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精霊使いのお願い  作者: まるあ
番外編
32/34

複雑な王子様

今回はオルガ視点です。

 僕はオルガレイド・フォン・イレウス・フィル・ブルーメ。


 この長ったらしい名前からでも判るように、この魔法国家ブルーメの名前を名乗る事を許されている直系の王族である。

 あまりに長い名前なので、略してみんなには『オルガ』と呼んでもらっている。

 僕は現王の第七番目の王子にあたり、子供の順番でいうと十番目で末っ子だ。

 母は九番目の最後の側室で、その父親―――僕の祖父は元召喚士長で、今は国立の学院の総学院長である。要するに貴族ではなく一般人だ。王族の名前は名乗れても、一般人である母から生まれた王子である僕には、この国の政治に対する力は無いに等しい。

 僕にある力は、この国の王族だからこそ持っている『精霊の祝福』と、召喚士長まで務め上げた祖父から遺伝したらしい膨大な魔力である。


 この国の王族は、生まれおちた瞬間に四大精霊王の内、一人から祝福を送られる。僕は『愛の加護』というモノを貰ったらしい。

 


 「どのような凶悪な精霊でも、この王子には生命を脅かす危害を加える事が出来ない。周囲にはいつも精霊が侍り、王子を助けるだろう」



 僕の祝福に訪れた精霊王は、藍染(あいぞめ)の様な色の髪をした女神の様な水系の精霊王だったらしい。

 産後で極限に疲れ切った状態の母の目の前に、その精霊王はいきなり現れた。

 王族の直径が生まれれば精霊王が来ると聞かされていなかった母は、いきなり現れた者に大声を出して気絶してしまったのは余談である。


 僕は後宮ではなく、祖父の別宅がある城下で育った。

 探究心旺盛な僕は、小さなころから城下を一人で周り、知らない所がないと言う程熟知している。僕の庭と言ってもいいほどだと思う。

 だからだろうか……。十五でこの王都を離れ、祖父が総学院長として勤めている王国都市スッツェにある魔道学院へ三年通った後、魔道師の称号を得ると迷わずこの王都に戻ってきた。

 


****



 王都に戻り、僕が店を構えて数年が経った。

 最初は閑古鳥だった店も、最近は軌道に乗ってきて少し忙しい。

 僕の開発した道具で、精霊王を一人の少女が虜にした、と若い女性達の間で噂になったからだ。

 そんな噂が王都どころか国外まで広がり、今や他国からも『恋の成就の道具』として有名になった。


 ……僕の恋は成就しないどころか、敵に塩を送っちゃったみたいだけどね。


 噂の大本の少女であるメイは、今現在この店の従業員になっている。

 その少女に虜にされたと言われている精霊王エアリエル、……今は元精霊王なんだけど、そいつも彼女にくっ付いていつもこの店に入り浸っている。彼は、僕がメイを好きだと知っているから、少しでもメイと二人になろうものなら、視線だけで人間を殺せそうな殺気を送ってくる。勿論、メイには気付かれない様に。

 この店にはいつも僕とメイ、エアリエル、そして何故かエアリエルの元側近で現一位精霊王であるエンジュまで居る。……何故だかわからないけど、気付くとくつろぎながら愚痴をこぼしている。

 


 昨日まで騒がしい日常を過ごし、今日は休日でこの店には僕しか居ない。

 シンと静かな空間で、新商品の試作品を作っていた時、店の扉が外から勢いよく開かれた。

 外から駆けこんできたのは、真っ赤に熟れたトマトの様な顔色をしたメイだった。


 「オルガッ! 今すぐにこの店に強力な結界を張って!! ―――今すぐにっっ!! 」

 「えっ?! 」

 「早くしてっ!! じゃないと、エルがこの店を破壊するかもしれないのっ!!! 」

 「ええええええ~~~~~っ?!! 」


  今は普通の上級精霊であるエアリエルでも、元一位精霊王である。今でも精霊界では、精霊王に並ぶ能力の持ち主だ。 

 「何で? 」と理由を聞きたいのを今は我慢して、作っていた試作品から手を離し、店を壊されない様に外側に高位魔法で強力な結界を張る。念の為、部屋の四隅に結界石も置き、室内にも結界を張る。

 二重に結界を張れば多少はもつだろう。

 

 「……で? 何で店を破壊される事になったの? 」


 結界を張ったため、外界から遮断され全くの無音になった空間に僕の声が響く。

 メイは言いたくないのか、口をモゴモゴさせると視線を泳がせ始めた。


 

 「……結界解いて、君を差し出しちゃおうかな~? 」

 ―――本当は結界を解く気なんてないけれど。



 冗談で結界を解こうとするふりを始めると、メイが僕の腕にしがみつくように引っ張った。

 僕よりも頭一つ分背が小さいメイは、上目遣いで僕を見上げている。そして、心なしかその榛色の瞳には涙が浮かんでいる。

 

 「……エルが悪いのよ。私に何もさせてくれないからっ! 」

 「―――はぁっ? 」

 「料理をしようとしてたの。でもエルが、手でも傷つけたら大変だとか言って調理器具を全部隠しちゃったのよっ!! 」

 「……そう。それと僕の店の破壊とどう関係するの? 」

 「……いや、だからね。…その。『もういいっ!オルガの所に行って作ってくるから! 』って言ったら、エルが止まっちゃって。何だか変な空気が漂ってたし…」

 「それでここまで逃げてきた、と? 」


 ごめんね、と潤んだ瞳で見上げてきたメイに僕は頭を抱えた。

 

 エアリエルはここ最近、とても独占欲が強い。僕とメイが二人きりになるだけで、エアリエルは眼光鋭くこちらを睨んでいた。視線で人が殺せるなら、僕は何度殺された事だろう。いや、何度どころじゃないか。

 好きな娘が異性と一緒にいるのは嫌だ、というエアリエルの気持ちは痛いほどわかる。同じ男だからね。僕も。

 独占欲が強いだけじゃなくて、料理すらさせないだなんてどれだけ過保護なんだか。


 「う~ん。君にここの調理場を使ってもいいよって言ってあげたいんだけど……」

 

 メイの話を聞いている時から、店の外の結界に巨大な魔力の塊がぶつけられていた。おそらく……いや、絶対にエアリエルだ。アイツが力技で結界を破壊しようとしている。

 今や外の結界はひび割れている。破壊されるのは時間の問題だ。

 メイもこの店の外側にエアリエルが来て攻撃されているのが判ったのか、さっきまで怒りで赤かった顔が今は少し青くなっている。


 「―――もう来たぁ!! ……どっ、どうしよう?! 」

 「どうしよう、って……。素直に謝れば許してくれるんじゃないの? 」

 「謝るって、何をよ~~っ?? 」


 メイが慌てていると、外の結界がエアリエルによって破壊され弾け飛ぶ音がした。

 

 「僕の所に来た事を謝ればいいんじゃないの?! アイツって僕が君の事好きだったって知ってるんだよっ!!そんな男の所に行かれて、いい気がしないに決まってるじゃないか!! ほら、声は結界の外に聞こえるようにするから、謝りなよ? 」

 「でも……」

 

 メイが迷っている間に、店内の結界が弾け飛ぶ音がした。部屋の四隅に置いた結界石が全て砕け散っている。

 結界が力技で破壊されるや否や、扉が嵐の様な風圧で押し開かれる。

 扉からゆっくりと姿を現したのは、いつもメイに金魚の糞よろしくくっ付いている男―――エアリエルだった。

 エアリエルは黒衣の裾を翻しながら、店内に居るオルガとメイを視界に入れると、纏っていた黒いオーラをさらに増幅させた。さらに、重苦しい空気も漂い始めた。

 店内を覆い尽くさんばかりの黒いオーラを纏いながら、メイに向かい妖艶に笑んだ。


 「メイさん。その男の半径一メートルに近寄ってはいけない、といつも言っているでしょう? これで何度目ですか? ―――帰ったらお仕置き、ですね。さ、帰りますよ」


 エアリエルがメイに向かい、手を伸ばした。

 メイは、自分に向かって差し出された手を音がするように払いのけると、エアリエルに向かい叫んだ。


 「かっ、帰らないんだからっ! 作りたい物があるんだからっ!! 家で作ろうと思ってもエルが調理器具全部隠しちゃったじゃないの!! 」

 「……メイさんに怪我して欲しくないからですよ。貴女の刃物を扱う手さばきは怖くて見ていられないんです。この間も、野菜を半分に切るとか言いながら刃物を振り回していたじゃないですか。……怖くて貴女に刃物は渡せません! 」

 「でも、……でもっ! 今日はどうしても作りたかった物があったの! ……今日は好きな人に手作りのお菓子を渡す日だったから」


 メイは真っ赤な顔になり、エルから視線をそらした。

 そんなメイの言葉を聞き、オルガは店内に張っているカレンダーを見て、今日は何の日だったのか思い出した。

 

 あっ!!

 今日は『愛の日』だ。

 男女関係なく自分でお菓子を作って、想う人に渡す日。一月後には、渡された人は想いを返す日がある。

 そういえば、僕も毎年メイから友達用のお菓子を貰ってたっけ。

 エアリエルは去年まで精霊界と人間界を行き来していたから、その行事を知らないのかもしれない。


 「……『好きな人』、それは私もですか? 」

 「当たり前じゃないっ!! 」

 

 エアリエルは今まで纏っていた重苦しい空気と黒いオーラを霧散させ、晴れやかな笑みを浮かべた。


 「それでは、私がメイさんに作ります。いかなる理由であれ、貴女に刃物は持たせれません!! 夕飯を用意するついでに作るので、作り方だけ教えてくださいね」

 「「……え? 」」


 僕とメイの言葉が被った。

 メイの「え?」は、結局私が作っちゃダメなの?の「え? 」だろう。

 僕の「え? 」は、言葉の通りの「え? 」である。

 夕飯の用意って、言ったよね。 てっきりメイが家事をやってると思ってたんだけど、もしかして家事やってるのって……。

  

 僕の胡乱(うろん)な視線を受けたメイは、真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせて、視線を泳がせた。

 

 「……だって、エルが家事をやらせてくれなくて……」

 「メイさんが家事だなんて! ダメですっ!! 貴女のこの華奢な手指が荒れてしまうじゃないですかっ。貴女が傷つく位なら、私が家事をやりますよ!! 」


 エアリエルがメイの手を取り、甲に口づけをするとメイは火が出そうと言う言葉が合うかのように、可哀そうなほど真っ赤になっている。


 新婚家庭ってこんな感じなんだろうか。

 こんな砂糖が口から出てくるかのように甘い感じなんだろうか。


 メイが好きだと気がついて数年。

 僕がメイへの想いを自覚すると共に失恋もした。

 何年かして、メイへの想いは友情に変わってきた。それでも、やっぱり好きな娘が自分じゃない男と絡んでいるのは見るのは少し辛い。

 メイが他の男と好き合っているのを見るのは辛いけど、笑っているなら僕は嬉しい。


 今、僕の心はとても複雑だ。

 もう何年かすれば、この二人のじゃれあいも笑ってずっと見れいられるのかもしれない。

 でも、今はまだ辛いらしい。

 だからこう言わせて―――?


 「―――ねぇ二人とも、じゃれあうのなら家に帰ってからにしてね? 」

 

 


 

 

 

 

 

 

 



 



 

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