第3話 クレイジー☆スイーツ
結局おれは鉄男さんになにも出来ないまま、彼と彼の妹・紫織を基地に招き入れた。
不安がないわけじゃないが、でも仕方ないだろ?
感染しているからといって、まだなにも悪いことしていないのに殺せるかよ。
それに病気ってのはウィルスに侵入されたからといって絶対に発症するともかぎらないものだ、そうだよな?
風邪ひいたやつがかならず寝込むわけじゃない。
死ぬほど危険なウイルスでも不思議とケロッとしている人だっているんだ。
怖いからって殺すのは、それはもう慎重とはいわない。臆病っていうんだ。
……そんなことを心の中で悶々と想い悩みながら、おれは鉄男&紫織の兄妹を案内する。
「うわあひろーい」
居住スペースは大量にあまりまくっている。
気にいった部屋があれば勝手に使ってくれとつたえた。
「すげえ、今どきこんなに設備が充実した場所があるなんてよ……」
ムダに広々としたトレーニングルームもご自由にどうぞ。
しかし武器庫は鍵がかかっていて、意外にもおれがいないとドアが開かない設定になっていた。
いままでおれ一人だから知らなかったよ。
ここまででも二人は大層おどろいていたが、決定的だったのは食糧事情だった。
完全屋内栽培の家庭菜園。これはコンピューターによって全自動管理されていて、人間はほとんど何もしなくていい。
あとはインスタント食品などの倉庫だが、じつは宝の山だったことが二人によって明らかになった。
「カップラーメン……! カロリーメイト……!」
「信じられねえ、缶詰タイプのビスケットなんてものもありやがる! いったいいくらの値が付くんだ!?」
まるで黄金の山でも発見したかのように二人は目を輝かせた。
いまは食品工場も存在しないゾンビだらけの終末世界。
レトルトやインスタントの食品なんかは作れない時代になってしまった。
だから今ではウソみたいな超高級品なのだという。
「えっじゃあ冷凍食品なんかも?」
おれの迂闊な発言に、二人はゾンビみたいな欲望の目をむけてきた。
おい、妹のほうは感染してねえはずだろ。
「ち、地下に、冷凍室があるんだ」
襲われたりしないだろうな……なんて心配になりつつも、おれは二人を地下一階に案内する。
そこには冷蔵庫ならぬ冷蔵室がある。
そして冷蔵室のさらに内部に冷凍室があった。
なかには真空パックされた牛、豚、鶏などの冷凍肉。ブロッコリーやアスパラなどの冷凍野菜。
さらにどこかで見たような冷凍からあげとかギョーザとかコロッケなんかがある。
そして……。
「あ、あ……、アアアアアアア―!」
紫織のほうが発狂した。
見た目はもはや立派な感染者である。
「あ、アイスクリーム……!! もうこの世には一個もないかと思ってた……!」
それはありふれたカップアイスだった。
爽やかなやつとか、超カップとか、段ボール箱の中に何十個も入っている。
紫織は感動のあまり全身をガタガタとふるわせていたが、やがてゾンビのような怖い目つきで上目づかいにおれの顔をジーっと見つめてきた。
「い、いいよ、あげるよ」
あげるって言わなきゃ、アイス一個のために殺されるかもしれないと感じた。
昔あったろ、缶ビール一杯のために人を殺しかねないとか語ってたマンガ。
「本当ですか、わたしたちあんまりお金とかないですよ。他のこともあんまり大したことできませんけど」
「いいって、タダであげるよ」
紫織の表情がパアっと明るくなった。目に涙までうかべている。
「鉄男さんも、食べたいものがあったら遠慮なくどうぞ」
「恩に着る。しかし、あんまり気前が良すぎるのもどうかと思うぞ」
そういって鉄男さんは冷凍の焼きおにぎりと唐揚げを一個ずつもっていった。
米と肉。いかにも男のチョイスだが、気をつかってちょっとだけの量にしてくれたらしい。
フーム、どうやらおれのサービス精神は終末世界じゃとんだ甘ちゃんらしいぞ。
こういう部分までレベルアップさせなきゃいかんのかこの『ゲーム』は。
けっきょく紫織のほうもアイスクリーム一個で足りるわけもなく、上の階で全員分の料理をすることになった。
おれ、自分が高級食材にかこまれているなんて知らなかったもんだから、けっこうテキトーに使っちゃってたんだよね。
そんなだから使いきれず冷蔵室に放置している食材の切れっぱしがたくさんあった。
鉄男&紫織のコンビはそれら余りものを上手に使って三人分の夕飯を作ってくれる。
それでも使いきれなかった分は保存のきく煮物とか酢漬け野菜とかにしてくれた。マジ感謝。
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