしくは忘れても、忘れられないほど、アスカとの思い出は強く心に残っていたのかもしれない。

 イヴをやっつけたことによって、悪魔騒動は一段落ついた。

 世界を救えば僕はこの世界に別れを告げ、元の世界に戻ることになる。それはすなわち、ナナや母さんとの別れとなるということ……。

 疲れた様子ながらも、笑顔を絶やさずに山を下るナナの横顔をのぞき見る。

 ずっと、このメンバーでこの世界の果てまで旅をしたかった……。でも、僕はこれからどうするのか、選ばなければならなかった。


 街の入り口に到着した頃には、空には朱色に染まっていた。

「よくやったな。これで、報酬もばっちりだ。と言っても、俺は何にも出来なかったから、お前らで適当に分けてくれ」

 その門の入り口のあたりで、先頭に立っていたニールが、申し訳なさそうに後頭部に手を当てながら言った。

 ニールとは、山のふもとの洞窟のあたりで合流することができた。

 ニールはイヴの手によって、ギーグ山の端のほうに見える森の中へ飛ばされていたらしい。樹海に近いそれを抜け出そうともがいていたが、想像以上に時間がかかってしまい、僕らと合流巣直前にようやく抜け出すことができたという。

 結局、力になれなかったニールは申し訳なさそうに何度も僕らに頭を下げていたが、不可抗力なことでニールを責めることもできるわけもなかった。

「さて、王様のところに報告に行くとするか。現場にいなかった俺じゃあ、きちんと報告できないから報告はユウヤの口からしてくれ」

 僕らは大通りを抜け、城へと足を通わせる。


「ほう。なんと! 北に潜んでいた悪魔を倒したと申すか?」

 謁見室では、昨日と同じように王様が玉座に大きな身体を納めていた。

 僕が北に居座っていたイヴの話、そしてそれをやっつけた話をすると、王様は目を白黒とさせて驚いた表情を作った。

 ニールの言いつけ通り、王様への報告は僕がやった。

「そうか。疑うわけではないのだが、証拠はあるのかね? その悪魔を倒したという……」

 忘れてたあああああああ!!!

 そう言えば、僕は証拠になりそうなものを持ってきてない。

 だって、仕方ないじゃないか。あいつミニデーモンとかみたいに灰になっちゃったし……。というか、そもそも倒した後に記憶が戻ったとかいろいろあったせいで、それどころじゃなかったし……。

 そんなわけで僕が頭を抱えていると、ナナがおずおずと手を上げる。

「あの、ちょっといいですか?」

 室内の視線が一斉にナナに向けられたとことで、手のひらからこぶし大くらいの大きさの宝石を取りだした。

「悪魔が灰になったところを調べてみたら、この宝石が落ちていました」

 その宝石は、イヴの肌の色を表すかのように、青く、そして濁ったような輝きを見せていた。

「いやあ、僕、こんなの落ちてたなんて、気付かなかったよ……」

「ユウヤはすぐ気絶しちゃってたからねえ。灰を見てみたら、なんか青いのが落ちてたから、拾ってみた。えへへ……」

 ナナは得意そうににんまりと僕に笑いかけて、王様に近くで見てもらおうと宝石を王様のもとへと持っていく。

「これです」

 王様がナナから真っ青な宝石を受け取る。

 その宝石を目線の高さまで掲げて、じっくりと観察してみせる。

「ふむ。なるほど。この宝石からははっきりと悪しき力を感じる。それも、かなり強大なものだ。わしは戦闘など出来ぬが、こういった力の流れとか悪意とかは敏感に感じ取ることができるのだ。しかし、この大きさと邪悪な感じを察するに、よほどの敵だったのだろう。なるほど、さすがはリンカ殿のお子さんと言ったところか……。さて、当然のことながら、褒美を取らせねばならぬな。お主が付けているその腕輪なんだが……」

「これですか?」

 王様の視線がナナの右腕に注がれたことで、ナナもその腕輪を掲げて見せる。

「そう、それだよ。それは元々この城の宝物庫に眠っていた代物なのだ。かつてお主の母上がおぬしと同じように功績を立て、わしの手から彼女に褒美として差し上げた。今回の報酬もその腕輪と同じようなものを用意している。リンか殿は『この腕輪にとある力が込められている』と言っていたが。わしたちではどの道使いこなせん。これはお主が役立ててくれ。きっと腕輪もこんなところで眠っているよりもそっちのほうがいいだろう」

「はい! ありがとうございます!」

 王様は隣に立っていた兵士に目配せすると、その兵士は近くのテーブルに置かれてあった小箱を持ってくる。

 小箱を受け取った王様が、小箱からナナの腕輪と同じようなデザインの腕輪を取りだして、ナナへと差し出した。

 ナナは、自分が受け取っていいのか戸惑った様子で、一度僕らのほうを振り返ったが、僕らが頷いたことで、僕らの言いたいことは察したのだろう。向き直って丁寧に王様から腕輪を受け取った。

「ありがとうございます」

 そう言って、僕らのほうへ戻ってこようとしたナナだったが、途中で盛大にずっこけた。

「う……、うぅ……」

 鼻をさすりながらゆっくりと立ち上がると、その背後で王様が心配そうな表情を浮かべている。

「おい……お主、大丈夫か……」

「だいじょうぶれすぅー」

 ナナは元気よく答えて僕らのもとへと戻ってくる。

「この国を救ってくれてありがとう」

 王様か深い皺が刻まれた顔をくしゃりと歪めて笑みを浮かべる。

 漠然とした感想だけれど、その顔からは国を治める威厳というものを感じ取ることができた。

 国を救う……か……。


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