第34話 トロイの木馬
「ぶっちゃけ、やつを倒す以外にここを守る方法はないと思うんだ」
おれはさっきと同じ話を会議室でくり返した。
あのウマの要求をのんで所長を渡したとしてもそれは人質にとられるということ。
たった一度のワガママで終わるとは限らず、第二、第三の要求が来てもおかしくない。
もしかしたらこの街がボロボロの搾りカスになるまで要求は終わらないかもしれない。
ならば、結局はあのウマ野郎を退治することでしか問題は解決しない。
「言うは易しだが……一体どうやるのかね? 防壁を盾にした防衛戦ですら互角かそれ以下の戦力差だ。攻め勝てるとは考えにくいが?」
敵にはまだ大型獣をふくめたアニマルゾンビ軍団が残されている。防壁なしの正面衝突で勝ち目があるとは、おれも考えてはいない。
こっちに狙撃銃があるという情報も知られてしまっているから、暗殺もむずかしい。アイツがよっぽどバカじゃないかぎり最前線には出てこないだろう。
いろいろ工夫の余地はあるだろうけど、それでも力と力の真っ向勝負は無謀だ。
「少数精鋭での『トロイの木馬』作戦がいいと思う」
おれのこの言葉に理解のはやい少数の人間がうなずいた。
『トロイの木馬』というのはギリシャ神話だかなんだかに出てくる兵士のはいった巨大な木馬の罠だ。
トロイアという防御の固い都市を攻めあぐねたギリシア軍は巨大な木馬の罠をのこして偽装撤退。
トロイア人はまんまと木馬を都市に持ち込んでしまい、内側から防衛線を食い破られて滅びたってお話。
ちなみに平成のころ『トロイ』って呼ばれる個人データを盗むマルウェアが大流行したことがあった。
『トロイ』っていう固有名詞は聞かなくなっても人を苦しめるマルウェアは名をかえ手段をかえ存在しつづけたんだ。
『トロイの木馬』はそんな迷惑なプログラムの命名元になった神話的存在。
「つまり敵陣の内で暴れて、それを合図に外からも攻める、と?」
「そんな感じです」
敵の中枢をマヒさせてからのはさみ撃ち作戦だ。
先代所長南鞠勝は、おれの提案に苦い表情をみせた。
「……敵のど真ん中で戦う者たちは死を覚悟せねばならんな」
「はい、だからこそ精鋭がやらないといけません」
弱いやつにやらせてもあっという間に殺されて終わる。
少数でも強いやつらで固めれば、生存率はグンと上がるだろう。
勝老人はウーンと天をあおぎ、頭の中を整理した。
そして十秒ほど後。
「つまりこういうことか。花嫁を送り届けるフリをして精鋭部隊を送り込み、例のウマ天使を直接攻撃する。それと同時にこの研究所からも出撃して混乱している敵前衛を撃破する」
「そうそう。そんな感じ!」
「ずいぶん簡単そうに言うなあキミは。そうそう都合よくタイミングを合わせられるわけがないだろう」
「なーに言ってんですか」
おれはニヤリと笑い自分のこめかみをツンツンとつついた。
おれと勝老人の頭の中には、通信可能な脳内コンピューターが存在する。
「おれとあなたなら、簡単にタイミングを合わせられるでしょ」
「あっ」
老人はおどろき、そして目を輝かせた。
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