第39話 ああー心にー愛がなーければー♪
おれたちは戦いながら全力で駆けた。
急ぐことだけが今のおれたちにできるすべてだったから。
途中、先代所長の南鞠勝さんが率いる本隊と合流。
より強力な突破力を得てザコ敵を蹴散らすも、街まではまだ遠い。
「勝さん! やつの声は聞きましたか!?」
「だから今こうして急いでいる!」
老人ながら黄金の槍をふるって奮戦する勝。その横顔は焦りに歪んでいた。
ジャミスはすでに防壁をこえて街の中へ侵入してしまっている。
やつのねらいは勝の養女であり現所長、南鞠真美だ。
父として、娘の危機に立ち会えない苦しみは言葉にもできないものだろう。
ボスであるジャミスに置いていかれたアニマルゾンビ軍団はもはや烏合の衆だ。
防壁の前にごった返すザコ軍団を数分かけてブチ抜いたおれたちは、ようやく街の中へ帰還。
休むヒマもなく錬金術研究所の本舎にむかう。
―――おれたちがそこで見たものは、想像もしていない光景だった。
ジャミスが大地に突き刺さっている。頭から地面にズッポリ。
その横には南鞠真美所長がボーっとした表情で立っていた。
「な、なにが、おこった……?」
ジャミスは頭部を地面にメリ込ませたまま、ピクリとも動かない。
おそるおそる触れてみるとバランスをくずし、ドドオオン……と音をたてて倒れる。
さんざんおれたちを手こずらせてくれたウマ野郎は、白目をむいて失神していた。
「コレ、あんたがやったのか?」
所長はおれの言葉は聞かず、泣きながら父親の胸に飛び込んでいった。
「おとうさーん! こわかった、わたしこわかったよー!」
「おおごめんよ真美。無事で本当によかった……」
抱き合う父子。まあたしかに無事でよかった。
しかしここで何があったんだ?
疑問を晴らすためにおれは研究所の中へむかった。
入口の大扉は破壊され、窓ガラスも数枚割れている。
戦いがあったのは間違いなさそうだ。
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会議室に着くと、紫織が壁際にうずくまってふるえていた。
室内に硝煙の臭い。
ここでも戦闘があったのだ。
「紫織ちゃん、大丈夫か!?」
彼女は顔に手を当てたまま茫然としている。
手を当てている部分が赤く腫れていた。
「殴られたんだな? ちょっと休んでから医務室にいこう」
おれは水にひたしたタオルを用意し、彼女の頬にあてさせる。
水の冷たさが気付け薬になったのか彼女は正気に戻り、ポツリポツリとなにがあったかを話し始めた。
「人間ってコワイですよカズヤさん……」
「ん? 人間? ウマ野郎の話じゃないの?」
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以下は紫織から聞いた話。
街の内部に侵入したジャミスはあっという間に本舎までたどりついた。
正面の大扉を蹴破り、少しだけ残してあった警備兵も殴り倒し、所長と紫織がいる会議室までいとも簡単に入ってきてしまう。
「ヒッヒーン、ようやく会えたな本物の花嫁さんよぉ」
下品に笑うジャミスの前に立ち、紫織はありったけの銃弾を浴びせた。
だがあのウマ、見た目に反して防御力が高い。
拳銃の弾を全弾浴びせてもなお余裕の笑みを見せ、逆に紫織の顔面を殴って壁までふっ飛ばした。
「おめえは子供すぎるからまだいいや。五年後くらいにかわいがってやるよ、ヒヒッ」
小さな護衛もうしなって南鞠所長はとうとう一人ぼっち。
恐怖にふるえる彼女の姿を、ウマ男はギラギラとした欲望の眼差しで上から下まで値踏みする。
「フーム美人でもなしブサイクでもなし、スタイルがいいわけでもなく悪いわけでもなく、若いわけでもなければBBAでもねえ」
「は?」
「いわば中途半端! 実に普通! 昔はどこにでもいた、この国に五千万人はいた女だなオマエ!」
「あ?」
余談だがこの日本、全盛期には一億三千万弱の人口がいたという。
大破壊後の終末世界となった今、何人が生き残っているかは分からない。
「中途半端、だがそれがいい! 二次元でもねえ整形改造人間でもねえ、天然の女ってことだ!」
「なんだあテメエ……?」
自分勝手なことばかり言って盛り上がっているウマ男に、南鞠真美は静かにキレた。
「申し遅れました南鞠真美と申します」
「おうっオレ様はジャミスだ! えーとミナミマミ……?」
「ふふっ」
作り笑いを浮かべながら所長はみずから近づいていった。
そして相手の馬面を両手でそっとつかまえる。
「わたしの名前はぁ、み・な・み・ま・りぃぃぃぃぃまみッッ!!!」
ドゴンッ!!
所長は鼻先に強烈なヘッドバッドを叩き込んだ。
「ホゲエッ!?」
奇襲で相手がひるんだ所にローキック、ローキック、ローキック!
ローキックの連打!
「ちょ、ちょ、ちょ、待て」
嵐のようなローキックの連打にひるんだジャミスは逃げ出した。
後ろをみせた敵の首に所長はおそいかかる!
「まああてえええ!!」
「ブヒイー!」
チョークスリーパーで首を絞められながらジャミスは走る。
残念ながら体格差があり過ぎて完全に拘束しきれない。
「ブルゥアァァ!?」
首を絞められてテンパっていたのか、屋外に走り出たジャミスは所長がまだ背中にいるのに翼を広げて飛び上がった。
あっという間に数メートルの高さまで上がる。落ちたら死ぬような高さに。
「女をモノあつかいしてバカにする奴はぁ……とっとと地獄に落ちろー!!」
所長は翼を関節技で固定した。
あっという間に勢いをうしない、一人と一匹は地上へ落下する。
「どわああああ!?」
「キャー!」
このままでは所長まで死ぬ。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、所長の身体は自分が生き残れる可能性を模索した。
まずウマ男を下に。自分が上に。
ウマ男の両脇に自分の足を乗せてクッションに。
姿勢を安定させるためにウマ男の両足を手でつかむ。
まるで竹馬のような姿勢になった。
この技を所長は知らない。偶然こうなっただけだ。
だが少年漫画のオールドファンなら知っている。
これぞ「キン肉マン」の必殺技の一つ、『キン肉ドライバー』!!
ドゴォォォォォン!!
古の必殺技が炸裂。
こうしてジャミスは地面に突き刺さった。
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事のあらましを語り終えた紫織は遠い眼で外を見ながらおれにいった。
「よくよく考えてみたら、男だけ筋トレして女はしてないと思う方が不自然だったんですよね。父親があれだけマッチョ主義なんだから、娘の真美さんだってそこそこ鍛えてるって考えたほうが自然だったんですよ」
「そ、そうか……」
紫織がおびえていたのはジャミスに対してじゃない。南鞠所長に対してだった。
にしても、素手であんなバケモノ退治しちゃうんだあ。
ひょっとしたらそれこそが『火事場のクソ力』ってやつなのかなあ。
今後所長を怒らせるのはやめとこう。
おれはそう思った。
読んでくださってありがとうございます。
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