第25話 筋肉村の朝は早い
コケコッコー!!
ニワトリの鳴き声がまだ薄暗い空に響きわたる。
筋肉村の朝は早い。
まだ朝とも呼べないような薄闇のなか、鍛え上げられた筋肉の塊が寝床からユラリと這い出てくる。
常人の数倍はあろうかという異形の肉体を作業着に押し込み、それぞれの一日がはじまる。
筋肉警備隊は疲労した夜番筋肉と交代し。
酪農筋肉は田畑や家畜の世話をはじめる。
食堂では調理担当筋肉がせわしなく動きまわり朝食の準備をいそぐ。
巨大な筋肉を維持するためには一日に5~6回もの良質な食事が必要だ。
だから実はこの調理担当筋肉たちこそが筋肉村をささえる大腿筋なのだった。
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「……ん? ちょっと違うか?」
おれは書きかけの原稿を見直して、違和感をいだいた。
「全身をささえるなら背骨まわりの広背筋かなあ? それとも首の筋肉……?」
すこし悩んだあとで、おれは最後の一行に横線をひいて書き直す。
『だから実はこの調理担当筋肉たちこそが筋肉村をささえる広背筋なのだった』
……いやかえっておかしくなった気がする。広背筋ってだけじゃ意味が通じねーぞ。
加筆が必要だ。
『だから実はこの調理担当筋肉たちこそが筋肉村の背骨をささえる広背筋なのだった』
うんこれなら意味が通じるな。
でも大腿筋と広背筋、どっちの表現のほうが読者に受けるかなあ……?
「ちょっとちょっとカズヤさん、何やってるんですかそんな所で」
「おう紫織ちゃんおはよう」
おれはちょっとした土手の上から筋肉村を見下ろし、いそいそと働いている筋肉たちの姿を描写していたのだ。
「ちょっと冒険の書に記録しておこうかと思って」
「またなんか変なこと言って……」
おれは完成した原稿を紫織に見せる。
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コケコッコー!!
ニワトリの鳴き声がまだ薄暗い空に響きわたる。
筋肉村の朝は早い。
まだ朝とも呼べないような薄闇のなか、鍛え上げられた筋肉の塊が寝床からユラリと這い出てくる。
常人の数倍はあろうかという異形の肉体を作業着に押し込み、それぞれのをはじめる。
筋肉警備隊は疲労した夜番筋肉と交代し。
酪農筋肉は田畑や家畜の世話をはじめる。
食堂では調理担当筋肉がせわしなく動きまわり朝食の準備をいそぐ。
巨大な筋肉を維持するためには一日に5~6回もの良質な食事が必要だ。
だから実はこの調理担当筋肉たちこそが筋肉村の背骨をささえる広背筋なのだった。
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「どうよ!」
「いやどうって、別になんとも」
名文を書いた(つもり)で目を輝かせるおれに対し、紫織のリアクションは冷淡だった。
「っていうか筋肉筋肉いいすぎじゃないですか。あの人たち見たら怒りますよ?」
「いや大丈夫だって、マッチョマンは大らかな人が多いから。ちゃんとギャグだって分かってくれるよ!」
「まあ別にいいですけど」
「あれ……、紫織ちゃん最近塩対応だなーさみしいなーシオだけに」
ハア……。
おれの軽やかなジョークに紫織は露骨なため息をもらした。
「そんなことよりジルヴァさんのことですよ。あの人なんとかして下さいよ」
「へ? ジルヴァ? なんかあったの?」
「ありますよありすぎですよ! 減らせっつってんのにちっとも動こうとしないんですよあの人!」
「???」
この村、というか研究所に入ったその日から、紫織はジルヴァの部屋でルームメイトとして暮らすことになった。
いまは一晩たった次の朝だ。
さっそく何かトラブルらしい。
おれは紫織に言われるままついていって、二人が住む部屋の惨状を目の当たりにした。
いわゆる汚部屋だった。
「あー、こういうことかあ……」
床を立体的に埋めつくすゴミの山。
ベッドの上にはいくつかの着替えがならび、残りのちょっとしたスキマに本人が寝そべっていた。
本人の居場所ほんのちょっとだけかよ……。
「あーおはよーカズヤ」
「お、おう。とりあえず服を着ようか」
ジルヴァはセクシーなネグリジェ姿だった。
しかしせっかくのセクシーお姉さんも汚部屋の主とあっては魅力半減である。
「今日はちゃんと片付けますからね!」
紫織はそう言いながらおれにホウキとチリトリを押しつけてきた。
おれも手伝わされるのか、やれやれ。
しかたなく目の前をふさぐゴミの山をちょっとホウキで削ってみる。
するとクシャクシャに丸まった汚い布きれがコロンと転がってきた。
……なんかイヤな予感がするぞこれ。
つまんで持ち上げてみると、それは青カビのはえた女物のパンツだった。
「いやこれはダメだろう! 人間としてイチからやり直せ!」
おれは汚物を床に叩きつけた。
しかしジルヴァは。
「えーめんどくさーい……」
おれの顔を見もせずにそうつぶやくのだった。
そうか、南鞠所長はあれだけジルヴァに依存していたのに、ルームメイトではなかった理由がこれなんだな。
この女、私生活はゴミだ。
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