第14話 極道の執念
おれは悩んだ末に、山へむかいネクロスと戦うことを選択した。
人数が多いほうが良いのはお互い様、といわけで芝浦軍治もパーティーに加え、取り戻した愛車で山にむかう。
「どういう風の吹きまわしなんだお前」
助手席に座る芝浦のおっさんが疑わしい目線をおれに送ってくる。
「ネクロスって男の特殊能力に興味があるんです。どうやってそんな力を身につけたのか。他に仲間はいるのか。そんな部分の話を聞いてみたくて」
「そうそう都合よく語ってくれりゃ良いがな」
芝浦は刀の鞘をグッと力強く握りしめる。
「野郎だけはこの手で叩き切ってやらなきゃ気が済まねえ」
殺意とか闘志のオーラみたいなものが目に見えそうなほどだった。
あまりにも強い激情を見せられて、つい聞いてみたくなる。
「そこまでひどい目にあわされたんですか?」
「……初めは泣きべそかきながらやって来やがってよ。それでつい甘い顔をしたのが間違いだった」
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一年前のことだという。
ネクロスは数人のグループといっしょにこの街へやってきた。
どこかでかっぱらってきた市営バスに乗ってきたそうな。
背が低く、痩せていて、卑屈な笑顔で媚びへつらう。
いかにもな弱者男性といった風情の若い男。
それがネクロスだった。
「ええーいやいや、受け入れてくれたみなさんに、ちょっとでも恩返しがしたいんで、ぜひ」
などと言ってネクロスはヘラヘラ笑い、キツイ肉体労働をすすんでやってくれたという。
小さな身体を酷使して、不平不満もいわず努力するその姿に芝浦たちはつい心を許してしまった。
他の連中も無口で不愛想ながらよく働く。
気のいい奴らが仲間になってくれたと、はじめの頃はそう思っていた。
だが! それは自分の手駒であるゾンビを増やすための芝居だった!
十日ほどすぎた深夜のことである。
突然街のいたるところで住民たちの悲鳴があがった。
これまでずっと一緒に生活をつづけてきた住民たちが、なぜか急にゾンビ化して家族や友人たちに襲いかかったのである。
地獄のような惨状の中心で、ネクロスは狂ったように笑っていた。
「ギャハハハハ! バーカ! だーれがテメエらなんかのために喜んで働いたりするもんかよ! さんざんコキ使いやがって、テメエら全員オレ様の奴隷にしてやる!」
真面目ぶって働いていたのは油断をさそう演技だった。
ネクロスは配下のゾンビたちに油断している住民を襲わせ、ちょっとした傷をつけてまわる。
そうやって地味に感染者を増やしつづけたわけだ。
十日間の時間をかけて、新たなゾンビとなった住民たちが一斉に暴れ出した。
そこからはまさに戦争だった。
芝浦をはじめ無事だった者たちが総出でゾンビと戦う。
ゾンビになった者は女子供にも容赦なく襲いかかってくる。命あるものすべてが武器を取って戦うしかなかった。
しかし戦う相手はかつての家族や友人たち。
だれもが涙し、嗚咽まじりに武器を振るうしかない。
あまりにも辛く悲しい一夜になった。
結果、夜が明けるころに芝浦たちは勝利した。
勝ってネクロスとゾンビたちを街から追い払うことには成功する。
しかし戦いが終わった時、住民の数は半分にまで減らされていた。
ゾンビと化して街を去っていく住民の中には、芝浦の妻と息子もいたのである……。
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「あの野郎はこらえ性のねえクズだ。俺にはわかる」
静かな怒りを漲らせながら芝浦は語る。
「野郎、本当は街の奴ら全員をいっぺんにゾンビにするはずだったんだ。だが仕事が思ったよりキツかったんで一ヵ月ももたずに根をあげた。あいつはクズだ。だから俺たちは今でもこうして生きている」
その言葉に意味があるのか無いのか。
きっとあふれ出す激情をおさえるために吐き出しているだけだろう。
「野郎は逃げ出したくせに未練たらしくこの街をねらっていやがる。きっとどこにも行く場所がねえんだ、根性なしのクソ野郎だからな。だからこそ野郎の首をこの手で掻っ切ってやるチャンスがあるんだが……」
「なるほど」
話を聞くかぎり確かにしょうもないゲス野郎みたいだ。
しかしそのゲス野郎はゾンビを操る力を持っている。
ゾンビ軍団の最深部でふんぞり返っているであろう『そいつ』をブッ殺すというのは、なかなか大変そうだぞ。
「着きましたよ」
「おう、悪かったな」
おれの運転する車は、ほんの十数分で山のふもとにたどり着いた。
たいしたことのない小山だ。登山で疲れはてるということはないだろう。
頂上付近に街を見下ろせる展望台があるらしい。
きっとそこがボス敵の居場所。
「こんな所まで送ってもらってなんだが、お前たちまで命をかける必要はねえんだぜ」
夜風に当たって頭が冷えたのか、芝浦はいまさらそんなことを言う。
「そういう野暮は言いっこなしですよ。こっちにだって理由はあるんだ」
後ろにひかえていた紫織に視線を送ると、彼女も小さな拳をにぎってウン、とうなずいた。
おれたち若者のやる気を目の当たりにして、芝浦は微笑んだ。
「フッ、ガキのくせに粋がりやがって」
さて作戦だが、ゾンビ相手に夜襲が通用するとも思えない。
視界が悪すぎて逆にこっちが苦戦することになるだろうと考えて払暁作戦。つまり夜明けと同時に突入開始することになった。
ご自慢のゾンビ軍団だって命令するやつがいなければ『軍団』として機能しないだろう。
理想をいえばネクロスが寝ている間に潜入して捕まえてしまいたい。
うまくいってくれたら良いんだけどな。
読んでくださってありがとうございます。
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