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十一

 徹が三叉路を曲がるアナザーさんを遠目で確認できたのは六年生に進級した6月のことだった。


 学校での徹は相変わらずだった。5年生から受け持った担任の先生は徹が好んで一人で居るような印象を受けている。家庭訪問などで「もう少しお友達と遊んだほうがいい」などと話題にするものの、徹が笑って「はい」と返事をするし、母親からも「内気で……」という母親として当たり前の心配以上のものを感じない。ケンカするわけでもなく、怪我をするわけでもなく、ものがなくなるわけでもない。となれば何も問題はおきていないということになる。


 幸恵も気にはなっていたが「本を読みたいだけ」とか「興味がない話にはいっても楽しくないから」と言われてしまうとそれ以上は何もいえなくなってしまう。たまに買い物などで健介や真人に会うと二人とも屈託なく徹に話しかけてくるので、徹の問題なのかもしれない、とも思っていた。


 徹としてもこれでいいと思っているわけもないし、班決め、と言う言葉には毎回心が沈んだが、最後にはどうにかなるのだし、となんとなく慣れてしまっていた。

 健介が気がついているのかいないのか暇を見つけては遊びに誘ってくれていたが、その日は徹とも普通に話しふざけあう真人もクラスメイトたちも次の日には今までと同じになってしまう。昨日楽しかったね! などと話しかけてみよう、と思うが言葉が出ない。


 そんな時、徹はいつもより寂しい思いをするのだった。


 栞もとっくに勘付いているようで、役に立つようでいて、でもそれが出来ればそもそもこうはなっていないんだろうな……と思うようなアドバイスをしてくる。徹は返事に辟易するものの、姉との会話を楽しんでいるようだった。その栞も受験生になり最近は少しピリピリしている。


 

 梅雨の雨が霧のように降り注いでいたその日、アナザーさんは三叉路を更に山深くへ上る道へと曲がった。徹は雑草に埋もれた道案内の看板をだいぶ前に発見している。もう一方の道は隣町の市街地へと続く道だったので、そっちではないだろうと思いながらいつも三叉路で引き返していたのだ。看板によると登る道は「山之内ダム」に続くらしい。


 三叉路にたどり着くと時計を見て


「十時四三分」


 と書き付ける。最近では三叉路ではなく折り返してから少しのところにある稲荷神社でお昼を食べていたので、ここですぐに引き返していたのだが、所在無げに立ち尽くしてしまった。

 徹はどのくらいの時間が経ったか定かでなくなり時計を見たがまだ十分ほどしか経っていなかった。

 帰る道に五メートルほど走り出したしたが、立ち止まると振り返り、今度は迷うことなく坂を上り始めた。

 

 道幅は狭くはないものの、路肩には落ち葉が山となっていて、それらを糧に雑草は生え放題になっている。木の枝も道へと好き放題に突き出し、そこから折れて落ちたのであろう太い枝もそのままの状態だった。アスファルトもひび割れ、大きくえぐられているような箇所も目立っている。

 昔はよく利用されていた道だが使われなくなって寂れてしまっている、というような印象だった。


 足の下で小枝がパキパキと折れる音と、徹の息遣い以外は何も聞こえなかった。霧のような細かい雨が徹のカッパで集まり水滴になって音を立てずに流れている。


 しばらく走ると 「進入禁止」 と書かれたバリケードが二つ並んでいた。もともと黄色かったであろうそのバリケードはすっかりさび付いていて、よくみると一つ倒れていて三つ並んでいたようだ。

 アナザーさんの姿は見えない。徹はバリケードの間を奥に進んでいった。

 

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