第23話 なんか……あれ?
おれたちはジルヴァにさそわれて進路を西へ変更した。
当初めざしていた都心をさけ、西にむかっている。
余談だが、東京都という場所はイメージより広範囲に広がっていて、離島もあれば山岳もある。
おれたちがむかっている東京都西部は自然豊かな丘陵地帯だった。
「いや~助かったわぁ~、この距離バイクで往復すんのけっこうしんどかったのよ~」
車の後部座席でジルヴァが陽気にしゃべりまくる。
あきれたことに彼女の交通手段は原動機付自転車、いわゆる原チャリとか原付とか呼ばれるミニバイクだった。
彼女のバイクはいまおれの車の天井に括りつけられている。
人間のほうは後部座席で絶賛おしゃべり中だ。
「こんなものでゾンビがうろつく街中を走り回るなんてさあ。危なすぎるだろ?」
「あら、スリルがあってけっこう楽しいのよ。刺激のない人生なんてつまらないでしょ?」
「左様でごぜえますか……」
イカレてんなあこいつも。
まともな脳みそじゃ生きていけない社会なのかもな。
「ところでさ、カズヤにシオ、あんた達ってどういう関係? 恋人? それとももう夫婦だったりしちゃう?」
「えー、ちがいますよお」
紫織が言い、おれもうなずく。
「わたしたちは、兄さんを助けるために旅をしているんです」
「お兄さん?」
紫織ははい、と答えて真顔でジルヴァに向き直った。
「ジルヴァさんって錬金術師なんですよね」
「そうよ。すごいでしょ」
「その錬金術で、ウイルス感染した人を治療したり出来ませんかね!?」
紫織はこれまでのいきさつを話した。
負傷のせいで感染し、冷凍睡眠状態の兄の話を。
残念ながら、ジルヴァは首を横にふった。
「残念だけどそれは不可能よ。国がこんな有り様でしょう。研究するためのや物資が足りなさすぎるのよ」
「ああ……そうですか……」
「ってかアンタら何者なのよ? コールドスリープなんてSFチックなものが実在したなんて初耳なんだけど? あんたらの方がよっぽど設備そろってるんじゃないの?」
「あー、その辺は……どうなんでしょうカズヤさん……?」
紫織はおれの顔を見た。
基地の地下三階にあるよくわからん施設。
あれは確かにすごい……気がする。
「正直よく分からない。おれの住んでいた基地にはスゲー設備がいっぱいあったんだけど、使い方がさっぱり分からないんだ」
「なによそれ?」
ここでおれは何度目かわからない記憶喪失の話をしなくてはいけなかった。
くそぅ、いい加減ウンザリしてきたぞ。そろそろ本当に思い出さないと人生がしんどい。
新しい出会いのたびに『自分は記憶喪失です、よく分からないけどすごい基地に住んでます』なんて言うのはもうイヤだ。
「へえ、一度見てみたいものね。専門外で役に立てないかもしれないけれど」
ジルヴァの顔つきがちょっとシリアスになる。
軽率にベラベラしゃべりすぎたかも。
でもおれたちだけじゃ正直お手上げだし、だれかを頼るしかないんだよな。
「まあいいわよ、とりあえずウチに来たらいいわ。経験不足のあんた達に今を生きる力ってのを教えてあげる」
ジルヴァはおしゃべりなお姉さんという顔にもどっていた。
そこからはどうでもいいような話をエンドレスでしゃべり続ける。
最初は疲れると感じていたおれだったが、だんだん彼女のペースにも慣れてきて一緒にいるのが楽しくなってきた。
そうだよ、旅はこうでなきゃ。
楽しくなきゃいけないよな。
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高い隔壁に囲まれた小さな田園風景。
そんな印象の施設だった。
錬金術というより農業大学とかそんな雰囲気。
しかし厳重に守られた門には『錬金術研究所』という金文字が堂々と記されており、間違いなくここが錬金術の場なのだと確認できた。
「たっだいま~新しい契約とってきたよみんな~」
ジルヴァがマッチョなお兄さんたちと笑顔で挨拶をかわす。
アポなし来客だったおれたちもこころよく歓迎された。
「みんないい人たちだから、きっとすぐ馴染めるわ」
「ああ、そりゃありがたい」
ゆっくりとした徐行運転で敷地内をすすむおれたち。
途中、マッチョな兵士とか、マッチョな作業員とか、マッチョな清掃員とかとすれ違う。
みな真面目にそれぞれの仕事をがんばっていた。
……いや待て、やけにマッチョ率高くね?
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