四国攻防戦 その6
ヒビキと隼人は次の日、レィファの足取りを探りに行く。
「良いんですかね?勝手に後なんかつけて」「なーに。最初に仕掛けたのは奴だろ?帳消しさ。さて、発信器の信号だとこの辺だが………」「発信器?仕掛けたんですか?」頷くヒビキ。「怪しいだろ?どう考えても。会うなりいきなり黄泉に来いなど。俺様が礼儀っちゅーもんを叩き込んでやる。あのくそガキ!」「アノ〜…………僕も高校生なんですけどシバカレます?」「ン?イヤ。大人の都合だ。どうも許せねー」「………大人の都合ねー………」
いつだってそうだ。大人の都合で、隠蔽したり、ごまかしたり。この人、わかってるのかなー?
「隼人君!隠れろ!奴だ!」隼人の頭を抱え、林に逃げ込む。「何ですか?行けば良いじゃないですか!文句あるんでしょ?」「シーッ…………状況分析もあるんだ。奴の素性もわからんしな。気に入らんか?大人のやり方が」「別にそんなんじゃないですよ」「なら黙ってろ」
レィファは山中で座禅を組み呪文の様な物を唱えていた。
「あのお札。梵字か?」双眼鏡で除き込みヒビキが呟いた。「あのお札厄介なんですよ。この前だって拳銃の弾を止めたんですから」「止めた?そりゃ厄介だな。おそらく結界か何かだろうよ。文献で読んだ事がある。昔の人間は身を守るために、印を結んだと」
レィファはクワッとヒビキ達を見た。
「やはり来ましたか?で、お答えは?」「チッ…………随分と目が良いな。軽く五キロはあるぜ」ヒビキは両手を上げながら林から出てきた。顎で促すヒビキ。「すいません。お邪魔します。レィファさん」「構いませんよ。どうせわかっていましたから。ココに来るのは。でお答えは?」「結論から言おう。俺達は黄泉には行かない。確かお前は黄泉の案内人とか言ったな。行ってこい。金なら交渉に乗るがな」「つまり私を雇うと?」「マッ早い話そうだ。報酬は出来高」「ヒビキさん!金の話は失礼ですよ!レィファさんだって危険を承知して接触したんだし。そうでしょう?」「そうだったな。すまなかった。こうしよう。大和が黄泉に行く引き換えに何か無いか?ただで人は動かせんだろ?」「交換条件ですか?青龍の他に?…………力なんかどうです?アンデットに打ち勝つ力。ズバリ精神力。正直、黄泉に行って帰ってきた人間などいないのですよ」「なるほど。考えたな!結界士改めペテン師!初めからハメル気だったんだろう!バレたな!くそガキ!」「ヒビキさん!冷静になりましょう!青龍はどう考えてるんです?黄泉にいる王蛇を倒して欲しいと?」「それも含めて来て欲しいと言ったんです!」「隼人君!帰ろう!話にならん。そうだ!お前の師匠と言っていた弘法大師様を連れてこい!お前じゃなくてな。まあ期待はしてないが」隼人がヒビキの前に手を出した。「いい加減にしてくださいよ!他に方法があるんですか!ヒビキさん!…………今は頼るしか無いんです。レィファさん。お願いします。僕一人でも行きますから!そうでしょ?白虎。君だって同じだ。九人の守護神が戦っている。王蛇を抑えてくれてる。黙って見てないでしょ!レィファさん。早速準備をしてください。お願いします」隼人は土下座した。「やめろ!隼人君!………」「………わかりました。報告事項とかありますよね。明日にでも伺いますよ。隼人さん。聞いた通りの人間でした」「連れていって頂けます?レィファさん」「エエ。お任せ下さい」
帰り道の話だった。「隼人君。すまねーな。気に食わんなら俺は外れるぜ」「どうせ大人のやり方でしょ?わかってますよ。そんなルールに縛られてるから問題が起こる話も。皆、そうなんでしょ?だから謝れなかったんでしょ?」「…………反す言葉も無いな。だがな、大人にとって仕事とは何だと思う?仕事とは身を守る事なのだよ。その為ならどんな不正も受け入れる。その後の責任も仕事だからな。そんなもんだ大人は。…………充分か?」「………なんとなく。わかるからイヤなんです」「それで良い。気に食わんからガムシャラになれる。出世する。それも大人の特権だ。飯でもどうだ?ラーメンでも」「いいですよ。結構です」「人に誘われたら素直に首を縦に降れ。それでいい。遠慮するな」「じゃあ、大盛りの替え玉と餃子付きで」「宜しい。ご馳走しよう。今日は冷えるな」
ヒビキは満足げにラーメン屋の扉を開けた。
不器用な男、ヒビキが過去を振り返った日の話しだった。そして隼人も大人の階段を少し登った日の話しだった。