七
春になり徹は5年生に進級した。
徹の小学校では3年生と5年生にクラス替えがあり、徹は真人とは同じクラスになったが、健介とは離れてしまった。
中学のソフトボール部でレギュラーになった栞の中体連が近くなり、隆はほとんどの週末を練習の送迎に費やした。
幸恵が近所のスーパーでパートを始めたこともあって徹は毎週末をほとんど祖母と二人きりで過ごしていた。
「あんたもソフトやれば? ソフトじゃなくてもサッカーでもバスケでもさ。あんた運動神経は悪くないんだし」
栞がかばんにタオルやら着替えやらを詰めながら話しかける。
「あんまり……」
煮え切らない返事が帰ってくる。
「大体さ、いつも家で何してんの?時間の無駄じゃない?そうゆうの」
詰め方が気にいらなかったらしく今度は取り出しながら栞は続けた。
「別に。本とか読んでるし」
「あっそ」
あっさり言うと会心の出来、といった顔でかばんをパンパンと叩きチャックを閉める。
強い口調ではあるが姉なりに弟を心配しているのだ。あたしにとっては変わっていても可愛い弟だけど、栞は思う。クラスでは浮いてしまっているんじゃないだろうか。
もともと賑やかな性質ではない徹だったが、人の和の中で紡がれる話を穏やかに聞いているような静かさだったものが、このところは一人になることを望んでいるように見える。
中学での成績がそんなに悪くない栞でさえちょっと遠慮したいような厚い本を読んでいることが多くなり、言葉遣いからも子どもらしさが消えてきた。
弟の横顔をチラリと見た栞だが悩みがあるのかどうかはわからなかった。
事実、学校での徹には居場所がなくなっていた。
「おはよう」
ある朝、突然だった。徹に真人は返事をしなかった。ゲームの話に夢中で聞こえなかったんだろう、と徹は思って席に座る。
しかし次の休み時間、徹が友人達の集まっている真人の机に近づくのに気がつくと
「なー! 廊下いこうぜ」
と友人達を連れ出していってしまった。
鈍い徹でも目が合ったことに気がついたし、つまりは故意に避けられたと気づいた。何をしてしまったんだろう、と焦るが思い当たらない。
それでも昼休みには普通に遊べたので気のせいだったのかな、と安心すると放課後には声もかけられずに置いて行かれてしまった。
はじめは徹を避けているのは真人だけだったが、それはうっすらと伝染するように広がっていった。
用事がある時には声をかけられるし声をかければきちんと返事は帰ってくる。だがどうでもいい事を話す相手はいなくなった。もともと適当に話をふったり合わせたり、ということが苦手な徹は話しかけるキッカケすら掴めなくなってしまっている。
真人に理由を聞こうと何度も声をかけようとするが、避けていることが徹にだけ伝わるようにやんわりと避けられる。
レギュラーになり、放課後・土日とソフトボール漬けの健介と、たまに廊下ですれ違うときに話す以外は一日中誰とも話さない日々が続いていた。
今では教室の小さな椅子と図書館の窓際のテーブルだけが徹の居場所だった。




