2 死にかけマーカス ~ブラッドレイ家に翻弄される男~
R15注意、ショタ注意、首絞め注意
マーカスは意識がなくても美しすぎるジュリアスの顔をじっと見つめた。いつも宝石のように輝いていて人を惹き付けてやまない瞳が閉じられているせいか、生まれながらにして人の上に立つことを宿命付けられているような王者の如き風格は薄まり、ジュリアスが十九歳でまだ十代なこともあって、幼さすら感じられた。
マーカスはジュリアスに自分の✕✕を捧げるつもりだったが、自分がジュリアスの✕✕を貰ってもいいかもと思ってしまった。マーカス調べではジュリアスはまだ✕✕のはずだ。
事が為された後にどうなるか、想像がつかない程マーカスは馬鹿ではない。男相手でも✕✕は✕✕。ジュリアスが訴えれば当然銃騎士隊をクビだろうし、下手したら魔法使いブラッドレイ家一族の怒りを買い、秘密裏に報復を受けて八つ裂きにされてしまうかもしれない。
マーカスはそれも覚悟の上だった。自分の全てを捨ててでもジュリアスと結ばれたいと思えるくらいには、彼のことが好きだった。
マーカスはハァハァと変態さながらに息をしながらジュリアスの隊服に手をかけた。
――しかし、夢にまで見たジュリアスの裸身を見る前に、彼の視界は暗転した。
パッと次に目覚めた時には、ジュリアスが小さな子供に変身していた。変化はそれだけではなくて、マーカスがいる場所も休憩室ではなく、自分が現在寝かされているベッドしか置かれていない見知らぬ部屋に変わっていた。後から気付いたが、そこは恋人たちがソレ用によく利用する種類のホテルの一室だった。
「マーカスおじさん……」
小さいジュリアスが媚びたような上目遣いと猫なで声でマーカスを呼んだ。「おじさん」と不本意な呼ばれ方をされたのも驚いたが、何よりジュリアスが自分を名前で呼んだことに驚いた。
ジュリアスはいつも「副隊長」か「エニス副隊長」と呼ぶばかりで、絶対にマーカスの名前を呼ばなかった。
マーカスはそこにジュリアスの自分に対する線引きを常に感じていた。ジュリアスが自分を恋愛対象としては見ないだろうことはわかりきっていた。
(この子はジュリ君じゃない)
「君は………… ジュリ君の弟のセシル君だね?」
マーカスはジュリアスの家族構成など把握済みである。
小さいジュリアス、もといセシルは、恥ずかしそうにコクリと頷いてからベッドの上に立ち上がり、身体に巻いていた白いシーツを下にパサリと落とした。
マーカスは眼をカッと見開き、視界に映るセシルの全てを網膜に焼き付けた。
マーカスはその瞬間に、ショタ属性を獲得した。
「僕じゃだめ?」
淫魔の如き美しさを持つ幼い妖精の誘い文句に、マーカスの理性はぶち切れた。
「セ、セシルたぁぁぁぁぁん!」
目を血走らせながらセシルに飛びかかろうとしたマーカスの視界は、再び暗転した。
とんでもない息苦しさに加えて首の痛みと共に目覚めたマーカスは、目の前に、セシルの父アークの般若のような顔があるのを見て、殺されると悟った。
マーカスの直属の上官であり、滅多なことでは表情を変えない二番隊長アークは、目から光線でも出してこちらを焼却処分でもしてきそうな、恐るべき殺人眼力でマーカスを睨み付け、首をものすごい力で締めてきた。
「殺す」
マーカスは、魔王の如く恐ろしく残酷な気質を持つアークの、愛息たちに手を出しかけたことで、彼の逆鱗に触れてしまったことを理解した。
場所はセシルといた部屋のままで移動はしていないようだが、なぜかショタ天使セシルの姿はなく、助けが来る気配もないままマーカスは悪魔に首を締められ続けた。
脳内麻薬がたくさん出て死ぬ寸前の、いっそ気持ちが良くなってきた状態で、「自分が誘った」と泣きながら現れたセシルに助けられて、一命は取り留めた。
だが、セシルから誘ったのが事実でも許せないと怒りを燃やす魔法使い一家の長アークにより、マーカスはセシルに触れたら絶命する死の呪いをかけられてしまった。しかも、絶命の前に股間が爆発するというおまけ付きだ。
アークが責めるのは四男セシルのことばかりで、長男ジュリアスについては全く言及されなかった。ジュリアスを襲おうとした件についてはアークは気付いていない様子で、有耶無耶になっていた。
セシルについては向こうから誘ってきたわけだが、ジュリアスについてはマーカスが自分から積極的に動いていた。もしもジュリアスのことまで知られていたら、火の魔法使いアークに『人体発火の魔法』――生きながら焼かれ続けて地獄の苦しみを味わう致死率百パーセントの魔法――を使われて火だるまになって死んでいた可能性もあり、気付かれなくて命拾いしたとマーカスは思った。
その事件以降、マーカスの心はすっかりセシル一色に変わってしまった。もちろんジュリアスも好きだが、両思いな(少なくともマーカスの中ではそうなっている)セシルとの恋を貫きたいと強く思うようになった。
マーカスはどうやってもあの日見たセシルの全てが心に焼き付いて離れなくて、できればセシルで✕✕✕✕したいし、セシルの✕✕✕✕✕もほしいと思った。
それにジュリアスに心が戻りそうになる度に、恋人セシルが現れて「僕のこと嫌いになっちゃったのかな……」などと悲しそうに言うものだから、マーカスの恋心は燃え上がった。
「俺の恋人はセシルたんだけだから安心して!」と、セシルに触れると爆発するため、抱きしめて慰めることができない現状に涙しながら、マーカスはセシルへの思いを再確認した。
触れ合いが禁止されたせいか、兄ジュリアスと同じく両刀使いだったらしきセシルは、次期宗主ジュリナリーゼと婚約してしまったが、女の恋人枠がジュリナリーゼで男の恋人枠が自分なのだろうとマーカスは理解した。どう逆立ちしたって自分はあんな豊満おっぱいにはなれないので、それはもう仕方がないと思った。時折女性を求めたくなる気持ちはマーカスもよくわかるので、恋人の浮気を広い心で認めることにした。
それに新世界三代美女とも讃えられる美貌を持つジュリナリーゼは、マーカスもかなり好みだった。いつかアークが自分たちの愛の深さを思い知ることで呪いを解き、ジュリナリーゼ✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕なることは、マーカスにとっても望む所だった。




