第40話 その不幸は単なる偶然だった
戦いの一夜が明け、さらに丸一日がすぎた。
大勝利ではあるものの損害はそれなりに大きく、動ける住民たちは破壊された防壁の撤去と修復の作業に追われている。
キン肉ドライバーをくらった中級天使ジャミスはしぶとく生きのびた。いまは牢屋の中で「痛てえ……痛てえ……」とうめき声をあげているらしい。
ヘタに拷問したら死んでしまうかもしれないので、いまはまだ放置プレイだ。
まっ、大変ではあったがうまく切り抜けることができたといわけで。
めでたしめでたし。
……そう思って誰もが油断していた、昼間のことである。
空から乱暴に急降下してくるひとつの影があらわれた。
影は錬金術研究所本舎の前に降ってくる。
ズゥゥン……!!
墜落とほとんど変わらないような勢いで着地したそれは、物騒な物音をたてたにもかかわらず平然と大地に立っていた。
「…………遅かったか」
背の高い男だった。全身を紫黒の鎧でかためた、目つきの鋭すぎる男。
男は金属製の翼を折りたたみながら周囲を油断なく見すえる。
不幸にもその場に居あわせた住民たちは、金縛りにあったように身がすくんでしまい動くこともできなかった。
おそらくこの男は数えきれないほど人を殺している。ただ立っているだけなのにまるで瘴気のようなオーラがただよっていた。
ゾンビには見えない。だが人類の味方とも思えなかった。
「おいそこの貴様」
男は近くにいた住人に声をかける。たまたまそこにいた住民は目と目があっただけで、奇妙なほど膝がガクガクとふるえ出してしまう。
「この辺りから戦いの気配を感じたので見物に来たのだが、もう終わったのか」
「……! ……!」
住民は恐怖と緊張で上手くしゃべれないらしい。
まるで魚のように口をパクパク上下させるだけだ。
「どうなんだ」
「……ぁ、ぉあっ、た……!」
どうにかそれだけ絞り出すように言う。
「フン」
紫黒の鎧をまとった男はつまらなそうに鼻を鳴らし目をそむける。
住民は緊張の糸が切れてその場にへたり込んだ。
鎧の男は会話していた相手の不調などおかまいなしで、建物の様子などを見ている。
そこにもう一つ、空から小さな影が降ってきた。
「ジーク様~!」
降ってきたのは手のひらサイズの小さな少年。
背中から昆虫の羽を四枚はやしていて、まるでファンタジー世界の妖精だ。
「ひどいですよジーク様! どうしてビュンビュン自分だけ行っちゃうんですか~!!」
「ついて来いと言ったおぼえはない」
小さな知り合いに対しても男の態度は不愛想だった。
そうこうしているうちに落下時の轟音を聞きつけた住人たちがゾロゾロと集まってくる。武装している者もいた。
そしてジークとよばれた禍々しい鎧男と、小さな妖精の姿を見て驚愕した。
ほとんどの者が恐怖と警戒心のせいでなにも言えずにいる中。勇敢な者が話しかける。
「なああんた……まさか上級天使なのか」
とてつもなく不吉な瘴気、隠す気がなさすぎる『殺戮者』の気配を前に、勇気ある住民はそうたずねる。
「アハハハハハハ!!」
男ではなく妖精のほうが空中で笑い転げた。
「上級だって! 上級だってバーカバーカ! このお方はなあ、ホントはお前らみたいなド田舎のザコなんかがお目にかかれるお方じゃねーんだよ!」
可愛い容姿を悪意にゆがめて、妖精は自慢気に語る。
「このお方こそ超!上級天使『偽聖剣』のジーク様だ! 恐れおののけ愚民ども!」
超上級天使。
はじめて聞く言葉だったが、それがどれほどの危険を意味するのか住民たちは即座に理解した。
「ちなみにオイラは『可愛さ超上級天使』のピコ様だ! よぉくおぼえとけー!」
可愛さ超上級天使とやらの名乗りに、ジークは鬱陶しそうな顔でため息をついた。
(あっこっちは下級天使だな)
住民は即座に理解した。
「戦えないものは下がれ! 警報を鳴らせ!」
不幸にも武器を用意していた者たちは仲間たちにそう呼びかけ『偽聖剣』の前に槍をならべて立つ。
敵はまだ戦おうとしていなかったのに、自分たちから戦意をしめしたのは軽率だった。
ほんの少し前に戦闘があったばかりだったので、彼らはまだ気が立っていたのだ。心の中がまだ臨戦態勢だった。
そしてなにより目の前にいる男の気配が凶悪すぎた。恐ろしすぎて武器をかまえずにはいられなかったのである。
弱者相手とはいえ武器をむけられては、『偽聖剣』のジークもそういう気分になってくる。
両者の闘志が絡み合い、ただの空間が戦場へかわっていく。
その時。
ウウウウウウーー!! ウウウウウウーー!! ウウウウウウーー!!
耳障りなサイレンの大音が街中に響きわたる。
先に避難した住民たちが鳴らしたのだろう。
緊急事態をつげる大音を合図に、槍をかまえた男たちは一斉に攻撃を開始した。
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