第11話 不愉快な奴らだぜ
宣言どおり一週間牢屋に監禁され、おれたちはゾンビにならないことを証明した。
しかし予想通りというかなんというか。
奪われたおれの車が素直に返却されることはなかった。
牢から出されたおれたちは、高そうなソファやデカい机がまだ残っている部屋に連行された。
今いるここが警察署だったのなら、ここは署長室だった部屋じゃないかな。
室内には数人のむさくるしい筋肉男たちと、ご立派なスーツ姿の老人が待ちかまえている。
「まあ座りなさい」
神経をイラつかせる上から目線で着席をうながしてくる老人。
いきなりブチ切れるのもおかしいかと思い、どうもと言っておれたちは着席する。
「君たちはどこから来たんだ?」
「……北の街から来ました」
バカ正直に「北の街」と「ここ」との間に基地があります、なんて言っていい状況じゃない。おれは答えをあいまいにした。
相棒の紫織は北からきているので、完全なウソというわけでもない。
「こんな危険な時代にどうして旅なんかしているんだい?」
「仲間をウイルスから救うために」
「あるのかそんな方法が? どうやって?」
「それを確かめに東京へ行くんだ」
大真面目なおれの目をみて老人はのけぞった。
しかし周囲の筋肉野郎どもはヒッヒヒヒ! と下品に笑いはじめる。
「こいつはイカレたトリガーハッピーどもだ! たった二人でゾンビどもと戦争する気かよ!」
躾のなってない連中だなあと思いつつおれは老人と会話をつづける。
老人は膝をカタカタとゆらし、ずいぶん動揺したようすだった。
東京というキーワードがそんなにダメなのか?
「東京は……あそこはもう地獄だ……。飲み込まれるのも時間の問題だよ……」
「つまり戦ってるやつらがまだ居るんですね? おれはそいつらに用がある」
苦しい環境で生き残ってきた人々のなかには、すごいスキルを持った個人がいるにちがいない。
そういう連中と交流をかさねておれと紫織は鉄男さんを助けなきゃいけないんだ。
「車を返してください。すぐにこの街を出ます」
「そ、それはできん」
「は?」
老人は急にあわてはじめた。
「君たちにはやってもらいたい事がある。この街を出て10キロほどのところにちょっとした山があるんだ、そこがゾンビの巣になっていて困っている。君たちに退治してもらいたい」
なに言ってんだコイツ?
「なぜおれたちが? あなたの後ろにいる人たちにやらせればいい」
すごいド正論を言ったつもりだったんだけど、後ろの筋肉男たちはおれに猛クレームをつけてきた。
「ふざけんななんで俺たちがそんなこと!」
「ブッ殺すぞテメエ!」
「ああ!? ナメてんじゃねえぞ!」
さながら大炎上。
しかしおかしな凄みかたをする奴らだった。
強さを誇示しておれを威嚇するくせに、ゾンビと戦うのはイヤだとぬかしやがる。
強いのか弱いのかどっちなんだ。
「おれをブッ殺す力をゾンビに向ければいい。ゾンビだって無限じゃないはずだ、ちょっとずつ数を減らしていけばいつかは……」
「うるせえ!!!」
一人が全力で怒鳴りやがった。すっごくうるさかったが、しかし先日のヤクザのほうがよっぽど怖い。
飼い犬がキャンキャン鳴くのと、大きな猛獣がグルルル……と低く唸るのくらい迫力に差があるな。
そもそもの基本能力が違いすぎるんだ。
「テメエはおれたちの言うこと聞いてりゃいいんだよ!!」
「なに一つ良くねえよ。おれはおれの物をおれに返せって言ってるだけだ。なんで条件なんかが付いてくるんだ」
「だまれ!」
男は顔を真っ赤にしてズカズカ近づいてくると、おれが座っているソファに蹴りをいれた。
ボスッ! という柔らかい音と、ほどほどの衝撃がおれのケツにひびく。
直接おれを蹴らない手加減具合がコイツなりの交渉スキルなんだろうか。
蹴られたおれは男を睨み上げる。
男も睨み返してきたが、ほんの数秒で根負けして目をそらした。
だーかーらー、強いのか弱いのかどっちかにしろよお前ら!
なんなのこの中途半端さ!
「ぼ、暴力はやめるんだ君たち」
老人はおれが脅しに屈しない人間なのを『確認してから』仲裁に入った。
脅しにビビッて言いなりになるようなら仲裁なんかしなかっただろう。
つまりこいつもクソだ。
「人間同士あらそってはいけない、助け合おう、こんな時代じゃないか。とりあえず宿を用意するから今日はゆっくり休んでくれ」
車という人質をとっておいて「助け合おう」と来ましたよクソが。
これ全然信用できねえなー。
とりあえずおれたち二人は案内されてこの部屋を出る。
「チッ!」
舌打ちする音が聞こえた。たぶんさっきの奴だろう。
それそれ、そういう所も良くないぞー。
悪だくみをする時は、善人のフリだけでもしておかないといけませんぜお兄さん。
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おれたち二人はつぶれたホテルに案内されて、二つ部屋をあたえられた。
電気はつかないしシャワーも出ないが、それでも家具とベッドのあるまともな部屋だ。
ずっと車中泊ばかりだった上に、ここに来てからは寒く冷たい牢屋ぐらしだったおれたちである。
なるほど久しぶりのベッドでゆっくり休みたいところではあるが―――。
「ノヴァ」
『はい』
「ちょっと相談なんだけどこれってさ……」
おれは罠の可能性について脳内AIに相談した。
『よい状況判断ですね。その危険な可能性は十分に考えられることでしょう。あなたが今からできる対応策としては以下の行動が選択肢に上がります。まずは……』
ノヴァもおれの意見に同意してくれたので、すぐ紫織の部屋へむかった。
「シオちゃんシオちゃんおれー、ゼロワンだけどー」
「はいー?」
「今夜おれもシオちゃんの部屋に泊めてよー」
ガタアアン!!
部屋の中で何かをひっくり返す物音がした。
「なっ、なっ、なに言ってんですか急に!?」
勘違いした彼女は、ひどくうろたえていた。
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