オルガの告白
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窓と扉には外から誰かが入ってこないように内側から鍵を掛け、部屋の中の話声が外に漏れないように結界をかける。念には念をという事で、部屋の四隅には結界を強固にするために結界石を置く。
部屋の中には、この部屋を魔法と精霊の研究の為に使っているメイとオルガが、円卓に向かい合うように座っている。
「もう調子はいいの? ……魂駆けした影響でずっと寝てたって聞いてたけど」
オルガは心配そうに向かいに座るメイの顔を覗き込み、その琥珀色の瞳がメイを映している。
メイは向かいから真っ直ぐに向けられる視線をうけて、顔を赤くした後コクコクと縦に首を振り、肯定を表す。そして、真剣な表情をしてオルガに口を開く。
「心配かけてごめんね。……実は、あの時にエルに会ったの。―――精霊の王城で」
オルガは音を立てて立ち上がり、その反動で座っていた椅子が倒れる。静かな部屋でオルガの倒した椅子の音が響くが、それよりも大きい声を響かせて目を見開きオルガが驚く。
「―――精霊界の王城っ!!? 何でそんな危険な場所に行ったのさっ?! 」
音が出るように勢いよく机に手を付き、身を乗り出すようにメイを見る。
「君の両親が精霊界にした事は聞いたこと位あるよねっ? ……恨みを買っていてもおかしくないんだよ? そんな所に一人で―――しかも魂だけで行くなんて。悪い精霊達に捕まって戻ってこれなかったらどうするのさ!! 」
普段オルガが見せる柔らかな表情とは打って変わって、般若の様な顔をこちらに向けながら、詰め寄るように机に身を乗り出して怒っている。
今、オルガの瞳の中には困った表情の私が映し出されている。
オルガの言いたい事は判る。
私の両親が……主に母様が、三人の精霊王を退位に追い込み精霊界を混乱に陥れたのだ。母様本人は混乱させたかったんじゃないと思うけど。
三精霊王がいきなり新人に変わり、一時期は秩序が乱れに乱れたらしい。それを鎮めたのが、残った精霊王とその重鎮たちと言われている。それ故に、精霊界の重鎮達から恨みを買っていてもおかしくはない。
オルガはそこを心配してくれている。とてもありがたい事だ。
精霊王は呼べる人間がめったに現れないことから、なかなか退位する事が無いと言われている。今まで伝えられている史実では、三人も一気に抜けたのはこの国の始祖王以来の事である。
この国の始祖王は女神から愛され、持つ魔力が大きかったことから四精霊王を使役する事ができた。けれども、私の両親は女神の助力は無いが、何故か精霊王達を使役する事が出来てしまったらしい。……我が親の事だけれども不思議でしょうがない。
自分の表情が確認できるほど近くにオルガの顔が迫ってる事に恥ずかしさを覚えつつ、目が覚めたら幽体離脱状態だった事や蒼い精霊が自分の様子を見に来ていて、その後で何故か精霊界の王城へ行きエルと会い、忘れていた過去の出来事を話した。―――エルが王座の間に居た事は伏せて。
オルガは話を聞き終わると、瞳を閉じて息を深く吐きだした。
両手を机に付け身を乗り出したそのままで、頭を垂れながら普段よりも少し低い声音で口を開く。
「……魂駆けってさ、一番行きたい場所に行けるんだ。―――君はどうして……、クソ精霊の事を考えたの? 」
顔をあげたオルガは琥珀色の瞳を色濃くしながら私の顔を見据える。その表情は何かを必死で堪えているようで、とても辛そうだ。
どう答えていいのか判らなくて、言葉が出ない私にオルガは聞き方を変えてくる。
「魂だけの時にただ考えるだけじゃ、どこへも行けない。―――でも、魂を懸けて本当に行きたいと思えば実行できる事なんだ。……だから『魂駆け』って言われてる。……メイはクソ精霊の事が、そんなに好きなの? 」
「―――えっ? 」
確かにあの時はエルの事を考えた。でも、それは一発殴ってやろうと思ってただけで……。決して命をかけて会いに行ったわけじゃない。むしろ、そんな事知らなかったし……。
オルガにそう伝えようと思っても、何故か口が開かない。エルの事を考えると、玉座の前で見たエルの事を思い出し、心の奥深くで針が無数に刺さったかのように痛くなる。
――――これが好きって事なの?
「……判らない。エルの事をどう思ってるかなんて」
目の前にあるオルガの瞳には、顔を歪ませた私が映っている。
「何で判らないの? いつもメイの事を見てた僕でも判る事なのに。……君がクソ精霊の事を話す表情は……」
私と同じように顔を歪ませてオルガが何か言おうとするが、口を噤み眉間にしわを寄せて私から視線をずらす。
机から手を離すと、いきなりしゃがみ込み頭を抱えて蹲った。
「―――っ! あああ~~! もうっ!! 鈍いにも程があるよっ!! この三年、僕も君の傍に居たのに何で僕の所に来なくてクソ精霊の所に行ったの? ねえっ、少しでも僕の事考えてくれたっ? 」
一気に捲し立てると視線を私に戻し、私とオルガを隔てていた机を横切った。そして、切ない表情を浮かべながら目の前に来たオルガは、不意に私を抱きしめた。
「この一週間、君が起きなくて生きた心地がしなかった。……それにさ、あの蒼い精霊が、君がクソ精霊の所に魂駆けしたって言って、悔しかったんだ。何で僕の所に来てくれないの? って」
オルガの黒いローブ越しに早鐘の様に打つ鼓動が、彼がとても緊張しているのを伝えてくれる。逃がさないと言う代わりに、オルガの腕がきつく私を抱きしめる。
私の耳元に吐息がかかり、囁くように彼のその優しい声音で、全ての気持ちを籠めて告げる。
「メイ、君が好きなんだ! 」
オルガの鼓動に重なるように、私の鼓動も自然に早くなる。
「……うん」
私の乾いた口から紡がれた言葉は、たった一言だった。そんな返事にオルガは耳元で笑うと、私を解放した。
「―――それって、どう取ればいいの? ……まあ、今は聞かないどくよ。別にすぐに返事が欲しいわけじゃないし」
「ああ~! すっきりした! 」と言いながら、爽快な表情で椅子に座りなおすオルガにあっけにとられながら私も座りなおす。
お互いに先ほどの事もありながら、やや緊張しながら真剣に話し始める。
「実は僕さ、クソ精霊の正体と蒼い精霊の正体を知ってるんだ。―――メイも見当付いてるんじゃない? 」
「……知ってるというか、だいたい思い出したの。彼らの名前を言えるほど私の力が無いから言えないけど……。蒼い精霊は、母様の精霊だった。遠目からだけど見た事があるの。エルは―――…」
「君の親である、アイリスでさえ使役できなかった『精霊王』だよね? 」
その問いに私は魂駆けした時に見たエルの居た場所を思い出し是の意味を込め、首を縦に一度振る。
……間違いはないはず。精霊王の玉座に座れるのは一位の王のみ。母様が使役できなかったのは一位精霊王だけだし。
オルガはそれを見て、頬杖をつきながら何かを考えるように空いている方の指でトントンと机を弾く。とても真剣に考えている時に出るオルガの癖だ。
「そのクソ精霊が三年ほど前からいきなり君の前に現れたのって、偶然かな? ……僕の記憶が正しければ、道に迷って帰るのが深夜になった日だよね? 」
「うん」
「精霊王が、ふらりと山の中に現れる? 」
「!!!!! 」
今まで考えた事も無かったけれど、言われてみればそうだ。なんであんな時間に場所に?!
……そうだ、よくよく考えればあの日からだ。精霊達が私から逃げるようになったのは。蒼い精霊も『小さき精霊を弾く呪い』って言ってたし。もしかして―――。
「もしかして、……ずっと見られてたとか……? 」
心の中で考えてた事がオルガの口から出て驚く。さっきのオルガ程ではないけれど、私も椅子を倒しそうな勢いで立ち上がる。
「そ、そんなっ! いつから?! ……初めて呼び出した時? 」
「……多分」
オルガが困ったように笑いながら視線を私からずらすとポツリと言った「やっぱりアイツってストーカー……」と。
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