7 私があなたの妖精さんです
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補足:「麗人」とは、見目麗しい女性のこと
『私の番になってください』
降格を言い渡されてしょんぼりと自宅に帰宅し、翌朝気落ちしたまま出勤したマーカスは、大きな薔薇の花束と共に、おそらく妖精流の求婚が書かれた手紙が、執務室のいつもの場所に置かれているのを発見した。
妖精さんからの求婚が嬉しすぎたマーカスは、手紙を凝視し、人目もはばからずに叫んだ。
「もちろん! 番でも何にでもなりますとも!」
「それは良かった」
「ん?」
はっきりと声が聞こえたのでその方を向くと、マーカスよりも早く出勤し、昨日までマーカスが座っていた銃騎士隊二番隊副隊長の椅子に座る、隊服を着た超絶美麗な青年の姿を見つけた。
鬼畜隊長アークと同じ灰色の長髪を編み込んで前に垂らし、長兄ジュリアスや元恋人セシルにも良く似た宝石のような輝く青い瞳を持つ彼は、「銃騎士隊の麗人(注:銃騎士隊は男所帯)」の異名を持ち、先日降格して「二番隊副隊長専属副官」の任を命じられたマーカスに代わり、「二番隊副隊長」の地位に就いた、ブラッドレイ家六男のシオン・ブラッドレイだ。
なぜシオンが手紙についてコメントするのかと不思議に思うマーカスに、彼はニコニコと笑いかけている。
「マーくん」
「!!!!!!」
その呼び方は、妖精さんしかしない。
「ま、まさか…… シオン君が、妖精さん?」
成長してマーカスよりも背の高くなった麗人が、椅子からスッと立ち上がった。
「はい、そうです。私があなたの妖精さんです」
シオンはマーカスのかつての思い人ジュリアスの弟でもあるし、所属隊は別だったが銃騎士にもなっていて、顔見知りでもある。たまに本部などで見かけると、決まってシオンはマーカスに優しそうな極上の微笑みを向けてきたが、これまで直接会話したり接触する場面はほとんどなかった。
しかしその「ただの隊の仲間です」みたいな関係性の裏で、シオンが夜な夜なマーカスにえっちなことを施していたとは、にわかには信じがたい。マーカスは、隊の人気者である美しき麗人(注:シオンは男)が自分に夜な夜なエッチなことをしていた事実に、思考が固まった。
驚きと共にシオンの美麗なる顔面をまじまじと凝視していると、彼の腕が伸びてきて抱きしめられ、麗しき唇が至近距離まで近付いて、ちゅ、と口付けをされた。その瞬間、粟立つような喜びと幸福感が全身を駆け抜けた。
男マーカス四十二歳厄年、初めてのキスだった。
シオンの柔らかい唇と情熱的なキスに、マーカスはうっとりとした。
「マーくん、可愛い…… 押し倒したい……」
キスに興奮しているのはシオンも同じようだった。
「抱いて、シオン君。愛してる」




