第27話 そりゃ文句も言いたくなるわw
ここではあえてプレイ時間と表現しておこう。
数か月におよぶプレイ時間のすえ、おれはようやく自分以外の「プレイヤー」に出会うことができた。
しかし相手はすでに隠居した老人。
彼の「遅すぎる」という口ぶりは、ずっと長い間ほかのプレヤーに出会えなかった事を意味していた。
「南鞠勝だ。君は?」
「あっ、カズヤです」
「……名字は?」
「ありません。目覚めた時からずっと記憶喪失でして」
「むむ、そうなのか?」
若干話がかみ合わない印象をうけた。
まあたったこれだけのコミュニケーションで100%理解しあえるわけもないが。
「……ベル。初めてで勝手がわからん。どうするべきかな」
勝老人はおれから視線をそらしてベルという名を呼んだ。
おそらく老人の脳内にも、脳内コンピューターがあるのだ。
直後。
おれの脳内コンピューター『ノヴァ』がメッセージを寄こした。
「プレイヤー・カズヤ。真正面にいるプレイヤー・マサルの脳内にも私ノヴァと同種同系統のスーパーコンピューターが存在しています。データの共有を求められましたがいかがなさいますか? Yes or No?」
「……イエスだ」
目には見えないラインでおれ達は繋がれた。
おそらく老人の脳内におれの情報が公開されている。
数秒後、老人は絶望的な表情になった。
「ああああ……」
老人はズルリとイスからすべり落ちた。
「お、お父さん!?」
養女の南鞠真美所長が駆け寄る。
一番わけの分からない状況にいるのは、実はこの女性だろう。
「いや大丈夫だ、あまりのことに力が抜けてしまった」
老人は助けを借りることなく自力で立ち上がった。
「彼がね。私が探し求めていた人物なのだよ」
「えっ、カズヤさんが?」
「しかし参った……まさか二十年もまたされるとは……」
先輩プレイヤーはあきれた顔で俺を見る。
「君は、ほとんど最速で私に会いに来てくれたんだね。それでも二十年かかるとはなんたるクソゲーなのか」
どうやら勝老人は、おれに呆れているのではなく、二十年も他のプレイヤーに出会えなかったことに呆れている様子だ。
「それってつまり、おれとあなた以外にプレイヤーはいないってことですか?」
「可能性は高そうだよ」
老人はイスに座りなおした。
おれたちにも着席をうながす。
「とっくの昔に死んだか。あるいは初めからいないか。隠れて時期をうかがっているのか。いずれにせよこの年寄りが生きているうちに三人目に出会う可能性は、低いと言わざるをえない」
「もう一つ可能性があります。おれみたいに冷凍睡眠状態で放置されている可能性です」
「ふむ……、君と私では何もかも違うようだね」
そう言いながら、自分のこめかみをツンツン指でつつく。
「共通点はコレだけか」
頭の中にコンピューターが入っている(らしい)。
そしてそのコンピューターたちはこの世界を『ゲームだ』という。
なんなんだよこの状況。
「あーノヴァ。新しく公開される情報とかはねーのか?」
『今はありません。世界を探索してまわり、見聞を広めてみるのはいかがでしょうか』
素っ気なくそう言われるだけだった。
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二十年前。
南鞠勝さんはまだ中高年と呼ばれる年代だった。
ある日、交通事故にであい三か月意識不明のまま病院のベッドで過ごす。
意識を取り戻したその時、なぜか頭の中にコンピューター『ベル』がいたのだという。
医者や看護師に聞いてみても変な顔をされるだけ。
逆に精神異常を疑われだしたので黙るしかなかったのだとか。
カズヤとちがい記憶喪失にはならなかったらしい。
ひょっとしておれの記憶喪失って外科手術で『ノヴァ』を埋め込まれたダメージのせいだったりするのか?
それはさておき。
脳内で話しかけてくるAIの声に非常に困惑しながら、ケガの治療とリハビリにはげむ勝さん。
病院というきわめて衛生的な環境だったのは、彼にとって幸いだった。
その時、世界はすでにZ-ウィルスによるパンデミックが始まっていたのである。
どんどん生き地獄と化していく世界。
しかし病院という生活環境は、勝さんが交通事故のダメージから復活するまでの時間をかせいでくれた。
それは同時に脳内AI『ベル』の指導をうける時間でもあった。
せまり来るゾンビ軍団。
そしてゾンビ軍団を指揮する、『天使』を名乗る強力な超能力者集団。
勝さんは脳内AI『ベル』から学んだ『錬金術』を駆使して敵と闘った。
そして人々を首都圏から避難させ、この『錬金術研究所』をつくるまでに群れを発展させたのだという。
病院のベッドで目覚めた日から今日までの歳月がおおよそ二十年。
いつか出会えると言われていた『他のプレイヤー』にも出会えず、孤独な闘いの日々にも限界を感じやがて現役引退を決意する。
そんな今さらのタイミングでカズヤが来たらしい。
……うん、遅いって文句いいたくなる気持ちは分かるなw
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