第36話 途中まではまじめにやってたんですけど
赤く爛れた太陽が山の稜線に消えゆく黄昏時。
花嫁衣装に身を包み、厚化粧をほどこされたおれは出発した。
木製の輿に座らせられ、全身プロテクタ―でかためたマッチョマンたちに運ばれるおれ。
周囲にも黄金に輝く槍をにぎったマッチョマンたちが鎧武者のように配置され、花嫁を厳重に守っているかのような空気を演出していた。
もうすでに暗くなった地面を照らすため、複数の松明が掲げられている。
周囲からはただ一人純白の衣装に身をかためた花嫁が、ゆらめく炎によってライトアップされて見えたことだろう。
まさに日本伝統の美。
あとは古風な楽器で雅楽でも奏でれば完璧だったろう。さすがにそこまでは用意できなかった。
しかしこんな壊れた時代に上っ面だけでもよく整えたもんだと関心する。
完璧だ。花嫁が男であること以外は。
おれを乗せた輿はアニマルゾンビ軍団のど真ん中をズンズン進んでいく。
右も左も大小さまざまなアニマルゾンビの群れ。
しかもすべての個体がジッとおれたちの姿を見つめている。
松明で照らし出されたその様はまるでお化け屋敷みたいだった。
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「やっと来やがったな待たせやがって!」
背中から翼をはやした二足歩行の馬、中級天使ジャミスは花嫁の姿を見つけるなり大声でそう言った。
距離は数十メートルはある。まだ遠い。
実は白無垢のしたに愛用の軽機関銃を二丁、潜ませてある。
大ダメージを与えるためにはもっと接近しないと。
「さあはやくこっち来て顔を見せろよ!」
むこうから呼んでくれたのでおれたちは喜んで進む。
残り40メートル。
35メートル。
30メートル。
いいぞこの調子で至近距離まで……。
「待て」
あと30メートルという所で止められた。
「男たちはそこで止まれ。おりて女だけ来い」
じつに中途半端な距離で相手はこんなことを言い出しやがった。
しかし黙って言うことを聞くわけにもいかない。
突撃部隊のリーダーが話しかけた。
「我々は花嫁の身の回りの世話係兼ボディーガードとして来たのだ。彼女一人を残して帰るわけにはいかない」
「なにい~?」
ジャミスは顔をしかめて立ち上がり、数歩近づいてきた。
あと25メートルってとこか。
「そんなゴテゴテ武装しておいてお世話係だあ? 刺客の間違いじゃねえのかあ?」
「敵中で生活しようというのだ、これくらいの用心は仕方ないだろう」
「だったら安心しろ、これからオレ様たちは仲間だ! お前たちのことはオレ様が守ってやる!」
まあいわゆる政略結婚になるケースなので、ウマ男の言っていることは筋が通っている。
「よし、なら半分だ。半分の人数だけ許す!」
ジャミスの指示をうけてリーダーはおれの顔を見る。おれはうなずくしかなかった。
マッチョ軍団の半分をその場に残しおれたちは先へ進む。
もともと少数精鋭なのに、さらに分断される形になってしまった。
ちなみに、ドサクサにまぎれて輿に乗ったまま進んだ。
おれは武器を服で隠しているんだ。立ち上がるわけにいかないんだよな。
さらに15メートルくらい進んだ。
おれは顔を見られたくないという気持ちから頭を深々と下げたまま。
大きな綿帽子が都合よくおれの頭をかくしてくれた。
「おいい、いつまで下むいてんだ、顔見せろよ!」
焦れてイラついている声音のジャミス。
もうちょい近づいてくれたら至近距離からの軽機関銃連射で楽にたおせるな。そう思っておれは裏声を使い話しかけてみた。
「ずっと気になっていたんですけど」
「あ?」
「どうして人間の女と結婚を? あなた様も元は人間だったのでしょうけれど、それにしても……?」
「カカッ!」
ジャミスは政略結婚の場で下品に笑い、まさかのオタトークをはじめた。
「その昔、ドラクエⅤっていう神ゲーがあってよぉ」
「は?」
おい、まさかこいつ。
「それに出てくるジャミっていう馬モンスターにNTRされるエロ同人誌が大好きだったんだよオレ! 世の中ブッ壊れて好き放題できる存在になれたからんだからよォ、実行するしかねえだろォ!? オレ様は世界中から女を奪ってオレ様だけのNTRハーレムを作りたいんだあああああ!!」
アホかー!!!
そんな下らねえことのために人様に迷惑かけんなこのボケナスがー!!!
一緒にいるマッチョ軍団たちも思わぬ展開にあっけに取られていた。
ここまで積み重ねられてきたシリアスな緊張感を台無しにしながら、色ボケクソウマ公ジャミスはノシノシ歩いて近づいてくる。
「お前はめでたきハーレム第一号だ! いわばビアンカだ、光栄に思え!」
「は?」
あり得ないひと言に、つい地声がでた。
「一番はフローラだろ、なに言ってんだ」
おれの態度が豹変したのを見てリーダーが顔色を変える。
小声でおれに説教をしてきた。
「おいなにを言っている、来るぞ! ちゃんとしろ!」
ジャミスはプッと吹き出し、おれを嘲笑した。
「はあ~? お前まさか『あの』青髪負け犬ヒロインの信者なのかぁ~? いるんだよなあ~グダグダ能書きたれて圧倒的大差の負けを認められない可哀想なヒトタチがさあ~?」
その瞬間、おれはキレた。
「野郎ブッ殺してやぁぁる!!」
ダンと音をたてて輿の上に立ちあがり、足元にずっと隠していた二丁の軽機関銃を両手にかまえる。
「うわあもうメチャクチャだー!!」
リーダーの悲鳴はもう、おれの耳には届かなかった。
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ちなみに筆者はフローラ派です。フローラ派の方はどうか応援お願いします。




