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精霊使いのお願い  作者: まるあ
本編
25/34

愛しい感情

やっと、恋愛に戻ってきた気がします。


うまく書けなくて、すごく長くなってしまいました……。

 

 メイの姿を見始めて十年が過ぎた。

 

 その間、俺はあの波立つ感情をメイに「エアリエル」と名を呼ばれた事により、自身が縛られた事だと結論を出した。使役されるまではいっていないが、顔を定期的に見なければ何故か苛立つ。どう考えても、名前を縛られたとしか考えれない。

 幼女にそんな能力があるのかと疑問にも思うが、あのアイリスとグラティスの子供だ。そうで無ければ納得ができない。それに、指輪という魔法具まであった。……あの二人の魔力付きのだ。


 十年の間に何度も魔法を使おうと、努力をしていたようだが無駄な事だ。あの時の封印は壊れない。


 メイは十五になり、精霊使いを育成する学校に通い出した。

 

 彼女の周りにはいつもべったりと下級精霊達が居る。いつか、メイはこの者達から使役する精霊を選ぶのだろうか。

 


 今日もメイはたくさんの火の下級妖精と一緒に居る。小さい下級精霊達はメイに火の魔法を扱えるように教えているようだ。朝から始まって、今は西日が森を照らしている時間だ。どんなに教えようが時間をかけようが、無駄な事―――俺のかけた封印が直ぐに魔法を打ち消す。


 日が沈み始めた頃、一体の小さい火の下級精霊がメイに自分を使役してくれと訴え出した。


「メイ、私は貴方を助けたいの。魔法が使えないのなら、私がメイの魔法の代わりになるよ! ……それとも私じゃ、弱すぎるからダメなのかなぁ」

 メイは、目の前で肩を落とし項垂(うなだ)れる精霊に瞳を潤ませ、手を胸の前に組み感激している。

「……ありがとう! すごく嬉しい!! 」


 

 二人のやり取りを遠目から見ていて、心の奥底に過去にあったような波立つ感情が湧き上がってきた。

 いつもなら顔を見るだけで凪いだ気持ちになっていたが、今はメイと彼女に侍ろうとする精霊を見ると苛立ってくる。

 こんな場所で魔力を爆発させてはいけない。苛立ちが自身の纏う魔力を増幅させるが、ギリギリと歯を食いしばり、なんとか自分の力を抑える。


 だが、抑えきれずに周囲に漏れだした魔力を下級精霊達は敏感に感じ取り、辺りを見回し上級精霊であるエアリエルを見つけると、メイに何も言わずに逃げ去った。

 いきなり全員目の前から消えた精霊にメイは「えっ?!なんで??」と素っ頓狂な声をあげていたが、暫く待っていても現れない精霊を諦め、一人で再び魔法の練習を始めた。


 どれくらい見ていたのだろうか……。日が沈み、空には星空が浮かんだ。新月なのか月が出ていない為、辺りは漆黒の闇に閉ざされている。近くで羽ばたく鳥の羽音で我に返ったのか、メイは急いで帰り支度をして走り始めた。―――何故か彼女が本来帰るべき場所と反対の方向へと……。


 放っておこうと思ったが、何故か体が自然に動きメイを追う。メイの事になるといつもそうだ。体が意思に従わず勝手に動いたり、わけも判らずイラつく事がある。


 体が勝手にメイを追い始めてどの位経っただろうか……。メイはいきなり立ち止り、しゃがみこんだ。何をやっているのかと(いぶか)しんでいると、すすり泣きが聞こえた。



 ……まさか道に迷っているとは言わないだろうな?



 遠目から見るメイの泣き顔を見て、昔この指で(すく)った温かな雫を思い出した。


 ―――今のメイの頬を伝う涙も、あの時と同じ温かさを含んでいるのだろうか……。


 触れてみたい。そう思った瞬間、何故か体が勝手に動き、気付けばメイの前に(かが)みこみ涙を掬い取っている自分が居た。


「―――えっ……?! 」


 自分の体が勝手に動いた事に驚いたが、瞳が顔から零れ落ちんばかりに目を見開いているメイの顔にもっと驚いた。

 目の前にあるメイの表情は、目を見開き時が止まったかのように固まっている。―――それはそうだろう。泣いていたらいきなり目の前に見知らぬ人(精霊)が現れて、自分の涙を拭いているのだ。驚かない方がおかしい。



 俺は焦るといった事を経験したことがない。だが、この時は初めて『焦る』とい事を経験した。こんな時はどうすればいいのか判らないのだ。―――こんな時、口が達者なエンジュが居たらどんな言葉を言っているだろう……。そう思ったら、口からスラスラと言葉が出てきた。


「こんな山奥で、なぜ泣いているんです? もう遅い時間ですし、帰った方がいいんじゃないですか? 」 


 苦し紛れにエンジュがいつも作る笑みを真似てつけ足した。メイは暗闇でもわかる程顔を赤らめた後ポツリと言った。

 

 

「……魔法の練習をしてたの」


 とりあえず会話をする気になったようだ。よし、これからはエンジュを真似てみよう。


「ああ、それでこんな時間にっ! 」

 聞かなくてもずっと見ていた為、判っているがエンジュの様に大げさに相槌を打つ。だが、少し大袈裟すぎたようでメイが眉を寄せ訝しむ仕草をする。

「……そう」

 

 メイの瞳が「アンタ誰? 」と語っている。だが、エンジュなら見ていない事にするだろう。無視だ、無視……。

「―――で? こんな山奥で何をしていたんですか? 」

 エンジュがいつもやるように首を横にかしげ、人を小馬鹿にするような仕草を真似てメイを見る。

 メイは、「迷った」と素直に言うのが恥ずかしいらしく、顔を赤らめて口元をモゴモゴと動かしている。

 俺を見ては視線を外し、また視線を戻すと言う事を繰り返していた。その顔を見ていると笑いがこみあげてきた。

「……言えない事をしていたんですね。帰っちゃいましょかねぇ? 」


 笑いを堪えるために立ち上がり、彼女に背を向け帰るふりをすると服の裾をメイが掴んだ。そして、思いっきり引っ張り「行かないで! 」と半ば叫ぶような声が聞こえた。

 振り返ると、顔全体が真っ赤に染まったメイがエアリエルを見ていた。


「……道にまよっちゃったの」

 先ほど俺を引き留めた声とは真逆のか細い声で言い終わると、叱られた子供のような、バツの悪そうな顔をして視線を横にずらす。

 その瞬間、先ほど我慢した笑いが、抑えきれなくなり噴き出した。しゃがみ込み、我慢していた笑いを放出する。


「―――ふっ……! くっくくくっ……! は~っ、はははははははは!!!! 迷子になる年齢じゃないだろう!! 」


 



 どれくらい笑っただろう。……あんなに笑ったのは随分と久しい。笑い過ぎて腹が痛くなったのは初めてかもしれない。メイを見ているといろいろな感情が湧いてくる。―――俺の名を縛った者だからだろうか……。

「……ふふふ。久しぶりにあんなに笑いました。お陰で、何やらすっきりしましたよ。あなたと居ると楽しいですね? 迷子のお嬢さん」


「くっ! 何もしてない気がするけど。すっきり出来て何よりね? 」


 馬鹿にされたと思ったメイは引きつった顔をしてこちらを見ている。心なしか、目が据わっている。



 メイはずいぶん感情豊かな娘に育った。もっとメイの色んな表情を見たい。誰よりも傍で……。そう思うのは縛られているからだろうか?

 だったら、傍に居ようじゃないか。昔かけた呪いが解けないように監視しながら、メイの命が果てるまで傍に居て、楽しませてもらおうじゃないか。


 メイを見ながら、人間を虜にする妖艶な笑みを浮かべ口を開く。


「―――決めました。貴方を私の妻にしましょう! あんなに笑わせてくれるのはあなた以外居ないです!! 」

 

 ―――そう、そしてお前も俺以外の精霊は要らない。俺はその他大勢と同じでは嫌なんだ。


 気付けば、メイに俺以外の精霊が寄りつけない呪いをメイに施していた。呪いを自分の唇にのせ、メイのそれと合わせる。

 メイは頭で処理しきれていないのか、硬直し榛色に輝くその瞳を見開き息を止めている。柔らかい感触を堪能し、そろそろメイの息が限界かと繋がった唇を離す。

 

「……口づけの時は目を閉じるものですよ? ―――メイさん? 」


 柔らかく、気持ちの良い感触にもう一度触れたくて更に口づけしようと顔を近づける―――、だが二度目は触れることなく触れたのは俺の頬に入り込んだ一発の拳……。思ってもなかった攻撃でよろめいた上体にメイの蹴りが繰り出されるが、間をとりそれを避ける。

 メイは真っ赤な顔をして、ブルブルと震えながら袖で唇を拭いながらこちらを睨んでいる。

 

「―――何すんのよ~~っ!! こんな変態の近くに居られるかぁっ!! ……帰るっ!!」


 早歩きで森の中に消えていこうとするメイの腕をとり、どうやって帰るのかと聞いてみる。

「歩いて帰るんですかっ?! 」

「魔法が使えないのよっ!! 友達の精霊に道案内位してもらうから、あっちに行ってよ!! 」

 ずかずかと歩きながら「ついてくんなっ! 変態精霊っ!! 」と叫びながら、下級精霊達を呼んでいる。


「…………来ませんね? 」

 傍に居る自分に頼らず、下級精霊を呼ぶなと嫌味を込めてニッコリと微笑む。

「まあ、精霊なんて気まぐれですからね? ふふふ。―――仕方ないので、送ってあげますよ。あ、その前に手をだしてください。出さないなら、強制的に手が出る魔法をかけましょうか? 」


 おずおずと出された掌に、昔メイから貰いうけた黒い宝石のついた指輪をのせる。

 メイは金の指輪に黒い宝石の乗っている指輪を見て、驚いた顔をしている。

「これ、父様と母様の魔力の気配がする。なんで? どうして持ってるの?! 」

「―――秘密です。貴女が手に入るから、コレはもういらないんで返しますね。」

 

 「あんたのモノにならないわよ! 」と憤慨するメイの頭に手を当て、妖艶に微笑みながらこの指輪を渡した時の記憶を時間魔法で抜き取る。そして、この指輪はメイの魔法媒介だという記憶を刷り込んだ。


 そして、記憶操作で意識を失ったメイを抱きこんだエアリエルは、この腕の中に眠る彼女を愛しく思い始めているのに気付かず、単に名前で縛られているだけと決めつけ、数年後に自覚した時に苦労するのだった。

 




 

 

 


 


 


 

 


 



 

 

 

 

 

お疲れさまでした!

今回で過去話は終わりです。うまく書けなくて、何度も推敲を重ねたつもりだったのですが、どうだったでしょうか。

次回から、現代のお話に戻ります!やっと恋愛ものが書けるので張り切ってます(^_^)

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