スマイル
(もうダメ…あたしはもうダメ…この先、笑う事は一生ない…)
とても狭い、でもだだっ広い公園。うつむいたまま動かない少女。
「どうしたんだい?こんな雨の中…」
一人の男が歩み寄る。
「・・・」
「僕はねぇ、楽太郎っていうんだ!みんな楽ちゃんって呼ぶよ。」
「・・・」
「ねぇねぇ?君はぁ…」
「消えてっ!」
「えっ…?」
雨音をかき消す冷たい少女の声。
「消えて…アタシはもう――。」
「・・・」
「ほっといて…」
「そんなっ…そんなっ…僕の意味がないじゃないか!」
男は叫んだ…雨音を一瞬かき消すような声で。
「はっ??意味分からない…」
「僕は、みんなが笑顔になればうれしんだ!みーんなが!」
「キモい…早くどっか行ってよ!」
雨音はいっそう激しくなる。
「絶対行かない!何処へもいかない!」
「なんなのよっ!!一人にさせてよ!!誰もあんたなんか呼んでない!必要ないのよっ!」
「・・・」
「…うっ、うっ…」
少女は泣いている。雨と同化した涙は、土に還るかのように地面に伝う。
「…うっ、うっ…、あんたがいるからっ!うっ…あんたなんかがいるからぁぁ〜!うぁ〜〜〜っ…」
声にならない、叫ぶように少女は泣き始めた。
「ねぇ?」
男が問う。
「なんで君は泣いているの?どうしてそんなに悲しいの?」
「…うっ、うっ、あんたなんかに分からないわよ!あんたがいるからよぉっ!!」
「そんなっ…僕は、ただ…君の笑顔が見たくて…君が笑うのが――。
それに、それが僕の使命なのにっ。」
雨の音と共鳴する二人の泣き声。そのまましばらく泣き続けた。涙は枯れる事無く、二人の頬を伝う。
(思えば…この目の前にいるヤツは、ほんとに何者なだんろう?突然現れて意味の分からない事ばっかしゃべって、オマケに自分も一緒に泣いている…なんなの…?)
「…なんであんたも泣いてるのよ…」
少女は、長い沈黙を破り問いかけた。
「ねぇ…?」
「聞いてるのっ??」
少女が初めて顔を上げた。そこには降り頻る雨と、何もない公園の景色。雨の粒が、目に止まるように見えるだけ。
「うっ…なによっ!今更何よっ!」
少女はまた涙を流しは始めた。
「…うっ、う〜…、なんなのよ!笑わせるんじゃなかったの??結局何もしないんじゃない!結局うそつきじゃないのよぉっ!!」
『べちゃ〜〜ぐちゃぐちゃっっ』
突然、走ってきた男が目の前で派手に転んだ。雨でぐちゃぐちゃになった地面に。顔は泥まみれで、顔立ちもハッキリわからない…本当に派手にすっ転んで少女を見た。
「君に笑顔をあげたいんだ。
走って走って、考えて来たんだよ。」
泥まみれで泣きながら、男は喋っていた…
「・・・」
雨はいつの間にか上がっていた。大きな水溜まりに少女の顔と男の顔がゆらゆらと浮かぶ。
「ねぇ。」
雨上がりの静寂を切り裂いて男が一言。
「君の泣き顔。笑えちゃうよ??」
男の一言に、絶句した。
「よく言えるわね!アンタの泥まみれの泣き顔のほうがよっぽどわらえるわ!」
「…確に・・・笑える。」
雨が止んだ狭い公園は、二人の笑い声に包まれた…
いつまでも、いつまでも…