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らせん階段

作者: 佳純優希

ショートショートです。

 長い時間をかけて長い階段を上り下りしている彼は考え続けた。

 階段の一階にいた頃は楽だった。食べて寝て、悩みもほとんど無かった。

 階段の中腹に来た今、悩みごとが増えた。隣人との人間関係や心身の不調。上にのぼればのぼるほど空気も悪くなってきた。工業の発展が進めば進むほど、大気の汚染も酷くなってくるものだと彼は納得した。

 自分は何故のぼってきたのだろう。のぼろうとしたのだろう。

 一階で食っちゃ寝しているのが一番楽なのは解っていた。だったらそこでそうしていれば良かったじゃないか。

 でもみんなが「上にのぼろう」と言って競争を始めたのだ。自然と自分もそれに倣った。

 いや、巻き込まれた風に言って他人の所為にするのは愚かなのか。「馬鹿と煙は高いところにのぼる」という。結局のところ自分も他の生き物も皆、最初から馬鹿だったのか?

 彼は思った。

 もう疲れた。

 しかし彼が階段を少しでもおりると生活の水準も落ちた。

 食べ物は動物や植物を調理したもののレベルから、ねこまんまへ。さらにおりていくと野生の果実や樹木、昆虫を食べるレベルへ。更にプランクトンを食べるレベルまで落ち、最終的には日光を浴びて水と二酸化炭素でブドウ糖を作り出すレベル――光合成のレベルへ。

 それ以下の「菌類」は遠慮したいやり切れない彼は、再び上の階を目指して階段をのぼる。

 すると生活の水準もグンとあがった。だがそれに比例して複雑な悩み事がどんどん押し寄せてきた。

 のぼりくだりを繰り返して悩んだ彼は決意した。

 ――もう、一番上の階までのぼってしまおう。そうすれば見える世界も広がって、世界を見おろせる自分は楽になれるハズだ。

 彼は階段をのぼり続けた。

 今まで見えなかった景色が次々に姿を現し、同時に彼にとって未体験の苦難が押し寄せてきた。

 平屋一階建ての自宅に住んでいる時は不便が少なくても、そこから十階建てのマンションに引っ越せば、隣人との人間関係の問題も住宅問題も激増する。

 例えば縦と横と高さの三次元の世界に住んでいるときの悩みの質と量。それは縦・横・高さに「時間軸」も加わった四次元の世界で感じる悩みの質と量と比べれば、遙かに些少だ。

 上の世界へのぼっていく彼の苦悩と苦痛は倍増し、彼にしか理解出来ない過酷なものとなっていった。

 最上階を目指した彼は悩み、ぼろぼろに傷ついた。

 彼は気が付いた。

 この階段、らせん階段だ。誰もが模型では見たことのある、二重のらせん状の階段を自分はのぼっていたのだ。

     ○

 ついに彼は階段を一番上までのぼった。

 彼の脳裡に去来する思い。

 ――この星を守る為に全ての人類を抹殺しなければならない。

 そう確信した。

 しかし、よく見ると階段にはあと一段だけ上の階への段があった。未熟な彼は見落としていた。彼は今度こそ一番上の階まで階段を上った。

 二重らせんの階段を一番上までのぼった瞬間、彼の手には光の矢が握られた。投擲すれば世界を滅ぼせる矢だ。

 ソドムとゴモラを滅ぼした伝説の矢だった。

 世界を滅ぼせる彼はしかし、世界を見渡し、全てを許せる気持ちになった。

 もはや苦悩は消え去った。

 髪が伸びヒゲが伸び、ボロボロの衣服を身に纏った彼は、穏やかな笑みをたたえて言った。

「私の愛は無限だ」


(了)




つ「宗教関連お断り」。あと今は「パープルサンガ」じゃなかった気がします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 独特の世界観に引き込まれました。
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