気付き始めの気持ちと気付いた気持ち
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オルガから「好き」と言われて二週間がたった。
私たちの仲は依然と変わらず、友達の様な間柄が続いている。けれどオルガは最近、何かを発明しだしたようで姿を見なくなった。
発明に籠る前には「あのクソ精霊にひと泡吹かせてやる」と言っていた。
この二週間で変化したのは、私の周り。
いつの間にか、昔のように精霊達が寄ってくるようになっていた。
蒼い精霊が言っていたように「怖い気配がしてたから近寄れなかった」と精霊達は口々に言っている。蒼い精霊が言っていたように私にはエルが施した呪いがかかっていたようだ。
今日は授業が昼間に終わり、そのまま寮に帰るのも勿体ない感じがして裏山まで出かけた。
大樹の生い茂る一角に足を踏み入れると、この裏山に住んでいる精霊達がたくさん出てきて私を迎えてくれた。
この裏山に来ると、エルとの思い出が多く彼の事をついつい考えてしまう。
この間オルガと話して気付いたストーカー疑惑といい、この呪いといいエルに問い詰める事がたくさんある。
普段は待っていなくても、呼ばなくてもいつしか私の傍に居たエルは、ぱたりと私の前に現れなくなった。
こんなに長くエルと会わない期間は無かった。
彼と最後に話したのは、精霊王の玉座の前で対峙してエルが誰なのかを知った日。
「……エル」
この名前を呼ぶのは何度めだろう?
オルガと話をした日に怒りながらこの名前を呼んだ。でも、何度呼ぼうともエルは現れなかった。
―――この名前を呼べば来てくれるって言ったのに……。
「……うそつき」
自然と涙が瞳から零れ、頬を伝う。
私の周りに居た精霊達は、いきなり泣き出した私を見て慌てだす。
「メイ、どこか痛いの? 」
「おなか空いたの? 」
「つまらない? 」
掌にのるかどうかの大きさの小さい妖精たちは、私の周りを飛びまわり口々に色々な言葉をかけてくれる。
「違う」と首を横に振り、涙を拭いながら木の根もとに腰を下ろす。大樹に頭を付けると、根が大地の水を吸う音が木の鼓動に聞こえ自然と素直な言葉が出た。
「……会いたいの」
その一言は自分の胸にしっくりと馴染むように落ち着いた。
―――私は、エルに会いたい。
文句を言いたいからじゃなく、ただ純粋に会いたいと思った。
(会って、声を聞きたい……)
小さい精霊達は私が誰に会いたいのかを察してくれたらしく、お互いの顔を見合わせて相談を始めた。
「高貴な方に会うのは、僕らじゃ難しいけど助けてあげたいね! 」
「あの方に会いたくて泣いてるって、誰かに伝えればいい? 」
「会えなくて寂しい? ―――じゃあ、会いに行けばいいんじゃないの? 」
「そっか! ……でも、どうやって? 」
ふわふわと頭の周りを飛びながら、首を傾げながら相談する様はとても愛らしい。
大樹の大きな枝から伸びる生い茂る葉で、強い日差しが木漏れ日の様に心地よい光になり、精霊たちの声が子守唄の様に聞こえ、いつしかメイは眠りに落ちた。
眠りに落ちる間際に考えるのは、彼の事。
エルに会いたい
寂しい
心が、痛い―――。
* * * *
「―――あらら、泣いてるよ。……ねぇ? エアリエル。お前は心が痛まないのかい? 」
長い蒼い髪を後ろで一括りにした精霊が、水鏡の前に座りメイを見ながら、背後に居るエアリエルに話しかける。
エアリエルは腕を組み、水鏡を見続ける蒼い髪の精霊ヒュドラを見下ろしながら水鏡に映し出された泣き疲れた様子のメイを覗き見る。
泣きながら眠るメイの許に直ぐに行きたい衝動に駆られながらも、これを見せるヒュドラの思惑が判らず、不快に感じ自身の前に後ろ姿を晒す男を睨みつける。
「……ははっ。ああ、お前でも心が痛むんだ? 」
心を読む能力が使えるヒュドラは振り向くと、こちらを睨んでいるエアリエルに向かって意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「―――ヒュドラ……、お前は何がしたいんだ? いきなり現れて水鏡を用意しろだの、黙って見ていろだの……」
「あれ? お前はあの子が見たいんだと思って見せてあげたんだけど? ……エンジュもそう言ってて、此処に連れてこられたんだけどさ」
「……俺は一言もそんな事を言ってないが? 」
水鏡を気にしていないふりをしているエアリエルを見てヒュドラは「へぇ? 」と口角を上げた。そして、水鏡に映るメイを消した後に呟き立ち上がると、エアリエルに近づきその胸元を指さす。
「お前の心は違うようだけど? 正直じゃないな」
エアリエルを見ながら意地の悪そうな笑みを浮かべ、軽い口調で話していたヒュドラだが、彼から目を逸らすと目の端に映った水鏡の中の自分達の姿を認め、表情を歪めた。
「……エアリエル、お前は昔から何も言わないな。―――一位精霊王を決める時もそうだっただろう? 同じ時に同じ力を女神から与えられた俺たちは、二人で決めろと女神に言われたよな。俺は嫌だと言い、お前は何も言わなかった。だから、お前が一位になった」
ヒュドラは何も言わないエアリエルの胸倉を掴むと、歪めた表情のままその双眸を覗き込んだ。
「本当はなりたくなかったんだろう? お前の属性は自由に動き回る『風』だ。一つの場所に、動かずに留まるなんて拷問の様な筈だ。……俺は、あの子がお前を解放してくれるような予感がする。……だから、正直になれ」
エアリエルの暗い瞳が揺らぐのを見届け、ヒュドラはうっすらと笑んだ。
「ずっと陰から、あの子が成長していく姿を見ていたんだろう? なのに、あの子の前に姿を見せたのは何でだ? ……その答えがお前の『望み』じゃないのか? エアリエル、お前の望みを叶え、止まった時を開放してくれるのは―――お前の心を占めたのは誰なのか。もう判ってるんだろう? 」
その言葉を聞いた時、穢れの無い力強い榛色の瞳を持つメイの姿が浮かんだ。そして、今まで認めれなかった自分の心の底の想いが、ストンと自分に馴染んだ。
彼女の両親から受け継いだ、本人も気付いていない魅了の瞳。
魔法の力は彼女が幼い頃に封じたが、それは遺伝により備わった封じる事のできなかった瞳だ。
そして、初めてあの瞳を見た時に、……名前を呼ばれた時に、惹きつけてやまなかった子供。
あの子供が成長して一人の女性に成長していく様子を、見続ける事をやめる事ができなかった。もう一度名前を呼んで欲しいと心の奥底で願っていた。
使役という形で無く、唯一の者として「エアリエル」と自身の名前を呼んで欲しいと、今でも願い続けている自分が居る。
エアリエルは、茫然とヒュドラを見ていた瞳を閉じると深く息を吐き、ややすっきりした表情で口角を上げ一歩下がった。
そして、自分に瓜二つの容貌を持つヒュドラに向かって、渾身の力を込め拳を振り上げた。
拳はヒュドラの頬に当たり、殴られるとは思っていなかったのか体勢を整える事ができず、よろめき尻もちをついた。
「―――っ!! 何で殴るわけ? 」
殴られた頬を抑えながら、自分を見下ろすエアリエルを恨みがましく見る。
エアリエルは殴った手をさすりながら、笑んでいる。
「礼だ。……メイの呪いを一つ解いただろう? 同時に俺がかけた、魔法と記憶を封じる雁字搦めの呪いも緩めただろう……? 」
「ああ、判った? 」
「当たり前だ。お陰で魂駆けをして此処まで来た。……それに、小さい者たちが寄ってきている」
真面目な顔つきで眉間にしわを寄せながら、顎に手を当てながら思案するその表情を見てヒュドラは思った。「コイツは俺と同じで唯一の人を見つけると一直線なのか」と。
エアリエルがメイにかけた、小さい精霊達を避ける呪いを解いた途端にメイの周りには小さい精霊達が寄るようになった。目の前に居るこの不機嫌な表情をしているエアリエルはどうやらそれが気に入らなく、自分を殴ったようだ……。
そう思うと何だかほほえましく思え、笑顔が自然に出てくる。
話が終った頃を見計らったのか、妖艶に微笑みながらエンジュが静かに現れた。
エンジュは長い裾の服を翻し、かつてエアリエルと共にこの治世を治めていたヒュドラと、自分の主に向かい、至極機嫌がいいように形の良い赤い唇を開いた。
「ああ、やっと終わりましたね。この何週間か、なかなか動こうとしないエル様を見てイライラしてたんですよ。此処までお膳立てしてあげてやっと気付くんですね。ホント、貴方は馬鹿王様です! ……もうすぐ新しい風の時代の到来ですね、この王を探さないで済むようになるなんて、待ち遠しいです」
「そうだね、エンジュ。 ま、直ぐには無理だろうけどね」
「………」
エンジュは嬉しそうに、ヒュドラは何かを含んだ笑顔で、そしてエアリエルは無表情を装い、三者三様の表情を浮かべ、話が終ろうとした時にそれは起こった―――。
エアリエルの周りに強制召喚の魔法陣が現れ、エアリエルが赤い炎と琥珀の様な色が入り混じった光に包まれた。
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