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精霊使いのお願い  作者: まるあ
本編
8/34

お願いごと

 西日があたりを赤く染め上げる屋上に、長く影の伸びた二人の姿がある。

 一人は座り込み、額を床に擦り付けている土下座という状態である。もう一人は座り込んだ人をどうしたら良いのか判らない感じで見下ろしている。

 

「―――オルガッ! 昨日はごめんなさい!! 殴って気絶させちゃって……それに部屋の片づけまでしてもらっちゃって」

 額をグリグリと床に擦りつけている。見ているこっちが何だか痛くなってきた。

「メイ、そんな事しないでよ。我を忘れた僕がいけなかったんだし……君は悪くないんだ」

 そうなのだ、昨日悪いのはどう考えても僕。あの上級精霊(クソせいれい)に嫌な事を言われ、我を忘れ(キレ)て二人で使っている研究部屋を氷漬けにしてしまった。 

 

 メイの腕をとり、立たせようとするがピクリとも動かない。確固たる意志があって土下座をしているようだ。

「そう言ってくれて嬉しいわ。……あの、その……それとは別の話が……、とっても言いにくいんだけど、でも言わなくちゃいけなくて……。」

 未だグリグリと額を擦りつけてこちらを見ないメイの傍にしゃがみ込み、覗き込みながら先を促す。 「うん。言わなくちゃいけない事ならきちんと聞くよ? 」

「あの……」

 

 なかなか要領を得ない言葉しか出なく、顔を上げないメイにオルガの悪戯心が湧き上がってきた。

「あ、もしかして僕に愛の告白? それなら大歓迎だよ。今、彼女居ないしね。」

 オルガの言葉にメイは「はぁっ?」と気の抜けた言葉と共に困惑の表情を浮かべている。そんな事微塵も考えていなかった、といった表情である。メイと一緒に居て彼女に好意を抱いているオルガの心中はやや複雑である。

「―――そんな嫌そうな顔しないでよ。誰もいない夕暮れの屋上に呼び出されて、呼び出した本人がなかなか本題を切り出せないなんて、誰でも告白と思うよ? まあ、土下座で告白っていうのは斬新だね。」

 一瞬でメイの顔が真っ赤になるのを見て楽しんだ後、冗談だよと言いクスクスと笑ってメイの手をひいて共に立ち上がる。

「そんなに言いづらい事? 聞くだけなら聞くよ。でも、嫌だと思ったら遠慮せずに言うから大丈夫だよ」

 

 メイは意を決してオルガを見た。

「あの、お願いがあって……。私どうしてもエルを使役したいの。でも今の私じゃ一生無理みたいで―――だから力を貸してください! 」

 具体的にどう協力を求めて良いのか判らない。でも今の私にはオルガの力が必要なのだ。私に足りないのは、きっと魔法を使う力だから。そう思い、オルガに深く頭を下げた。なんなら、もう一度土下座しても良いくらいだ。



「………」


 しばらくの沈黙の後、オルガが小さく息を吐いた。

「あのクソせ……いや、エルだったっけ。なんでそいつが良いの? どんな精霊でもいいから使役すれば賭けは君の勝ちで終わるんでしょ? だったら、下級精霊を捕まえればいいじゃない。」

 

 クソ精霊と言いそうになりましたね、オルガクン……。

 喉元まで出かかった言葉を、頼みごとをしているという自制心で飲み込み頭を下げ続ける。


 昨日叔母さんが帰り、寝る前にやっぱりエルを使役できそうにないなら、他の精霊を使役して賭けを終わらそうとも考えた。でも、他の精霊じゃなくエルを使役したいのだ。―――エルだけを。

 三年ほど前から知り合って、慣れているといった理由でエルを欲しがっている訳ではない。何かを試されているからといった理由でもない気がする。よく判らないけれど、本気で使役したいと思ったのは彼だけなのだ。今まで、精霊たちが逃げて行ってもそこまで本気で捕まえようとは思わなかった。だから、今留年しそうなんだけれど……。

「―――どうしても、エルじゃなきゃダメな気がするの。……だから、オルガの力を貸してください。お願いしま! 」

 ああ、断られたら一人で策を練らなきゃいけないのか。魔法が使えない分、不利だなあ。いっそのこと転校して魔道師学校に行って一から魔法の勉強しようかな……。いや、そもそも魔道師になったら精霊なんかいらないんじゃ……。その前に、勉強しても魔法が使えないし。ああ、堂々巡りだ。

 頭を下げながら悶々と考えていたらオルガの笑い声が聞こえてきた。

「あははは!! 人に頼みごとをしながら、断られた後の事考えないでよ。っていうか、考えてる事口からダダ漏れだよ」

「えっ?!あっ、ヤダ」

 口に手を当てて、目の前に居るオルガを仰ぎ見る。オルガは穏やかな笑顔をしてメイを見ている。

「―――もちろんいいよ。そんな風に頼まれなくても率先して力を貸すよ。僕は君と一緒に卒業したいし。それに、あの上級精霊(クソせいれい)がメイに屈服する姿も見てみたいし」

 話の後半になり、やや黒い笑顔になったのは気になったが、オルガが力を貸してくれる事になって、一安心だ。

 

 昨日は考え事をしていてあまり眠る事ができなかった。

 考えていたのは、私に足りないもの。

 オルガには私が魔法を使えない原因を調べてもらおうと思っている。―――私が今足りないのは魔法。

 魔法が使えるのなら、エルを力ずくで従える事ができるかもしれない。

 

 

 

 

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