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提督のやり直し  作者: 逸見烈沙
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廻り始めた歯車

水平線の彼方から、朝焼けを背負って艦隊が姿を現した。  かつての静寂を取り戻した母港の桟橋に、私は大淀と共に立っていた。潮風に乗って届くのは、戦い抜いた艦たちの重厚な駆動音と、勝利を報せる高らかな汽笛の音。


 先頭を切って入港してきたのは、傷ついた体を引きずりながらも、誇らしげに艦首を向ける長門だった。その両脇を、アイオワとウォースパイトが護衛するように並び、異国の巨艦たちが朝日を浴びて白銀に輝いている。


「提督、全艦、無事に帰投いたしました」


 大淀が安堵の溜息とともに、静かに告げた。  やがて、水雷戦隊の面々が桟橋へと近づいてくる。一番に飛び込んできたのは、煤まみれになった夕立だった。その腕の中には、力なく、しかし確かに息づいている一人の少女が抱えられている。


「提督……! 連れて帰ってきたっぽい……約束、守ったよ……!」


 夕立の声は掠れ、足取りはふらついていたが、その表情には晴れやかな笑みが浮かんでいた。  時雨、村雨、春雨も、艤装をボロボロにしながらも、彼女を支えるように後に続く。


 上空では、赤城、加賀、瑞鶴、翔鶴の機動部隊が、勝利の旋回を行いながら着艦態勢に入っていた。彼女たちが守り抜いた空の下、これほどまでに活気に満ちた母港の風景を、私は初めて見るような気がした。


 夕立がゆっくりと、桟橋の上に少女を横たえる。  私は震える膝を抑え、駆け寄ってその場に膝をついた。  深海棲艦の禍々しい艤装は既に剥がれ落ち、そこにあるのは、記憶の中の姿そのままの、細く繊細な体。深海の色に染まっていた長い髪も、浄化の炎を潜り抜けたせいか、以前の輝きを少しずつ取り戻しているように見えた。


「……島風」


 その名を口にすると、彼女の睫毛が微かに震えた。  ゆっくりと開かれた瞳。かつて私を信頼し、共に駆け抜けたあの日の瞳が、ぼんやりと私を捉える。


「……てい、とく……? おそい……よ……。私を……置いていっちゃうなんて……」


 掠れた、けれど確かに聞き覚えのある生意気な口調。  私は堪えきれず、彼女の泥に汚れた小さな手を両手で包み込んだ。


「ああ、すまなかった。本当に……。……おかえり、島風」


 周囲からは、誰からともなく拍手が沸き起こり、やがてそれは大きな歓声へと変わっていった。  海外艦たちは高く右手を掲げ、一航戦の面々は静かに微笑み、白露型たちは互いの無事を確かめ合うように抱き合っている。


 奪還したのは、SO海域という名の地図上の一点だけではない。  凍りついていた私の心と、彼女たちの絆。そして、この鎮守府がこれから歩んでいく、光に満ちた未来そのものだった。


 工廠の方からは、待機していた明石たちがレンガを運ぶ元気な声が響いてくる。  私たちの戦いは、ここからまた、新しく始まっていくのだ。


桟橋に膝をつき、島風の泥に汚れた手を握りしめたまま、私は声を震わせた。 溢れ出す涙が止まらず、視界はぐにゃぐにゃに歪んでいる。


「私は……なぜ君を……あんな場所に、一人で……っ!」


喉の奥が熱く焼ける。言葉にならない後悔が、せり上がる感情と共に溢れ出した。 あの日、冷徹な数字を並べて「撤退」を選択した自分の指先を、今すぐ切り落としたいほどの衝動に駆られる。効率、損害、戦果。そんなもののために、私はこの温かな手を、光よりも速く駆ける彼女の未来を、暗い海の底へ突き落としたのだ。


「すまない……本当に、すまなかった……。私がもっと強ければ、私が、あの日……っ」


泣き崩れる私の頭に、不意に、柔らかくて冷たい感触が触れた。 驚いて顔を上げると、まだ意識が朦朧としているはずの島風が、力なく、けれど優しく微笑みながら、私の頬を撫でていた。


「……泣かないでよ、提督。そんな顔、全然カッコよくないんだから……」


彼女は小さく咳き込みながら、いつもの、あの少し生意気な口調で続けた。


「遅かったけど……でも、約束、守ってくれたでしょ? 置いていかないって……また、私を見つけてくれるって……」


「島風……」


「私は……速いんだから。提督が泣き止むまで、どこにも行かないよ。……だから、ね?」


彼女の指先が、私の涙を不器用に拭う。 その温もりに、私の凍りついていた時間は完全に溶かされ、あの日から止まっていた歯車が、音を立てて回り始めた。


周囲を見渡せば、夕立や時雨が、そして大淀までもが、静かに涙を流しながら私たちを見守っていた。 長門は黙って水平線を見つめ、アイオワは自分の帽子で顔を隠すように俯いている。


私は、もう一度彼女の手を強く握りしめた。今度は、絶対に離さない。


「ああ……。おかえり、島風。……もう、どこへも行かせない」


朝日は完全に昇り、瓦礫の隙間から差し込む光が、私たちの帰還を祝福するように、青く澄み渡った海を照らし出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あの日、海は今日と同じように青く、けれど残酷なほどに静かだった。


回想の中の私は、まだ「効率」という言葉で心を武装する前の、ただの若き指揮官だった。 執務室のデスクには、島風が持ってきた野の花が飾られ、カレンダーには次なる作戦「SO海域攻略作戦」の文字が力強く書き込まれていた。


「提督、準備はいい? 私の速さなら、敵の哨戒網なんて一瞬だよ。見ててね!」


出撃直前、桟橋で島風はいつものように得意げに笑った。私はその背中を頼もしく思い、「無理はするな、必ず全員で戻るんだぞ」と、心からの言葉をかけて彼女を送り出した。


作戦は順調に進むはずだった。 だが、SO海域の深部は、私たちの予想を遥かに超える深海棲艦の「巣」となっていた。


突如として発生した異常な濃霧。電探が効かない閉鎖空間の中で、艦隊は孤立した。次々と上がる悲鳴のような入電。私は混乱する頭で、それでも必死に指示を飛ばした。


「全艦、円陣を組め! 離れるな!」


だが、その時。 敵の旗艦級による急襲が、第一艦隊の側面に突き刺さった。殿を務めていたのは、もっとも速い島風だった。彼女は仲間を逃がすために、自ら囮となって敵の渦中へと突き進んでいった。


『提督! 私なら大丈夫、すぐ追いつくから! 先にみんなを……っ!』


無線の向こうで爆発音が響く。 私は叫んだ。叫び続けた。彼女を連れ戻すために、全艦反転の号令を下そうとした。


しかし、その時、私の背後に立っていた上層部の監視官が、冷徹に言い放った。 「一隻のために艦隊を全滅させる気か。今すぐ撤退路を確保しろ。それが指揮官の『義務』だ」


義務。責任。正解。 その言葉が、私の喉を塞いだ。 震える手で海図を見つめ、私は自分の心が死ぬ音を聞いた。


『……全艦、撤退。……島風を、残して。』


マイクを握る指が白くなるほど力を込めた。 無線の向こう、一瞬の静寂の後、島風の小さく笑うような声が聞こえた気がした。


『……了解。提督……。……先に行ってて……すぐ、追いつく、から……。』


それが、あの日聞いた彼女の最後の言葉だった。 遠ざかる艦隊の艦尾から見たSO海域は、彼女の速さを飲み込み、冷たく燃え上がっていた。


「……私は、あの日に自分を殺したんだ」


涙で濡れた島風の手を握りながら、私は呟いた。 効率を求め、感情を捨てたのは、そうしなければ自分を保てなかったから。彼女を見捨てた自分を、許せなかったから。


でも、彼女は。 ボロボロになり、深海の闇に堕ちてもなお、私の「約束」を信じて、あの暗い海の底で待っていてくれたのだ。


あの日、海域に送り出したのは、ただの偵察艦隊ではなかった。 私の、そして鎮守府の未来を託した、最も信頼できる小回りの利く精鋭たちだった。


旗艦に、冷静な判断力を期待して大淀を据え。 その護衛に、白露型の時雨、村雨、そして春雨。 さらに、どんな困難な状況でも冷静さを失わない霞。 そして、その中央で誰よりも速く駆け、敵の正体を暴き出す役割を担ったのが、島風だった。


「威力偵察……。敵の勢力圏に深く入り込み、その『脅威』を確認して戻る。それが任務だったはずだ」


回想の中、私の声はまだ若く、希望に満ちていた。 大淀が率いるその艦隊なら、どんな敵が相手でも、風のように情報を持ち帰ってくれると信じて疑わなかった。


だが、SO海域の「脅威」は、私たちの想像を絶していた。 待ち構えていたのは、単なる敵艦隊ではなく、海域そのものが牙を剥くような伏撃。


『提督! 敵艦載機の群れです! どこから……これほどの数が!?』 無線の向こうで、大淀の悲鳴に近い報告が響く。


『時雨、被弾! 春雨が庇っています! 霞、左舷の敵を引きつけて!』 『ダメよ、数が多すぎるわ! このままじゃ全員沈んじゃう……っ!』


村雨の焦燥、霞の怒号。 そして、その混沌とした戦場を切り裂くように、島風が叫んだ。


『……私が行く。……私なら、全部振り切って、あいつらの注意を引ける!』


それが、地獄の始まりだった。 島風は全速で敵陣へと突っ込み、孤立した。 私は、モニターに映る彼女の急速に離れていく信号を見つめることしかできなかった。 大淀たちは彼女を救おうとした。だが、大淀自身も大破し、艦隊は全滅の危機に瀕していた。


「……撤退しろ」


あの時、私は大淀にそう命じた。 旗艦である大淀が沈めば、情報の持ち帰りはおろか、生存者さえゼロになる。 大淀は拒んだ。何度も、何度も、島風を救いに行くと叫んだ。 それを力ずくで、提督としての権限でねじ伏せたのは、私だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「島風を……囮にして……私たちは逃げたんだ」


大淀の悲しそうな、そしてどこか悟ったような視線の意味が、ようやく完全に理解できた。 彼女もまた、あの日、私の命令で戦友を置き去りにした「加害者」の一人として、ずっと自分を責め続けていたのだ。


震える手で、島風の頬に触れる。 この細い肩に、艦隊すべての命を背負わせてしまった。 偵察という名の、生還を度外視したような無茶な任務を、笑顔で引き受けさせたのは、他でもない私だ。


「……ごめん。本当に、ごめんな……」


泣きじゃくる私の前で、島風はうっすらと目を開け、まるで「そんなこと、もう忘れたよ」と言うかのように、弱々しく、けれど誇らしげに笑ってみせた。


工廠の冷たい空気の中で、かつて私が何気なく投げかけた問い。  私の記憶を覆う「靄」について、大淀や春雨が言葉を濁し、悲しげに視線を逸らしたあの時の沈黙。その本当の意味を、今、私は痛いほどに理解していた。


「……そうだったんだな、大淀。春雨」


 私が島風を看病する傍らで、大淀は小さく肩を震わせ、春雨は祈るように手を握りしめている。  彼女たちは知っていた。私が「効率」に逃げた理由を。あの日、島風を置き去りにした罪悪感に耐えきれず、自ら心を壊して記憶を封じ込めた私の弱さを。


 もし、真実を告げてしまえば、私は再び崩壊してしまうかもしれない。  そう案じた彼女たちは、私に気を使い、敢えて沈黙を選んでいたのだ。何も知らない「効率的な指揮官」として振る舞う私を、どれほどの思いで見つめていたのだろうか。


「……ごめんなさい、提督」


 大淀が、消え入るような声で呟いた。


「私たちは、提督に真実を突きつける勇気がありませんでした。……提督が、あの日以来、ご自身をどれほど責めていらしたかを知っていたから。私たちが、提督の心の盾にならなければいけないと思っていたんです」


 隣で、春雨も涙を拭いながら頷いた。


「春雨も、提督を傷つけたくなかったんです……。島風ちゃんを助けられなかったのは、私たちの力不足なのに……提督一人が背負い込もうとするから。だから、あの靄が、提督を守ってくれているんだって……そう、思おうとしていました」


 彼女たちは、私を恨むどころか、記憶を失ってまで艦隊を守ろうとした私の不器用な優しさを、必死に守ろうとしてくれていた。


「……君たちは、本当に優しいな」


 私は、島風の手を握り直した。  記憶の靄は、もう晴れた。  もう、効率という言葉で自分を偽る必要はない。


「これからは……もう、隠し事はなしだ。辛いことも、悲しいことも、全部みんなで共有しよう。……もう二度と、一人にさせたりしない。それは、島風に対しても、君たちに対してもだ」


 私の言葉に、大淀と春雨が、重い荷物を下ろしたような表情で深く頷いた。


 工廠に響く修理の槌音は、どこか明るい音色に変わっていた。  失われた記憶は悲劇だったかもしれないが、それを乗り越えて結ばれた絆は、かつての何倍も強く、温かなものになっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗くて、冷たい場所にいた気がする。  速く走ろうとしても足が動かなくて、後ろから誰かが呼んでいるのに、どうしても振り返ることができなかった。


 でも、急に身体が熱くなって、真っ白な光に包まれて……。


「……ん、……っ」


 重い瞼をゆっくりと持ち上げる。  視界に飛び込んできたのは、深海のどろどろとした黒じゃない。見慣れた、少し古びたでもどこか新しい工廠の高い天井だった。


「……あら、目が覚めました? 無理に動いちゃダメですよ」


 すぐそばで、カチャカチャという機械の音と、のんびりとした、でもどこか安心する声が聞こえた。  視線を向けると、ピンク色の髪を揺らした明石が、工具を片手に私の顔を覗き込んでいた。


「……あか……し?」


「そうですよ。お帰りなさい、島風ちゃん。……もう、あんなボロボロになって。直すこっちの身にもなってほしいものです。連装砲ちゃんたちも、まだ修理中なんですから」


 明石はそう言って、いつものように呆れたような、でも本当に嬉しそうな顔で笑った。  身体を起こそうとすると、全身にズキッとした痛みが走る。でも、それと一緒に、ずっと忘れていた「自分の体」の感覚が戻ってくるのがわかった。


 重い艤装の代わりに、今は清潔な包帯が巻かれている。  工廠の隅には、使い込まれたオイルの匂いと、誰かが焚いてくれたお香の香りが混ざっていた。


「……提督、は?」


 一番に思い出したのは、あの泣きそうな顔で私の手を握っていた人のこと。


「提督なら、ついさっきまでずっとここにいたんですよ。大淀さんに『少しは休んでください』って無理やり連れて行かれちゃいましたけど。……島風ちゃんが目を覚ましたって知ったら、また泣きながら飛んでくるんじゃないかしら」


 明石が作業台のスパナを置くと、工廠の入り口の方を指差した。


 ああ、夢じゃなかったんだ。  置いていかれたんじゃなくて、迎えに来てくれたんだ。


 窓から差し込む光が、私の手に触れる。  まだ少し震える指先を動かしてみる。……大丈夫、動ける。   「……ふふっ。早く……走りたいな」


 誰よりも速く駆け抜けて、あの泣き虫な提督のところまで。  今度は私から、驚かせてあげるんだから。


「……ねえ、明石。私、どれくらい寝てたの?」


 明石の作業する手を止めて、私はぼんやりと自分の手を見つめた。  頭の中に、いくつもの穴が空いているみたい。思い出そうとすると、霧がかかったみたいに白くなって、うまく形にならない。


「最後……に覚えてるのは、あの暗い海。大淀さんたちが逃げる時間を稼ぐために、私が……」


 そう。あの時、私は誰よりも速く走って、敵の注意を全部自分に集めたんだ。  背後で遠ざかっていくみんなの航跡を見て、「よし、これで大丈夫」って思った。そこまでははっきり覚えている。


 でも、その先が、真っ暗で。


「……気づいたら、ここだったの。提督が泣いてて、みんながボロボロで。……私、あの日から今まで、ずっとあの海にいたの?」


 明石は、持っていたスパナをそっと置くと、私の隣に腰掛けた。


「島風ちゃん。……時間は、ずいぶん流れてしまいました。でもね、あなたが止まっていた間、提督もずっと止まったままだったんですよ」


「提督が……?」


「ええ。あなたの『速さ』と一緒に、提督は大事な記憶を全部、鍵をかけて隠しちゃったんです。……あなたが帰ってくる、今日まで」


 明石の話を聞いても、やっぱり実感がわかない。  でも、胸の奥がチクッと痛んだ。私が囮になったあの瞬間から、提督の時間まで奪ってしまっていたんだとしたら。


「……そっか。……じゃあ、今度は私が、止まってた時間を取り戻してあげなきゃ」


 私は、まだ少し重い足をベッドから下ろした。  抜けてしまった記憶は、また新しく作ればいい。  私が一番速いんだから、失くした時間なんて、すぐに追い越しちゃうんだから。


「明石、私の艤装、一番速いやつにして。……提督を、もう待たせたくないから」


 明石は困ったように、でも嬉しそうに笑って、「はいはい、特急で仕上げますね」と答えてくれた。


明石に無理を言って、一番に修復してもらった連装砲ちゃんが、私の足元で元気に跳ねている。


 工廠の重い扉を開けると、そこには眩しいくらいの太陽が広がっていた。  SO海域の、あのどろどろに濁った黒い水とは違う。キラキラと輝く、私たちの青い海。


「よし、連装砲ちゃん、行くよ! 遅れないでね!」


 私は桟橋を蹴った。  まだ完全に馴染んでいない新しい艤装。風が、髪を掬い上げて後ろへと流れていく。この感覚。頬を叩く潮風の痛いくらいの冷たさ。


「あははっ! やっぱり、私……速いんだから!」


 失われた記憶の穴を埋めるように、私は母港の海を大きく旋回した。  水平線の向こうで、哨戒に出ていた時雨や夕立が、私の姿を見つけて大きく手を振っているのが見える。アイオワの大きな砲塔が、祝福するように空へ向けて動いた。


 そして、執務室の窓。  そこには、驚いた顔で窓を開け、身を乗り出している提督の姿があった。


 私は海面を滑るように加速し、執務室のすぐ下の岸壁まで一気に駆け抜けた。  急停止して跳ね上がった水しぶきが、キラキラと朝日に透けて、虹を作る。


「提督ー! 見てるー!?」


 大きく手を振って叫ぶ。  窓辺の提督は、呆れたような、でも、さっきまで泣いていたのが嘘みたいな、本当に幸せそうな顔をして笑っていた。


 失くした記憶はたくさんある。  あの日の悲しい決断も、この数ヶ月の提督の苦しみも、私の頭の中には欠片しか残っていない。


 でも、いいんだ。  またここから、誰よりも速く走り始めて、提督の隣に新しい思い出をいっぱい積み上げていく。  止まっていた時間は、今、この瞬間の爆速で、全部追い越してあげる。


「準備しててね、提督! これからはずっと一緒だからね!」


提督は笑顔で私を迎えてくれた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

この話の続きに番外の過去編を続けて投稿いたします。

書き終えるまでしばらくお待ちください

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