第35話 花嫁は……おれ(泣)
さてやると決まったおれたちの行動は早かった。
なにせあのウマ野郎がいつ戻ってくるか分からないからな。
限られた時間で最大限の仕掛けを作らなければいけない。
作戦名は『トロイの木馬』から『花嫁強襲作戦』に改められた。
少数精鋭で花嫁をウマ野郎『ジャミス』のもとまで運び、ギリギリまで接近して討ち取る。
同時に後方部隊も門をあけて敵前衛に突撃。
つまりは変則的なはさみ撃ちでアニマルゾンビ軍団を打倒しようってわけだ。
結婚の形式はとことん古風な純和風でやってやろうという話になった。
夕方に、人の手で運ぶ『輿』っていう乗り物で婚家にお届けする、いわゆる『輿入れ』ってやつ。
ウエディングドレスより白無垢のほうが布面積が多くて武器を隠しやすいという、色気もなにも無い理由だった。
まあ即席にしてはよくできた作戦なんじゃないかと思うのだが、問題点もあった。
輿にのって運ばれていく花嫁というのが……何とおれだった。
「どうしてこうなった!?」
研究所の女性たちが急ピッチで縫いあげた白無垢を着せられ、綿帽子という白い大きな被り物を頭に乗せられていくおれ。
「おれ男なんですけど!?」
「アッハッハッハッハ! にあうわよカズヤ!」
ジルヴァが遠慮もなにも無く大声で笑う。周囲の職員たちもつられて笑っていた。
ジルヴァは今、槍を黄金でコーティングする作業でいそがしい。
彼女は黄金の針を投げつけてゾンビを宝石に変えてしまうが、それを槍でやろうというわけだ。
どんな大型獣でも一撃必殺、ゾンビ程度ならかすっただけでもOK。あまりに危険すぎる武器だが、今回は緊急事態ということで特別に大量生産していた。
「女の子を最前線に連れてくわけにもいかないでしょー? 誰かがやんなきゃいけない役目なのよ。がんばんなさ~い」
「ぐぎぎぎ……ジルヴァ、お前ならいけるだろ」
「だって私ワフクって似合わないんだもの~」
そう言ってこの西洋美女はウエストの細さと胸の大きさを強調してみせた。
「ワフクってずん胴でペチャパイのほうが似合うのよ、私じゃあねえ~」
「理由になってんのかよそれ……」
言いながらおれは周囲にいる女性たちに視線をうつした。
南鞠所長をはじめ大人の女性たちばかりのなか、一番ずん胴でペチャパイなのは未成年の紫織だった。
「は? いまの話の流れでどうしてこっちを見るんです?」
おれと目があった瞬間、紫織の目が険悪につり上がった。
「えっなんで? なんで私を見たんです? どういう意味ですか? 拡散したいんで140文字以内で説明してもらえます? なんなんですか、だまってちゃ分かんないですよ?」
うわあ地雷ふんだー! めんどくせー! どこに拡散するつもりだー!
「アハハハ!」
おれたちを見てまた大笑いするジルヴァ。お前は笑うな、話がややこしくなる!
紫織は彼女の爆乳をうらめしそうにジッとにらんでいた。
「まあまあみなさん落ち着いてください」
見かねた様子で南鞠真美所長がたしなめてきた。
「大変な時です仲違いはやめましょう」
しかしどこかドロリと濁った瞳でおれを見つめる所長。
「重大な任務ですカズヤさん、くれぐれもよろしくお願いします。なあに大丈夫ですよ、いざとなれば男性にも穴はありますから! HAHAHAHAHAHA!!」
なにがHAHAHAだ。笑えねーよ!
言っとくけどお前らの主張する『やおい穴』って実在しねえから!
こいつ自分が行きたくねーからって、意地でも人に押しつける作戦に変えやがったな!
「HAHAHAHAHAHAHA!」
「HAHAHAじゃねーっつうの、やめろその笑い方!」
「頑張れ―カズヤー」
「カズヤさんキレイですよー」
「結婚おめでとー」
「なんでやねん貴様らー!!」
……こんな調子でいつも通りのバカ騒ぎをしながら決戦の準備をすすめるおれたち。
その日の午後。
ふたたび中級天使ジャミスがアニマルゾンビ軍団を連れて正門前にあらわれた。
「さあ考える時間は十分にやったぞ! 答えを聞こうか!」
代表者として、そして捧げる娘の親として南鞠勝氏がジャミスの相手をする。
「そちらの要求を呑もう。いま婚儀の用意をしているところだ!」
「ほぉーずいぶんものわかりがいいじゃねえか」
「作法にのっとり黄昏時にそちらへ送り届ける。それまで外で待っていてほしい!」
「ああ? なんでそんなクソ面倒くせえことしなきゃいけねえんだよ?」
いまからここで数時間待て、というこちら側の要求に不機嫌になるジャミス。
だが勝さんは堂々と要求を告げた。
「こちらは愛する娘をさしだすのだ! せめてちゃんと形をととのえた結婚式にしてやりたい! この老いぼれの親心を理解してくれないだろうか!」
情熱的な名演技だった。
娘を嫁にやる父親の寂しい心。そんな気持ちを察して少しのワガママくらい許せ、みたいな態度を見事に演じている。
ジャミスはまだ不機嫌そうだったが、意気消沈した不機嫌さに変わる。
「……まあそういう事ならしょうがねえ。待ってやるよ」
「かたじけない!」
こうして『花嫁強襲作戦』の決行は夕闇の中でおこなわれることとなった。
女装や武装など、さまざまな不自然さを隠してくれる夕闇の中で、だ。
うまいこと勝つ確率が上がってきた気がする。
でもやっぱりさあ。
おれは花嫁衣裳なんて着たくなかったぜえ~(泣)
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