触れた温かさ
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今回も過去編です。過去との事で、元三精霊王達を登場させてみました。こちらは短編の『魔王~』で出てくるキャラクターです。まだ、出てないキャラも此方には出ておりますが……。
最後まで読んでいただけると嬉しいです!(^^)!
眩い虹と、その虹に纏う魔力を身に帯び一位精霊王であるエアリエルは移動魔法を使った。
少女の悲痛な呼び声に引き寄せられるかの様に、その声が発せられている場所へと―――。
移動先はどうやらどこかの部屋らしい。
自分の使用した移動魔法の陣とは別の魔法陣が、部屋を覆い尽くす様に虹色の光で描かれている。感じる魔力は先ほど天に逝った二つの魂のものが混じり合ったもの。
部屋を一回り見回すが、呼び出したらしき者の姿が見当たらない。やや不思議に思っていると……足元に、泣き過ぎて目が真っ赤になった一人の幼女が失望感に彩られたその瞳を潤ませながらも、こちらを見上げていた。
おそらく五つにもなっていない小さな娘。自分が引き寄せられた相手がこんなに幼い幼女だとは思いもしなかった。今まで精霊王である自分を呼べたのは、最高召喚士や王族達などそれなりに能力を磨き続けた年老いた者達だった。呼び出される時も、なにかの便利な道具の如く扱われる。
若い人間で一位精霊王を呼べた例外は、魔力が人間にしておくのが惜しい程有る、若い女召喚士のみだった。彼女はエアリエルの事を便利なものとして扱う事はしなかった。なぜか「友達になりたいから使役したい」と言っていた……。変な女だった。
幼女の持つ榛色の瞳と、その身に纏う魔力からこの娘が誰の子供かが知れる。成程、両親の残した陣が発動しそこに込められた魔力が、この子供の想いを届ける手助けをしたのか。―――だが、自分の矜持がそれを許そうとはしない。ただの幼児に精霊王が引き寄せられたとあっては示しがつかない。まして自分は精霊界をまとめる者だ。それを表すかの様に、幼女に向かい普段よりも威圧感のある低い声が放たれた。
「―――何の用だ。アイリスとグラティスの娘」
ビクリと小動物のように体を震えさせるが、怯えの色が色濃く出た瞳は逸らさずこちらを向いている。小さな口は小刻みに動き、微かに聞き取れる声が発せられた。
「……~~っ。こんな怖い人、神様じゃない。……メイはいい子にするから、だから……、起こしてって神様にお願いしてたのにっ……! 」
止まっていた涙が堰を切ったかのように溢れ出た。次から次へと止まることなく幼女の頬を伝い筋となり流れ落ちる。
「……確かに、俺は神ではないな。だが、誰に願っても無駄だ。お前の親はもう起きない。―――天へと逝った」
その言葉を聞いたせいか、幼女は声をあげて泣き出した。
「……ふぇっ。……メイも父様と母様の所に行きたい! 」
「―――うるさいっ! 無理だ。……生きている者は行けない」
泣きじゃくる幼女は一喝され驚き、声を殺し静かに泣いていたが、しばらくすると落ち着いてきたのかポツリと呟いた。
「……怖いお兄ちゃん。……もしかして、お兄ちゃんがエアリエル? 母様がお話してくれた精霊の王様? 」
微かに聞き取った自分の名前に体が反応して動いた。
風魔法を使い、幼女を自分の目線まで持ち上げるとその視線で射殺すかのように睨んだ。
「―――そうだったら何だ。お前も俺に何かを望むのか? 」
いきなり持ち上げられ、すぐ目の前に迫る双眸に怯えつつも、瞳を逸らすことなくエアリエルを見つめる二つの穢れのない瞳。
「……うん」
「―――精霊に願いを言う時は、代償が必要だ。……エアリエルに願うのなら、お前の一番のモノを差し出せ」
『一番』と聞き、その瞳が揺らぐが幼女は視線を逸らすことなく「一番はダメ」と言い放った。そして、ポケットから一つの指輪をとりだすと、エアリエルに差し出した。
「一番は父様と母様だから、ダメなの。……でも、これはさっき叔母さんがくれたメイの宝物なの」
怯えからか穢れの無い両の瞳に涙が滲みだし、幼女は鼻をすすりながらも必死に言葉を紡ぎだす。
「……起こしてくれないなら、メイはお別れがしたいのっ。父様と母様が大好きだから、……だから大好きだよって言ってお別れがしたい……。母様が、精霊の王様は何でもできるって言ってた! 」
エアリエルは衝動的に幼女の頬に流れ落ちる涙を指で掬った。幼女は無表情に手を伸ばし頬に触れる指に、ビクリと体を震えさせた。
温かい雫に触れた指先が熱を帯び、エアリエルの心の中に波紋が生じた。
その熱は直ぐに冷たくなり、また温かい物に触れたくなった。そしてその榛色の瞳から流れる穢れのない雫を指先に絡め続けた。
……何だ? この感覚は……。
先ほどの心の中で生じた波紋が大きくなり、得体のしれない感情に呑まれそうになりエアリエルは恐怖した。
そして、その事を隠すかのように幼女の首を掴み、自身の魔力を込めた。
「このエアリエルという名に賭け、……メイ、稀有なるもの達の娘よ……。お前の『願い』を天へと届けよう。だが……、指輪だけでは足りない。お前の魔法を貰おう。―――これから先の未来、この喉から放たれる呪文は打ち消され続ける」
その言葉と共にメイの喉に封印の呪いがかけられ、胸にはその呪いを強固な物にするため、鎖が雁字搦めにかかった鍵が埋められた。
同時に二人の周りに緑の風が吹き荒れ始め、その風は屋敷中を巡った後全ての窓を開け放ち空に向かって流れて行った。
メイだけではなく屋敷中に居た者達の心を乗せて……。
吹き荒れた風が無くなり、静寂が戻ってきた。
部屋には封印の影響か、ぐったりと意識を無くしたメイがエアリエルに抱えられている。
エアリエルは部屋を見回し、一部始終を見ていただろう三つの気配に話しかけた。
「……お前達、何をしている? 」
冷えた一瞥を気配のある方向へ向けると、それぞれに水、地、火の属性を纏った眉目秀麗な男女の精霊が現れた。
水の気配が濃く出ている蒼い精霊が前に出て、意識を失ったメイをエアリエルからはぎ取るように奪い取る。
「―――返せ、エアリエル! 俺のメイだぞっ! 」
「そうじゃ、お前なんぞにこの子を抱き抱えるなんぞ勿体ないことじゃ」
「……これで出会いは果たされたのですね」
蒼い精霊がメイを抱え込み愛しそうに瞳を細めるのを横目で見ながら、エアリエルは先ほどまでこの腕の中に居た幼女の温もりが消えていくのを寂しく感じた。そして、感情の波紋が一段と大きく揺れた気がした。
「アイリスの命令が無かったら、さっきもメイの魔法を封印される前にお前の手から助けれたのにっ! 」
優しくメイの頭を撫ぜる蒼い水の精霊に加担するかの様に、眩い金の髪をした地の精霊が腕を組み、持った扇子で顔をトントン叩き、傲慢な態度でエアリエルと向き合った。
「―――アイリスの命は絶対じゃ。『メイが危機に陥るか、貴方達の存在を望むまで姿を見せるな。自然に死が訪れるまで守れ』難儀な命令であろう? だが、我らに時を与えた主の最後の願いじゃ。聞かんわけにはいかん。今ここに現れたのは―――…」
橙色の髪をした小柄な火の精霊が地の精霊の言葉を繋ぐように語りだす。
「エアリエルとメイの『出会い』を見る為です。興味半分もありましたが。私の託宣が当たるか見る為には、必要な事でしたから」
火の精霊の言った言葉で、この精霊達が自分の前を去った時の事が思い出され、エアリエルの脳裏をよぎった。
『エアリエルを振り回す者が生まれる』
エアリエルがそう思った時、心が読める能力を持つ水の精霊がエアリエルと似た容貌で、含みを持たせるように笑った。
「よく覚えてたね? その頃もう俺はアイリスの傍に居たからよく知らないけど、此処に居る二人はよくそう言ってるよ。……俺はあまり信じて無かったんだけどさ、今のお前の顔を見ると当たるかもって思う」
「ふっふっふっ。愉快じゃの~。出会いでその表情か。無表情のお前がこの子を手放され、寂しそうな顔をしておるぞ? 」
「そうですね! 先が楽しみです」
静かに会話を聞いていたエアリエルが顔を手で覆い、ポツリと呟いた。
「……寂しい? そんな筈はない」
今ある感情は、得も言われぬ感情だ。言葉では言い表せない程の。そして、その感情に満たされる事に恐怖感を感じている自分への苛立ち……。
「もう、その娘と俺が会うことは無い」
水の精霊に抱えられている幼女を一瞥すると、宣託を下した火の精霊にそう言い放ち踵を返して移動魔法を発動した。
「エアリエル。―――貴方様は自らメイに会いにいくでしょう。必ず―――」
後ろから聞こえた火の精霊の一言を聞き流し、エアリエルは自らの居城へと帰った。
そして、聞き流した筈の一言が頭の中から離れずに、苛立ちが募っていった……。
お疲れ様でした(^_^)
関西弁キャラを書いてみたくて、出してしまいました。実は、関西弁……大好きなんです(*^_^*)
作者は関西弁は話さないので、方言が変!と思われた方は是非ご一報ください。すぐに直しますので!