第24話 筋肉村のミニャミマミ
「ジルヴァさん、なんかここの人たちって、やけに筋肉ですね?」
紫織がいぶかしげな表情で問う。
やけに筋肉ですねってセリフは日本語としておかしいが、感覚的には完璧に同意だ。
対向車線をマッチョな犬とマッチョな歩行者が歩いている。
ジルヴァを見つけてたくましい手を振ってきた。
ジルヴァも社交的な笑顔で手を振り返す。
「ああ、そうね。先代所長の哲学のせいなのよ」
ほう、いまの所長さんは二代目ですか。
「『筋肉は人類を裏切らない』とか言って、筋トレを推進しているのよ」
「なにそのパワーワード」
筋肉は人類を裏切らない。
まあ……、そうなのかな?
「実際ねー、自家発電だけですべての電力が賄えるわけなくって、人力でやらなきゃいけないことばっかりなのよ」
「あーそうでしょうねえ」
おれの基地も太陽光発電で動いているんだけど、不便を感じないのは住んでいる人数が少ないからなんだよな。
でも自然エネルギー発電って実は季節とか天候とかに大きく左右される不安定なシステムで。
しかも人口が増えれば増えるほど電力消費が多くなるのは当然。
というわけで足りない分は筋肉だ! というわけらしい。
「あ、そこの大きい建物の前に止めて」
おれは一際大きくて立派な建物の前に停車した。
ここが錬金術研究所の中心らしい。
「おおう、さすがにお堅い雰囲気の本丸だな―――」
車から降りて研究所を見上げるおれ。
しかし、入り口のわきに変なものが設置されているのを発見してしまった。
それは立派は石材に刻まれた碑文だった。
おかしいのは、その内容。
―――――――――――――――――――――――
筋肉全開マッチョマン
マッチョ マッチョ マッチョマン
脳汁とびだせ
マッチョ マッチョ マッチョマン
筋肉全開 マッチョマン
胸の下で育まれた シックスパックのマッチョマン
厚い胸板 塊 燃えろ背筋マッチョマン
負荷を乗り越え いつも鍛えてくれるよ
サイドチェストで魅せたなら
マッチョ マッチョ マッチョマン
きみの胸板に
マッチョ マッチョ マッチョマン
筋肉全開 マーッチョマーン!
―――――――――――――――――――――――
「ぐっ!?」
突然おれの脳内に歌が流れ出した。男の歌声だ。
その筋では超一流の歌手の歌声。
「こ、この歌、歌えるぞ、おれ……」
「カズヤさん、またどうでもいい記憶が戻ったんですね?」
「どうでもいいは余計だよ!?」
生まれてはじめて見る碑文なのに、完全に歌える。
いや歌えるっつーかこれオリジナルは―――。
『〇ェット 〇ェット 〇ェットマン♪』
戦隊モノのパクリじゃねーか!
しかも最後の一行。
マーッチョマーン! って気づいて欲しいという製作者の私欲が文面に溢れ出とるわ!
これ造ったやつ絶対にろくなやつじゃない。
おれは確信した。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「ジルヴァ~!」
所長室のドアを開けた瞬間、メガネかけた妙齢の女性がガバっと立ち上がってジルヴァに抱きついた。
「帰ってくんの遅いよお~!」
「ああゴメンゴメン」
抱きつかれたジルヴァはよしよしと言って彼女の頭をなでる。
抱きついた女性のほうが年上に見えるが、態度や声色はジルヴァのほうがむしろ年上に思えた。
「交渉はうまくいったわよ」
「もーそんなの初めからどうでもいいんだよぉー」
猫なで声を出しながらジルヴァにベタベタまとわりついている女性。
マッチョマンの群れを統率するリーダーが女、それも依存心強いタイプの女だとは意外な。
あんまり人の上に立ちたがるタイプとは思えないけど。
「ところでマミ、あたしお客さん連れてきたのよ」
「えっやだ!」
メガネレディは姿勢をただしておれと紫織に挨拶してきた。
「ようこそいらっしゃいました。私は当研究所の所長・南鞠真美と申します」
「はじめましてミニャイマリ……」
噛んだ。
「ミナミマミさ……」
また噛んだ。
なんだこの言いにくい名前!?
噛みまくるおれを見てジルヴァがブフゥー! って噴き出した。
「南鞠です。南鞠真美」
メガネレディの笑顔が怖いものになっていた。
やべえ絶対気にしてるよこれ。
自分の名前が読みにくいことを思いっきり気にしてる人だよこれ。
「みなみ、まり、まみしゃん」
「アハハハハハ!」
もう耐えられないという顔でジルヴァが爆笑しはじめる。
ちくしょう最後の最後で油断しちまった。
つかマミムメモ多すぎだろ! 早口言葉か!
「カズヤです……」
おれは顔を赤くしながら手を差し出した。
「はいカズヤさんですねよろしくー」
おれたちは握手をかわした。
ジルヴァのせいで色々と雰囲気ぶち壊しになっちまって、おたがい適当なあいさつになった。
南鞠真美さんはすぐさま紫織のほうに視線をおくる。
圧力のある視線を。
「そちらは?」
「あっ、お、大原紫織です」
「オオハラシオさんですかー。素敵なお名前ですねー」
「ど、どうも」
「……」
「……」
無言の圧力が紫織にも襲いかかる。
おいお前、俺の名を言ってみろ。
顔にそう書いてあった。
「……ミニャっ、ミ! みなみまりまみさん!」
おお二回でクリアした!
「フー、まあいいでしょう。二人ともようこそ、当研究所はお二人を歓迎します」
なんか妙な上から目線でOK出してきたミナリミャイ。
ともかくおれたちはこの筋肉村、もとい錬金術研究所でしばし生活することになった。
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