第16話 この世には、生かしちゃおけねえ悪がいる
芝浦がおれに問う。
「おい一応聞いておくが、手榴弾とかねえか?」
「さすがにないっス……」
「じゃ、しょうがねえな」
芝浦は刀を肩にかついで前方の群れをにらむ。
まさに爆弾的な広範囲攻撃グッズがほしいシーンだが、無いものは無い。
このままやるしかないようだ。
いざ、突撃。
そうおれたちが身がまえた時、鉄柵で囲われた二階に一人の男が姿を見せた。
「ふぁ~あ、なんかうるせえなあ。なんかあったのかゾンビどもぉ?」
あきらかに寝起きのその男は、生きている人間にもかかわらず大量のゾンビの中で平然としていた。
この男がネクロス。ゾンビをあやつる特殊能力をもつ男。
ネクロスは地上に立っているおれたちの姿に気づいた。
「ネクロスてめえ、ずいぶんとご機嫌なお目覚めじゃねえか……!」
怒り心頭の芝浦にたいして、ネクロスはニヤニヤと卑しい笑みを浮かべる。
「あっれえ? アンタは、アンタはえっと……ゴメェン名前わすれちったぁ。なんて言ったっけぇギャハハハハハ!」
「チッ!」
二階からニヤニヤ笑いながら見下ろすネクロス。
地上から憤怒の形相で見上げる芝浦軍治。
オーケー。
このやり取りだけでおれはネクロスが嫌いになった。
友好的な解決なんて確実にのぞめないってことだけはわかったぜ。
だがそれはそれとして。おれは脳内コンピューター・ノヴァに語りかける。
「ノヴァ、あいつはゲームのプレイヤーなのか?」
『……』
めずらしく数秒の待ち時間があった。
『申し訳ありません、現時点では不明です。通信を試みましたが反応がありませんでした。あえて通信を拒絶している可能性もあります。脳内コンピューターを所有していない人物の可能性も否定できません。直接会話によるコンタクトをとってみるのはいかがでしょうか』
「えー、この状況でぇ?」
一触即発の空気がただよっているというのに、そんな空気読めないダメ人間として行動しなけりゃいかんとは。やれやれ。
おれは覚悟を決めて大声で呼びかけた。
「あっあのー! ネクロスさーん! ちょっといいですかあー!?」
「あ?」
その場にいる全員の視線がおれに注がれる。五十体のゾンビ軍団もだ。
なんでゾンビまでおれを見る!? お前らはよそ見してればいいんだよ!
くそっ、なんだかやけに恥ずかしいぜ!
「あのっ、おれは! 頭の中にノヴァっていうコンピューターを飼っているプレイヤーなんです! あなたもひょっとしてプレイヤーさんとかだったりしませんかー!!」
しーん……。
全員の注目を浴びるなか、地獄のような沈黙の時が流れた。
そして、ビミョーな顔でネクロスが答える。
「……なに言ってんだテメー? やべークスリでもキメてんのか?」
違ったああああああああああ!!
恥かいて損したーッ!!
悶絶するおれに追撃をかけるかのように、ノヴァが語りかける。
『再度通信を試みましたが応答がありません。現時点では、ネクロス氏を生かしたまま確認することは困難なようです』
オイオイ殺して頭蓋骨の中を調べろってかぁ?
それはちょっとやりたくないなー、死んだあとじゃあんまり意味ないし。
ノヴァとの会話に気を取られているおれを見ていたネクロスは、何かに気づいた様子だった。
「待てよ。もしかしてテメーは……」
ネクロスはなにか重要そうなことを言おうとしていたが、芝浦がそれをさえぎった。
「くだらねえことガタガタぬかしてんじゃねえ! 俺は貴様をぶった切る! それだけのためにこんな所まで来たんだからよ!」
復讐に燃える任侠が、舞台の空気をふたたび戦場にかえる。
彼のまわりの空気が憤怒の炎でゆらめいているようにも見えた。
「くっ……」
ネクロスは芝浦の怒気にあてられてのけぞった。
どうやったって芝浦の攻撃は届きそうもない距離なのに、それでも彼の凄みを恐れたらしい。
「うるせえんだよ朝っぱらから! おい、そのオヤジを殺せゾンビども!」
恐怖におびえていても、やつはこの空間の支配者だ。その戦力は脅威。
圧倒的な戦力がまるで大波のように襲いかかってきた。
「紫織ちゃん全力でいくぞ! 死んだら元も子もねえ!」
「はいっ!」
軽機関銃とハンドガンが火を噴く。
真正面から殺到する十数体のゾンビをまずは駆逐した。
だが敵は恐怖を知らないゾンビ軍団。
味方が次々と倒れるのも気にせず、やつらは左右から押し寄せてくる。
おれたちはジワジワと包囲されつつあった。
「横はまかせる、ついて来い!」
芝浦が前へ飛び出した。
「うおおおおー!!」
このおっさんマジで強ええ。もう戦国時代の鬼か阿修羅かって勢いで敵を斬り倒していく。
正面以外はおれと紫織が射撃で近づかせない。
まだ芝浦の体力も、おれたちの弾丸も残っている。
これなら本当に突破できそうだぞ―――。
しかし。
無双状態だった芝浦の歩みが、なぜかいきなり止まった。
目に前に立ちはだかるのは女のゾンビと少年のゾンビ。
「あ、あ―――」
「どうしたんです!?」
芝浦の刃がふるえていた。
もっと強そうなゾンビを楽々とたおしていたくせに、目の前の女子供を斬れない様子だった。
頭上からネクロスの笑い声がふってくる。
「ヒッヒッヒッヒ! そりゃ斬れねえよなあ芝浦さんよお。あんたの愛する女房と子供だもんなあ!」
このクサレ外道!
さっきは「名前忘れた」とか言っていたくせに、実はしっかり覚えてんじゃねえか!
目の前にいる二体のゾンビは芝浦の妻と子供。
ネクロスの野郎はこんな時の切り札として、二人を建物の奥で温存していやがったんだ。
芝浦が異常なほど激しくネクロスを憎む理由がこの二人なのだと、おれは気づかされた。
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