3 総隊長選挙
今話から3話程度、同シリーズ作「その結婚…」のエピローグ章1話目「二番隊副隊長と総隊長選挙」に絡んだ内容になります。
R15、変態注意
マーカスが三十歳の時に、魔法使い一家ブラッドレイ家の活躍によって獣人王シドが捕まり、処刑された。
しかし公開処刑の際、シドに拘束を破られてしまい、現場は大混乱に陥った。最終的にシドを殺すことはできたが、その混乱の責任を取る形で、銃騎士隊総隊長グレゴリー・クレセントは罷免させられ、同時に退役することになった。
そして、総隊長の席が空いたために、次の総隊長を決める「総隊長選挙」が行われそうな流れになった。
総隊長は最上位である参与の階級を持つ者だけが立候補できる。
ジュリアスが立候補したことで他の者たちは立候補を取り止めたり、辞退するなどした。
皆でシドを倒した立役者である最高神ジュリアス(注:マーカスの中で)を、次代の総隊長に押し上げようという空気感が、銃騎士隊の中に満々ていた。
そして空気も読まずに――というか敢えて無視して――よりにもよって立候補締切最終日に名乗りを上げたのが、マーカスだった。
マーカスが総隊長選挙に立候補したのは、無駄なことをさせやがってと銃騎士隊の上役連中を不快な気分にさせたかったのと、あわよくば罵られて被虐欲求を満たしたかったのと、かつて自分の恋心を奪っていったジュリアスが、総隊長として歩み出すだろうその輝かしい経歴の最初の一頁に、「選挙戦で二番隊副隊長マーカス・エニスを下し――」と、自分の名前を刻みたかった、ただそれだけである。
それに、ジュリアスが総隊長になった場合、ジュリアスの代わりに新しく誰かが隊長代行になる可能性も低い。隊長代行職は、ジュリアスのためだけの特別な役職だったからだ。
そうなれば、マーカスはまた地獄の書類まみれ生活に逆戻りだ。そうなる前に、少しくらい悪ふざけをしたっていいだろうと思った。
要は予定調和を引っ掻き回したかった、愉快犯的な思考による立候補だ。マーカスとて、獣人王シドを倒した英雄ジュリアスに、人気投票で勝てるとは全く思っていない。
奇人・変態・死神…… 不名誉な異名を数々持つ嫌われマーカスに票を入れる奴なんて、きっとマーカス自身しかいないはずだ。
ブラッドレイ家の者が魔法が使えることも考慮され、総隊長選挙の投票は記名投票で行われる。誰が誰に入れたのかわかる仕組みだ。
番隊の隊長と副隊長には投票権があるので、マーカスが自分で自分に票を入れることは可能だが、対して、隊長代行であるジュリアスに投票権はない。二番隊長枠としては、現状、立場的にジュリアスより上であるアークが持つのみだ。
その件に関しては、「不公平だからお前の投票権は辞退しろ!」と心無い者に罵られたこともあった。
「貴様は馬鹿なのかね? 副隊長に投票権があるのは明確なルールとして定められている。二番隊副隊長の投票権を圧力をかけて取り下げさせるということは、それは二番隊から意思決定の権利を取り上げるということと同義かな? 貴様にそんな権限があるとでも? クハハハハ」
マーカスは馬鹿が何か言ってくる度に、神経を逆なでするような口調と態度で言い返してやった。悔しそうな隊員の表情を眺めながら、マーカスは悦に入った。近くでやり取りを見ていた者たちからも、非難めいた視線を向けられるので、マーカスは加虐趣味と被虐趣味の両方を満たされて満足だった。




