まどろみの過去
夢を見た。
もう見たくない夢と思いながら何度も昔から見る夢を……。
親たちは私の小さな頭を撫でつけ、抱きしめ「すぐに帰ってくるから」と言って出かけて行った。
いつもの様に、母の妹である叔母が来てくれて一緒に留守番をしていた。
いつも叔母は、一緒に居る時は両親の昔話をしてくれた。両親がどんな仕事をしているのかを教えてくれたのもこの叔母である。
「あなたのお父様、お母様は宮廷召喚士。精霊、聖獣、魔法等を使い、王様やこの国を守って平和である為に必要なお仕事しているの」
叔母が来るたびに教えてくれた両親の話は、当時五つにもならない子供の私でも誇らしかった。
叔母の話はとても楽しく、両親を待っているのも苦にならなかった。
―――待っても、待っても帰ってこなかった。
何日か経つと、両親が帰ってきたと叔母が私を抱きしめながら言った。
両親は何故か箱の中で眠っていた。青ざめた顔をして、ひんやりとしていた。揺すっても、目覚めのキスをしても起きてくれなかった。唇に触れた両親の頬は冷たく、何故か涙かとめどなく溢れてきた。叔母は両親にすがって泣き続ける私の傍に居続けてくれた。両親がもう起きる事は無いのだ、と納得するまで……。
泣き疲れて眠ってしまったのか、気付いた時は叔母の膝の上だった。見上げると、叔母は母の棺にもたれて眠っていた。
そっと叔母を起こさないように膝から起き、両親がいつも居た仕事部屋へ行った。
部屋の机の上には一つの写真立が置いてあった。写っているのは私と、両親。私はそれをギュっと抱きしめ、想った……。
声が聞きたい
どんな声でもいい、二人に名前を呼んでほしい
最後に一言でも二人と話したい
父様と母様の声を聞けるなら何でもするから
誰か、
神様でも悪魔でも誰でも何でもいい
―――だれか!!
その瞬間私の目の前に眩い虹色の光と共に一つの魔法陣が浮き出した。一つの部屋が埋まりそうな程大きい。
何が起きたのか判らず陣を見つめていると、光の中から手が伸び私の首を掴んだ。
―――そして、目の前には刺すような視線を送る黒い双眸……。
………。
………。
………。
うっすらと目を開けると、ぼやける視界に人影があった。その人は先ほどまで見ていた夢に出ていた叔母である。
叔母は思案顔をしながら私を覗き込んで「よかったわ」と微笑みつぶやいた。
夢の余韻で未だ残る首の違和感を触りながら、寝ていたベッドから上体を起こす。
「……あの夢をみてたの」
昔から何度も見る夢だ。両親が亡くなった後数日見続けて、今もたまに見る。ここ数年は見る事は無かったのだが……。
「あの最後に首を絞められる夢? ……なにかあったの? さっきもあなたの部屋で、大きな魔力が動いたってオルガが言ってたからここに見に来たのよ。そしたら、あなたが倒れてるんだもの。驚いたわ! 」
ああ、そうか倒れたのか。エルがいきなり消えてからもの凄く疲れて、気付いたら夢を見ていた。
あれからどの位時間が経ったのだろう。窓の外は真っ暗で数多の星が夜空を彩っている。
「―――エルが……この前話した上級精霊なんだけど、エルが『今のメイさんじゃ私を使役する力は一生ないです』だなんて言うからムカついて、蹴って怒鳴って……気付いたら今こんな状態に。でも魔法なんて使ってないよ? ……使えないし。叔母さんも知ってるでしょ? 」
叔母さんはそうねぇ、と呟きまた思案顔をした。
母の妹である叔母は、両親が亡くなった後結婚もせずに私を引き取って育ててくれている。自身が教師をしているこの学院に入学させたのは、私が魔法を使用できるようにとの思惑もあったようだ。優秀な両親を持つのに魔法が使えない……。それどころか、魔法が使えなくても問題ない学院の方に入学してるのに、今は留年しそうな感じだ。なんだか申し訳ない。
「そんな悲しい顔をしないの。メイちゃんが頑張ってるのは知ってるんだから。『今のメイさんじゃ』って言ったのよね。もう少し何かが変わったらその精霊はあなたが使役できるって事じゃない? 少し、策を練ってみたらどうかしら」
叔母の温かな手のひらが私の頭をポンポンと撫でる。すると鬱々としていた私の心が少し晴れやかになってきた。
策を練るか……。
「ありがとう。そうだね、策を練ってみる」
元気が戻った私を見て叔母は安心したのか、あまり無理しないのよといって出て行った。
明日あたり、オルガに知恵を貸してもらおう。