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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第92話 「悪役、世間に名前を返される」



病院を出た瞬間、

アオトは嫌な予感しかしなかった。


空気が軽い。

軽すぎる。


「……あー。」


空を見上げる。


「これ、絶対ロクなことになってねぇ。」


レオンが横で言う。


「勘がいいな。」


「悪役は経験値が違う。」


病院の外には、

すでに人だかりができていた。


記者。

配信者。

スマホを構えた一般人。


「悪役アオトですか!?」

「巨大AIを止めたのはあなたなんですよね!?」

「今の心境は!?」

「正義局との関係は!?」


……うるせぇ。


レオンが一歩前に出る。


「取材は許可していない。」


だが止まらない。


「ヒーローじゃなく“悪役”が止めた件について!」

「今後も協力関係を築くんですか!?」

「あなたは正義側に立つんですか!?」


アオトは、思わず笑った。


「は?」


一歩、前に出る。


レオンが止めようとする前に、

アオトは口を開いた。


「勘違いすんな。」


ざわ、と空気が変わる。


「俺は正義の味方じゃねぇ。」


マイクが一斉に向けられる。


「今回の件は――」


「街が消えそうだった。

 それだけだ。」


記者が食いつく。


「つまり、結果的に正義に――」


「結果もクソもねぇ。」


アオトは淡々と言う。


「俺が殴れる距離に敵が来た。

 だから殴った。」


周囲が、ざわつく。


「ヒーロー達をどう評価しますか?」

「あなた自身はヒーローだと思いませんか?」


「思わねぇ。」


即答だった。


「ヒーローは、

 ちゃんとヒーローやってた。」


遠くで、

瓦礫撤去に向かうレイとツバサの姿が見える。


「俺は、

 ヒーローじゃ手が届かないとこを

 殴っただけだ。」


一人の記者が言った。


「では、あなたは何者なんですか?」


アオトは少し考えた。


ほんの一瞬。


「……悪役だ。」


それだけ。


沈黙。


誰も、その言葉をどう扱えばいいか分からない。


レオンが低く言う。


「もう十分だ。」


二人はその場を離れる。


背後で、

カメラのシャッター音が鳴り止まない。


「……名前が独り歩きし始めたな。」


「返された、って感じだな。」


「嫌な表現だ。」


「だが正確だ。」


歩きながら、

街を見る。


壊れた建物。

修復作業。

避難所の列。


それでも、

人は前を向いて動いている。


「なぁ、レオン。」


「なんだ。」


「世間ってのは、

 いつもこうやって

 勝手に期待して、

 勝手に失望するもんか?」


「だいたいはな。」


「面倒だ。」


「悪役向きだ。」


アオトは鼻で笑った。


「褒めてねぇだろ。」


「事実だ。」


少し歩いた先で、

アオトは足を止めた。


「……先に戻る。」


「店か。」


「ああ。」


「一人で大丈夫か。」


アオトは肩をすくめる。


「殴る相手がいなきゃ、

 まだ動ける。」


レオンはそれ以上、聞かなかった。


背を向ける。


街のざわめきの中で、

アオトは一人、歩き出した。


“悪役”という名前を、

再び背負って。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第93話


「悪役、コーヒーを淹れる場所がない」


――「戦場は片付いた。

   ……職場は片付いてねぇ。」


ちょっと休憩。


「悪役、ヒーローの“嘘の正義”を見抜く」


──正義は、嘘をつくときほど綺麗な顔をする。



昼下がりの【カフェ・ヴィラン】。


豆を挽く音が、妙に落ち着く時間帯だ。

平和ってやつは、だいたい音で分かる。


「マスター、今日……静かですね。」


ミレイがカウンターを拭きながら言う。


「こういう日はな、

 あとから面倒なのが来る。」


「悪役の勘ですか?」


「長生きしただけの経験だ。」



カラン。


ドアベルが鳴る。


入ってきたのは、ヒーローだった。

スーツは新品同然、バッジは磨きすぎ。

笑顔は――完成度が高すぎる。


「こんにちは。

 評判を聞いて来ました。」


「悪い評判なら、正しい。」


男は気にせず席につく。


「この街、落ち着きましたよね。

 ヒーロー制度が、うまく機能し始めた証拠です。」


……ああ。

そういうタイプか。



ミレイが首をかしげる。


「でも昨日、路地でちょっとした騒ぎありましたよ?」


ヒーローは一瞬だけ言葉を選んだ。


「軽微な事案です。

 統計上、問題ありません。」


その瞬間、分かった。



「お前、現場に行ってねぇな。」


ヒーローの指が止まる。


「……なぜ、そう思う?」


「“統計”って言葉を先に出すやつは、

 だいたい血の匂いを知らねぇ。」


ミレイが小さく息を呑む。


ヒーローは、まだ笑顔を保っていた。


「数字は正確です。

 感情に流される方が危険だ。」


「正しい。」


俺は頷く。


「でもな――

 正義は、数字の後ろに立つもんじゃねぇ。」



空気が、少しだけ冷えた。


「あなたは悪役だ。

 正義を語る資格はない。」


「ねぇよ。」


即答だ。


「だから分かる。」


「……何が?」


「嘘だ。」



ヒーローの眉が、わずかに揺れる。


「正義を守りたい顔じゃねぇ。

 “正義に守られたい”顔だ。」


沈黙。


カップの中で、コーヒーが小さく揺れた。


「……現場は、怖いんです。」


ようやく、本音が出た。


「間違えたら、全部終わる。」


「だから机に逃げた。」


否定はなかった。



ミレイが、そっと口を開く。


「正義って……

 怖がっちゃいけないんですか?」


俺は少し考えてから答えた。


「怖がっていい。」


「え?」


「怖がらねぇ正義は、

 人を“数”にする。」



ヒーローは立ち上がった。


「……今日は、勉強になりました。」


「勘違いすんな。」


俺は背中に言う。


「俺は味方じゃねぇ。

 嘘を見抜いただけだ。」


ドアが閉まる。



ミレイが小さく息を吐く。


「マスター、

 ちょっと怖かったです。」


「安心しろ。

 今のは正義じゃねぇ。」


「え?」


俺は豆を補充しながら、肩をすくめる。


「正義のフリした、ただの嘘だ。」


ミルが静かに回り始める。


「……だから見抜ける。

 悪役ってのは、そういう役だ。」



──嘘の正義は、必ず音を立てる。

悪役は、それを聞き逃さない。


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