第28話 師匠キャラとの日々
本日は、二十人の錬金術師……というか錬『筋』術師たちが旅立つ日。
行き先はかつて下級天使ネクロスに狙われ、芝浦軍治さんに守られていた街だ。
あの街はこれから筋肉に支配される。
情けねージジイと見せかけだけの野郎どもがこれから毎日筋トレの日々を送るかと思うと―――。
「プッ!」
笑えた。
「なにかおかしいかね?」
先代所長、 南鞠勝氏にとがめられて、おれは「いやいや」と言って手を振る。
今まさに出発前のマッチョマンたちが二十人、目の前に整列しているのだ。
視界をギチギチに埋めつくすようなその筋密度はまるで筋肉の城壁。
「この人たちが行く街、見せかけだけのウソつきしかいねえような所でね」
「ふむ、基礎がおろそかになってしまうと小手先で誤魔化すしかなくなるものだ。なればこそ我々の出番があると言える」
「ああ、はい」
「人も国も土台作りが一番大事なんだ。土台がしっかりしていればこそ上に立派な建物がたつ」
「はあ」
年寄り特有の説教臭さにちょっと辟易。
「では先代所長、行ってまいります!」
「不毛の大地にあらたな筋肉の華を咲かせてやりますよ!」
グッ、と力強い握り拳を見せ、ニカっと白い歯も見せて。頼もしい筋肉たちは新天地へと旅立っていった。
……ところで、こいつらにとって筋肉って咲くものなんだ?
彼らのイメージ的には胸に咲いたり、腹に咲いたり、太ももに咲いたりしてんのかな?
意気揚々と去っていく背筋……もとい背中をながめながらそんなどうでもいいことを考えていると、勝老人がおれの肩をたたいた。
「さあ君は他人の背中より自分の行く末を見なさい。今日も講義をはじめるよ」
「おっ、おう!」
老人の言う講義とは、武術の訓練のことだ。
おれはこの数日、先輩プレイヤーとくり返し戦っていわゆるレベル上げをおこなっていた。
「今日は少々むずかしい内容になるが、昨日のように居眠りなどせぬように」
「うるせえっ」
いささか余裕のない態度で食ってかかるおれ。
老人はゆったりとした動きから急転直下、一瞬で間合いを詰めておれに殴りかかってきた。
「チィッ!」
おれの左右の手には錬金術で模造した拳銃モドキが握られている。
純粋な素手格闘ではなく、実戦をイメージした訓練なのだ。
すぐそばにある老人の顔面に偽の銃口をむけようとする。だがすばやく弾かれて銃口はあさっての角度をむかされてしまった。
ドンッ!
腕をどかされてガラ空きになったおれの腹にボディブローが叩き込まれる。
「ウグッ!」
「射撃戦が得意というのと、殴り合いが苦手というのは、同じではないぞ若いの」
この程度でおれの闘志はくじけず、もう一方の手を大きく振って老人の顔面をねらう。
重い金属である拳銃を握りながらの裏拳だ。
当たればこんな老人など一発でKOできるはずだが、あいにくと空を切る。
(距離さえ取れれば、射撃で―――)
おれはバックステップで離れようとする。
しかし老人はおれが下がる以上の速さで距離を詰め、イメージするように拳銃を構えさせてくれない。
突進する勢いのまま、おれの下半身にタックルを決めた。
「うお、わ」
草原の上に倒れるおれ。
すぐさま老人はおれの腕をつかまえ、関節技でおれを拘束した。
「ぐわあああギブアップ、ギブアップ!」
たまらず降参する。
また負けてしまった。
素手の老人相手なのに、いいように遊ばれてしまっている。
「野生の獣相手だったら、もっと厳しい戦いになるぞ?」
おれは老人の手をかりて立ち上がった。
「猛スピードで突っ込んでくる獣が相手だと、一発や二発しか撃つ時間がない。そして一発や二発で仕留めるには急所をよく狙う必要がある。しかしよく狙うには時間が必要だ」
「……つまり射撃だけに頼った戦いかたじゃダメってことでしょ」
「そういうことになってしまうな」
皮肉な笑みでおれを見る老人。
おれは武器の性能に甘えている、と伝えたいらしい。
たしかにこれまでは真正面から突っ込んでくるだけのゾンビ軍団をサブマシンガンとかで一掃しているだけだった。揉みくちゃの乱戦になったことが一度もない。
そうなった時、お前は死ぬぞ? とこの老人は拳でおれに語っているのだ。
「昔マンガでこんな展開を見たっけ」
「うん?」
「接近戦なら銃よりもナイフのほうが速いって」
「ああ、私もなんとなく見たような気がするな、あの……たしか女子柔道のアニメで大ヒットしていた作家じゃないか? ヤワラちゃんとかいって」
「ほかにも山ほどヒット作出してる天才ですよ」
脳内に数々の名作がよぎるが、いまは語る時じゃない。
おれは再び二丁拳銃を手に、格闘のかまえをとった。
「つまりおれが身につけるべきなのは『ガンカタ』だ。武器を捨てず、しかし武器に頼らず、おれだけのオリジナル戦法で敵を倒す流派を作れって話でしょ」
「まあ早くても十年はかかるがね」
「待ってられないッ!」
おれは老人に襲いかかった。
奇襲ぎみだったが、老人は顔色ひとつ変えずおれの攻撃を受け流す。
「こんな時代に十年なんてかけてられるか。ボーっとしてる間に人類が絶滅しちまうよ!」
「なるほど道理だ。無茶を承知で戦いながら身につけていくほかあるまい!」
バゴッ!
老人の左拳がおれの顔面にめり込んだ。
「とりあえずこの年寄りがたくわえた財産を学んでいけ。遠慮はいらん」
「お、おっけー……」
おれは目をまわして倒れた。完全KOである。
「おやおや居眠りをするなと先に言っておいたのに、しょうのない教え子だ」
「う……うるへー……」
このジジイけっこう、いやかなり性格わるいぞ。
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