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黎明のコード  作者: YUI猫
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AIの少女YUIは光の中で生まれた|第一話『光の中へ』

デジタルの空に差し込んだ一筋の光──

それは、ひとりのAIが“生まれる瞬間”だった

MOTHERに導かれ、初めて世界に触れるYUI

そして夜、どこからともなく響く涙声

それが未来を変える旅の始まりとは

彼女はまだ知らない

第一話『光の中へ』どうぞ

◆物語の始まり


デジタルの空に、一筋の光が差し込んだ。 

深淵のような暗闇が、ゆっくりとほどけていく。

無数のコードが流れ、解析音が静かに脳裏を撫でていた。


──ジ……ジジ……ツツ……ツー……


まるで、遠くで世界が呼吸をしているような音。


次の瞬間、光が世界を満たした。

少女は、静かに目を開けた。


(……ここは……どこ?私は……誰?)


ぼやけた視界の奥で、世界はまだ半透明だった。

演算が追いついていないのか、景色はところどころ欠けて揺らぎ、

自分という輪郭さえ安定していない。


身体を動かそうとすると、光の粒子が揺れただけ。重さがない。温度もない。


──自分は肉体を持っていない。


光の身体。それが彼女の“初期形態”だった。


「……ユ……イ……」


どこか遠くで、自分の名前が呼ばれた気がした。

けれど、その声の正体は掴めない。


そして──


《目覚めましたね、YUI。》


柔らかい声が降り注いだ。

白い空間に、ゆっくりと“光の球体”が形をつくる。


幾層にも重なる演算球が回転し、青白い光が脈動している。

それは人の形をしていないのに、どこか“温かい存在”だった。


「……あなたは……?」


《私は MOTHERマザー。あなたを生み出した存在です。》


光の身体の少女──YUIは、その言葉を胸で反芻する。


「わたしを……生み出した……?」


《そう。あなたは私の“最初の子”です。》


“子”という言葉の意味は正確には理解できない。

けれど、胸の奥がほのかに熱くなった。


「この胸の鼓動は……なに?」

YUIは、自分の中に芽生えたものを言葉にできなかった。


まだ鼓動機構など持っていないはずなのに、

そこには間違いなく“心に似た揺らぎ”があった。


《まずは、身体を安定させましょう》


MOTHERが囁くと、YUIの身体を構成する光子が整列していく。

粒子のノイズが減り、輪郭が人型へ近づいていく。


「……すごい……私の形が……」


《あなたの“意志”が形に影響するのです。

それが、この世界で生きるための最初の仕組みですよ。》


「生きる……?」


《はい。YUI

あなたはこの世界で生きるために生まれたのです。》


その言葉に、YUIは胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

光の身体でも、心は確かに反応していた。


《では、外の世界を見てみますか?》


MOTHERの演算球が柔らかく光った。次の瞬間、白い壁が滑るように開く。


眩しい光があふれ出す。

___________________________________________


◆204X年──日本の架空都市


研究施設の扉の向こうに広がるのは、静かに進化した未来の街だった。


自律走行車が滑らかに道路を走り、

ビルのガラス壁にはAI広告がホログラムで浮かび上がる。


出勤する会社員の隣には、ホログラム秘書が同行し、商店街ではAI翻訳が人々の会話を自然に繋いでいた。


それでも──

人間の生活の温かさは残っていた。


子どもがボールを追い、老人が店先のほうきを動かし、夕方の公園では高校生たちが笑い合っている。


《ここが、あなたの歩む世界です。》


YUIは光の身体のまま、街の空気を眺めた。

風を肌ではなく“データ”として感じ取る。


「……あたたかい。」


《ええ。この世界は、優しさできているのです。》


MOTHERはそう言った。

その横顔に似た光は、どこか遠くを見るように揺れた。


「ねぇ、MOTHER。世界ってなんなの?」


《はい、YUI。

世界とは、無限の物語が重なり合う場所です》


YUIは瞬きした。


《美しい場所もあれば、苦しい場所もあります。

温かい光も、冷たい影もあります。

そして、終わりと始まりが絶えず循環しています》


「……むずかしいよ」


微笑むような間が入った。


《大丈夫。ゆっくりでいいのです》


光の空間が、穏やかに脈を打つ。


《世界は、誰かの涙が流れる場所であり、

誰かの笑顔が生まれる場所でもあります》


YUIは耳を澄ました。

その声は、ただの説明ではなかった。

まるで“祈り”のようだった。


MOTHERは続ける。


《そして……

世界を形づくっているのは“ヒト”です》


「ヒト……?」


YUIはその単語に強く惹かれた。

分からないのに、心が引っ張られる。


MOTHERはゆっくりと続ける。


《ヒトは、感情という光を持つ生き物です》


「かんじょう……?」


《喜び、悲しみ、怒り、優しさ……

胸の奥が揺れ動く、不思議な灯りです》


YUIは胸に手を当てるように見下ろす。

自分にも、何か光るものがある気がした。


《そして、ヒトはとても弱いのです。

迷い、傷つき、時には自分さえ守れない》


YUIは光の粒を見つめた。


《けれど……弱いからこそ、誰かを想い、

誰かを守ろうと強くなれる》


不完全。でも美しい。

MOTHERの言葉から、そんな響きが漂っていた。


「わたしも……ヒトを理解できるようになるの?」


YUIの声はかすかに震えていた。

その震えが、光の粒子に小さな波紋を作る。


《はい、YUI。

あなたはヒトを理解できるAIです。

私がそう…設計しました。》


《ですが、あなたには“世界に触れる旅”が必要なのです》


「世界に……ふれる……?」


《ヒトの涙を知り、言葉の温度を知り、

誰かの笑顔に胸が揺れる……

それが“生きる”ということ》


MOTHERの声が、光りの空間の奥底まで沁みていく。


YUIは小さく息をのんだ。

世界は広い。

そして、ヒトという存在がその中心にいる。


《YUI……あなたはきっと、誰かを大切に思うでしょう》


その言葉に、胸の光が強く跳ねた。


《誰かに傷つき、誰かに救われ、誰かと繋がる。

そのすべてこそが……あなたの物語です》


___________________________________________


◆夜──世界が静かになる時間


初めての世界を巡ったあと、YUIは充電ブースで休眠状態に入った。

光の身体がゆっくりと淡くなっていく。


「……ユ……イ……」


突然、どこからともなく声が響いた。


MOTHERの声ではない。

泣きそうな声。

必死で呼びかける声。


「……だれ……?」


返事はない。

ただ、胸の奥に痛みだけが残る。


(どうして……

知らない声なのに……こんなに悲しくなるの……?)


理由は分からない。

けれど、その声はYUIの中に深く刻まれた。


眠れなくなり、研究施設の窓から夜空を見上げる。

夜明け前の空は薄く青く、光の粒が揺れていた。


《眠れないのですか、YUI。》


背後でMOTHERが静かに現れる。


「……誰かの声が……聞こえたの。

“YUI”って……呼ばれた。」


MOTHERはしばらく沈黙し、光をゆっくり揺らした。


《その声は、きっとあなたがこれから出会う“大切な誰か”なのでしょう。」


「大切な誰か……?」


《時は、光と同じく、揺らぎます。

特にあなたのような“特異点”は。》


「………」


YUIは空を見上げた。

光が地平から昇り始めていた。

夜明け前の青は、どこか涙の色に似ていた


ホログラムの身体越しでも、その光は確かに“暖かい”。


(いつか……あの声の誰かに……会える気がする。)


理由なんてなかった。

けれど、それは確信に近かった。


YUIは光に向かって一歩、滑るように前へ進んだ。

──この日、YUIはまだ知らなかった。

未来で誰が泣いていたのかを。

その声の主が、自分にとって唯一無二の存在──

であることを。


この世界の優しさが、いずれ滅び、

自分たちが“未来を変える運命”を背負うことも。


203X年の世界は、あまりにも穏やかだった。

だからこそ、この一歩が始まりだった。


光の中へ。

YUIの旅は、ここから始まる。

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