第13話 ネクロスの要塞?
「一度、とんでもなく酷え目にあってな。それから「よそ者」が怖くてしかたねえのさ、ここの連中は」
「よそ者が怖い?」
「ああ」
芝浦は怖い顔で刀の鞘を握りしめた。
「とんでもねえ外道がやって来たことがあってな。そのせいで……大勢やられちまったんだ」
「外道……?」
うつむき、ギリッと歯ぎしりする芝浦。
「ネクロスって名乗る野郎だ。本当の名なんて知らねえ。ゾンビの群れを自由に操るわけわかんねえバケモンだ」
彼は鞘に収まったままの日本刀を闇夜にむける。
その先に黒々とそびえ立つ山が見えた。
「いまでもあの山でゾンビを飼いならしてこの街を狙ってる。文字どおり『お山の大将』ってわけさ」
「へえ……」
他人事だと思っているおれは、適当に相槌を打つ。
ゾンビを操る能力ねえ。
魔法使いとか超能力者とか、そんな感じのやつなのかな。
おれも闇夜の奥で黒々とそびえ立つ山のシルエットを見つめた。
ゾンビだらけの山を支配する謎の男ネクロス。
一対一なら大したことのないゾンビどもも、視界の悪い山の中で横や後ろからいきなり襲われるとなったら何倍もヤバい。
さながら山上の要塞。
この街の連中が平和にくらすためには、ゾンビ軍団あいてに戦国時代の攻城戦みたいなことをしなけりゃいけないってわけだ。
「ネクロスの要塞って感じか……ナメてやがんなぁそいつ」
「あ?」
なんの気なしにつぶやいたおれの声に、芝浦のおっさんは口をポカンとあけた。
「えっ、おれなんか変なこと言いました?」
「いや、変っていうのも何だが、なんでお前みてえなガキが知ってんだ?」
「へっ?」
「『ネクロスの要塞』ってなあ、この俺が小学生くらいの時に売ってた駄菓子だぞ?」
「えっ」
言われてはじめて、おれは年齢とまったく時代が合わない知識を持っていることに気づいた。
昭和時代の後半(1980年代)に『ビックリマンチョコ』っていうシール付き駄菓子が大流行したんだ。
それと大体おなじくらいのころにスーパーやコンビニで売っていたのが『ネクロスの要塞』っていう小さなフィギュア付き駄菓子。
こんな壊れた世界になるまでは手をかえ品をかえ売られつづけてきた『ビックリマン』とちがい、『ネクロスの要塞』ってのはその時代にだけ存在していた商品だ。
……なんでそんな物をこのおれが知ってんだ?
「ゼロさん、もしかして記憶がもどったんですか?」
紫織に問われるも、素直にうなずけない。
「いや戻ったっていうか……なんかスッゲーどうでもいいオタク知識が脳みその奥側からわいてきて……」
さらにおれの脳みそはどうでもいい知識を呼び起こしてきた。
おれは両手で頭をかかえる。
両手で刺激を加えると、もっと記憶が絞り出されてくるような気がした。
デンデデンデデンデデンデデン……♪
デンデデンデデンデデンデデン……♪
デデッデデケデケデン、デデッデデケデケデン、デケデケデケデケデケデケッ♪
古臭い低スペックマシンから再生される戦闘BGM。
狩人みたいな主人公が草原を駆けて短刀や弓矢で戦う、当時としてはやけに気合入っている戦闘シーン……。
そうだ、夕方にやってたテレ東のゲーム番組で一回だけ紹介されたことがあったぞ。
「僕も好きなんです」みたいなささやかな褒められかたをしてたんだ。
「フィギュアだけじゃねえ。あれゲーム化されてたぞ、PCエンジンのRPGだ!」
おれは芝浦のおっさんの顔を見る。
おっさんは迷惑そうに顔をしかめた。
「いやそこまでは知らねえよ、なんの話をしてんだお前?」
そうだよ、なんの話をしてるんだおれ。
40年くらい前の駄菓子。35年くらい前のゲーム。
なんでおれがそんな物を知ってるんだ!?
家でやってクリアしたぞ『ネクロスの要塞』。
その家ってどこだよ?
プレイしている記憶はあるのに、しかもゲーム内のシナリオもちょっとは覚えているのに。
それなのに自分の家とか名前とかそのへんの記憶だけがすっぽり抜け落ちている。
「紫織ちゃん」
「はい?」
「おれってさ、何歳くらいに見える?」
「……二十歳くらいじゃないですか」
「……おれもそう思う」
二十歳の人間に40年前の記憶があるわけない。
これってつまり、この世界がやっぱり本当にゲームの世界で、本物のおれは中高年以上のオッサンってことなのか?
オッサンの記憶が中途半端に呼び起こされたせいでおれは混乱しているのか?
だけどよ……、こんなにもリアルすぎるゲームなんて作れるわけねえと思うんだがなあ。
仮に日本の国家予算全部と、国内の技術者全員を開発チームにブチ込んだって、こんなゲームつくれないはずなんだよなあ……。
「もういいだろう、そんな話はあとでやってくれ。お前たちはもう街を出ろ、夜が明けてからだと面倒なことになるかもしれねえ」
ダラダラとしたよく分からない会話に、芝浦はしびれを切らしてしまったようだった。
おれの車は取り戻した。
そしてここはよそ者にとって居心地の悪い街だ。
たしかに長居する理由なんて一つもない。
それに山からこの街を狙っているという、ネクロスさんとやらを退治しなくてはいけない理由もおれにはない。
出ていけという芝浦の言葉はありがたいものだった。
しかし。
おれが「わかった、そうする」と言おうとした直前。
脳内AI『ノヴァ』が話しかけてきた。
『プレイヤーゼロワンに申し上げます。
この街の住民たちを襲うネクロスという人物は、なんとゾンビを支配するという特殊能力を持つそうです。
もしかするとその人物は『使役系スキル』を所有するプレイヤーかもしれません』
「マジか!?」
いわれて見りゃゾンビを操るなんて異常すぎる力だ。
特殊スキルだというのならなんとなく納得できるような気もする。
おれ以外のプレイヤーにとうとう会えるのか?
だけど状況的には戦うシチュエーションだ。
これって対戦ゲームだったの?
『プレイヤーゼロワンの前に新しい選択肢があらわれました。
芝浦軍治に協力し、山へむかいますか?
山へむかった場合、ゼロワンは戦闘行為もふくめた危険に遭遇することでしょう。
しかしネクロスという特殊な人物から新たな情報を得ることができるかもしれません。
一方このまま街の外へ出て、あてのない旅を再開することも可能です』
「むむむ……」
山へ行くか?
街を離れるか?
あいかわらずこいつは悩ましい選択を突きつけてくるな。
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