『対!エル使役攻略作戦会議』
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2012/06/08 誤字訂正しました。
現在オルガと、この前氷漬けにされた研究室にて作戦会議を始めようと準備中である。
―――もちろん『対!エル使役攻略作戦会議』だ。
この前消えて以来目の前には現れていないが、何だか今までのやり取りを聞いていそうで、エルに聞こえないようにこの部屋全体に結界を張っているところである。
結界石を部屋の四隅に置き、オルガが聖水で床に陣を描いた。そして彼愛用のネックレスにある媒介の石を触り呪文を唱えると、魔法陣から光が出て辺りを覆い隠した。
あまりの眩しさに目を開けていれない程だ。
しばらくすると光が霧状になり、若干膜につつまれている感じはするものの、いつもの部屋に戻った。
「……うう、何だか目がチカチカする」
「そんなに眩しかったかな? 僕はなんともないけど」
―――もうすぐ正式な魔道師になる優秀なアナタと、魔法に免疫があまりない私と比べないでください。
目を擦りながら、心の中で突っ込みいそいそと会議の準備を始める。会議と言ってもオルガと私の二人だけだから、そこまで準備するものは無い。結界を張ったらお茶とお菓子を準備するくらいである。
「それでさ、僕は君に何をしてあげたらいいの? 」
椅子に座り、お茶を一口啜ってから口火を切ったのはオルガである。
オルガにして欲しい事は一つだけ。それは、私の魔法が何故使えないのか調べてもらうことだ。今朝、授業が始まる前に学長や教師にオルガに頼まなくてもなんとかできないか聞いたら、「とても勉強になる事だから魔道師と相談した方がいい」と言われたからである。
「私が何で魔法が使えなのか調べてほしいの。……オルガも知ってるように、魔力はとてもあるみたいなんだけど、魔力があっても魔法が発動できないから」
精霊を力で支配する場合は、精霊が負けを認めるまで攻撃しなければいけない。殆どの精霊使いは魔法で支配する方を選んでいる。理由は簡単だ。精霊は強い物に惹かれるから。
私は魔法が使えないから魔法陣から精霊を呼びだす事はできても、魔法陣を使って魔法を発動できない。だから精霊達が私の前から逃げても魔法を使って止める事ができない。
「メイは特殊だよね。魔法陣は使えるのに、魔法が使えないからね。普通は魔法が使えない人って、陣も使えないんだけど……何だか矛盾してるよね」
実は私もそれは考えていた。魔法陣も魔法と付くからには魔法なのだ。
オルガが燭台に置かれていた蝋燭を一本手に取り、付いていた火を息を吹きかけて消す。私の目の前に一本用の燭台を置きそこに先ほど消したばかりの蝋燭を立てる。
「今ここで、この蝋燭に火を灯す魔法を唱えてみてくれない? どうして発動しないのか、力のまわり方を見るから」
ニコニコと笑い、爆発しても僕が消すから大丈夫だよと付け加えた事は聞き流そう。
「わかった、やってみる」
そうは言ったものの、心臓はバクバクだ。魔道師の前で発動できないと判り切った魔法を使わなきゃいけないなんて……。恥をかくと判ってて実行する人間っているのだろうか。
机の引き出しから取り出した私の媒介―――黒い石の指輪―――を指にはめ、深呼吸をして気を落ち着かせる。指先に魔力を集中させ魔法陣を空中に描き、媒介の石を触りつつ、蝋燭の先端を見ながら呪文を唱える。
「明りを生み出す炎の輝きよ、今この蝋燭の先端に灯れ」
魔力が陣に流れ込み陣が赤く光った所で、消えた。光が消えるとともに陣も消滅した……。
蝋燭も消えたままである。
ため息をつきつつ肩を落とすと、オルガの指がパチと鳴り蝋燭に明かりが灯った。
詠唱無しで指一つで簡単な魔法を使えるなんて、オルガはすごいな。と思うと共に心の奥底で少しの嫉妬心が湧きあがった……。
「メイの魔法は途中まで出来てるね。ただ、君の力のすぐ後に別の力がかぶってきて魔法を消してる……ように見えたけど、何の力だろう。―――それとは別なんだけど」
声が後半若干低くなり、いつもは甘さを湛えている、琥珀色の目以外は笑っているといった黒い笑顔になった。何故か、目が笑っていない。……怖いです、オルガ君。
オルガは黒い笑顔で私の指輪を指さした。
「何で媒介が研究室の机の引き出しに入ってるわけ? 普通は肌身離さず持ってるよね」
黒い笑顔がニッコリ。つられて私も引きつった笑顔でニッコリ。あ、口の筋肉が引きつった感じが……。
笑顔に笑顔で返したら、すごく気まずい空気が漂い始めた。
指輪だから、持ち歩いてると失くしそうで……というか、魔法使えないから持ってても邪魔な―――
「持ってても邪魔なだけ、とは勿論思ってないよね? 」
ピクリ。思ってる事を言われて肩が少し張ってしまった。
魔道師って心の声まで読めるの!?とは思ってても言えいえない。
「……オ、オモッテナイヨ……? 」
動揺して変な発音になってしまった私を見て、オルガは深い深いため息をついて、席を立った。
「媒介って魔法を扱う人間にとってはもう一つの心臓なんだ。だからそんな風に扱っちゃだめだよ。どんなに邪魔でもね。―――わかった? 」
言葉前半は困った顔で、そして言葉後半ではとても黒い笑顔で……。オルガは魔道師クラスで首席卒業が決まっている。それは魔法を愛するが故首席を取るのは必然であると言った方がいいのかもしれない。そんなオルガに「魔法が使えないから媒介って邪魔」なんて言ったらどうなる事やら。怖くて言えない。
「ワッカリマシタァッ!! 」
ピシと右手揃え額の方へ持って行き、何故か騎士や軍隊が使うような敬礼をしてしまった。
「うん。いい返事」
クリクリの瞳を満足気に細めたオルガは、続きは明日とばかりに帰り支度を始めた。
「今日見たメイの魔法を消す力の存在を、こっち《魔道師学校》の学長たちに相談してみるよ」
卒業までの僕たちの最終課題ができたね、そう言葉を残しオルガは部屋の四隅に置かれた結界石を回収しだしたとたん、膜に包まれた様な感覚がなくなった。結界がなくなったということだろう。
―――もうすぐ、魔法が使えるようになるかもしれない。そうすれば……。
期待感を胸に抱き寮に帰るのだった。
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