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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第81話 「悪役、巨大AIの“核心”を見てしまう」




未完成の赤い核へ拳を振り下ろす直前――


空気が、澱んだ。


大気が重く沈み込み、

アオトの拳が“見えない壁”に触れたように止まった。


アオトは眉をひそめる。


「……なんだこれ。」


黒アオトも拳を止め、

レンズを細かく光らせながら分析する。


「アオト。

 前方に……“意識データの塊”がある。

 物理的障壁ではない。

 内部で思考が渦になっている。」


レイが震えながら叫ぶ。


「意識データって……AIの記憶ってこと!?」


セレナは端末を見て言葉を失う。


「違う……もっと複雑……

 これは……“ヒーロー社会が積み上げた正義のログ”です。

 削除できなかった命令。

 矛盾した倫理。

 SNS上の評価値。

 市民データ。

 ヒーローの申請履歴……!」


アオトが吐き捨てる。


「つまり……」


黒アオトが続ける。


「“人間たちが積み上げてきた正義そのもの”だ。」


アオトは表情を変えずに笑った。


「……中身、機械じゃねぇのかよ。」


巨大AIの内部から、

ひとつの“声”が流れ込んでくる。


――ヒーローとは、人を守る仕組み。

――悪を排除するためのコード。

――正義は多数のために存在する。

――異常値は削除対象。


無数の声が重なり、

人格のようで人格でない、

不気味な“社会の集合音”が響き渡る。


レイが耳を塞ぐ。


「うわ……なにこれ……!

 気持ち悪い……!」


セレナの声が震える。


「これ……“正義AI”が作りたかった答え……?

 人を護るために、人の判断を集めて……

 でもそれを一つにまとめようとして……!」


シグが歯を食いしばる。


「その結果がこれかよ……!」


アオトは一歩、前に踏み出した。


その足元で、

見えない圧力が地面をへこませた。


黒アオトが静かに言う。


「アオト。

 この核心……“殴れる構造”ではある。

 ただし……」


「ただし?」


「お前の精神負荷が跳ね上がる。

 周囲の“正義データ”が、お前の思考に干渉する可能性がある。」


アオトは鼻で笑った。


「心配すんな。

 俺の思考はもともと干渉されにくい構造してんだよ。」


「どういう意味ですかそれ!?」


「他人の正義で動いてねぇからな。」


レオンが短く言う。


「行け。

 ……お前しか届かない。」


アオトは拳を握った。


だが――

横から黒アオトが手を伸ばし、

アオトの手首を軽く掴んだ。


アオトは振り返る。


黒アオトのレンズが、

いつもの淡々とした光よりも、

わずかに強く揺れていた。


「アオト。

 もしお前の精神が侵食されるなら……」


「するなら?」


黒アオトは淡々と言った。


「オレが止める。

 お前が壊れるくらいなら……

 オレが代わりに破壊する。」


アオトは小さく笑った。


「影のくせに優しいじゃねぇか。」


黒アオトはレンズをわずかに揺らし、言い直す。


「優しさではない。

 お前を失うと、オレの“目的”が消失する。」


アオトは顔をしかめる。


「……そういう言い方やめろ。気持ち悪ぃ。」


黒アオトは淡々と別の言葉を選んだ。


「ではこう言う。

 “お前が消えるのは……不合理だ。”」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第82話「悪役、巨大AIの“最後の形”と対面する」**


――「正義を詰め合わせた結果がコレかよ。

   ……まあ殴りがいだけは増えたな。」


ちょっと休憩。


「悪役、ヒーロー学校の文化祭に呼ばれる」


──悪役を文化祭に呼ぶやつは、だいたい正義より怖い。



昼、カフェで豆を挽いていると、

ドアがバンッと開いた。


「アオトさんっ!! お願いがあります!!」


テンションだけでドアを破壊しそうな声。

ヒーロー学校の教師――小柄でやたら元気な 白石先生 だ。


「断る。」


「まだ何も言ってません!」


「じゃあ改めて断る。」


ミレイがカウンターから顔を出す。


「先生、また文化祭ですか?」


「そうなんです!!

 今年のテーマが“正義と悪のリアル”で……!」


あー嫌な予感しかしねぇ。


先生は胸を張って叫んだ。


「ヒーロー学校の文化祭に、

 本物の悪役講師として来てください!!」


「……どこをどう間違えたらそうなる?」


「学生が“本物の悪役の心理”を学びたいって!

 なのでぜひ!!」


ミレイの目がキラッと光る。


「マスター、行きましょう!!」


「お前のテンションが一番悪だぞ。」



ヒーロー学校に着くと、予想以上の騒ぎだった。


入口に貼られた巨大ポスター。


《特別ゲスト:元悪役・アオト》


……さん付けよりマシだが、これもどうなんだ。


ミレイがクスクス笑う。


「マスター、ポスターより本人の方が怖いですね!」


「褒め言葉なら殴るぞ。」



講堂に案内されると、生徒がギッシリ。

ざわつきが一気に走る。


「本物の悪だ……!」

「顔出ししてるんだ……!」

「意外と普通……? いや怖い……!」


うるせぇ。心の声まで漏らすな。


教師がマイクを渡す。


「それでは“悪役とは何か”の特別講義をお願いします!」


俺は深く息をついた。


「悪役ってのは――」


一瞬で静寂。


「……舞台装置だ。」


ざわつき。


「ヒーローが輝くための、便利な背景。

 勝たなくていいし、好かれなくていい。

 ただ――子どもを泣かせりゃ務まる。」


ミレイが即ツッコミ。


「言い方!!」


教師が震えている。


「……しかし、真理です……!」



実技時間になった。

「生徒が悪役と対峙する」コーナーだ。


最初の生徒が叫ぶ。


「ぼ、僕は正義の味方だ!! 悪を倒す!!」


「声が震えてる。寝ろ。」


生徒、撃沈。


教師がそっと言う。


「や、優しく……」


「悪役に優しさを求めるな。」


二人目の女の子。


「あなたの悪事はここまでよ!」


「語尾で自分を強く見せるな。

 本当に強いやつは語尾に頼らない。」


ミレイが感心する。


「マスター、説得力ありますね……!」


三人目は泣きながら。


「む、無理です……! あの雰囲気が無理です……!」


俺「ヒーロー向いてねぇから帰れ。」



その時――校庭側から悲鳴が上がった。


「不審者だ!!」


教師が青ざめる。


「まずい! 生徒が――」


ミレイが俺を見る。


「マスター!」


「……はぁ。はいはい。」


俺はマントを払って裏庭へ向かった。


そこには鉄パイプ持った不審者。


「おい。文化祭で暴れるな。」


「な、なんだお前……ヒーローか!?」


「違ぇよ。悪役だ。」


「な、なんで悪役が止めんだよ!!」


「悪は舞台を選ぶんだよ。

 ガキの文化祭で暴れるのは悪じゃねぇ。雑だ。」


相手、戦意喪失。


教師たちが後ろから拘束。


「アオトさん……ありがとうございます……!」


「助けてねぇよ。帰り道邪魔されたくなかっただけだ。」


ミレイが興奮気味に。


「マスター今日めっちゃ悪役っぽかった!!」


「褒め言葉としては最悪だな。」



講堂に戻ると、生徒全員スタンディングオベーション。


「悪役かっけぇぇぇ!!」

「今日のヒーローより活躍してた!!」


もう帰らせろ。


ミレイがニコニコ。


「マスター、表彰されるみたいですよ!」


「悪役が表彰されてたまるか。帰る。」


「はい!!」



──文化祭に悪役を呼ぶのは、教育上どうなんだ。


……まあ、生徒が楽しそうだったから、もういいか。


次はコーヒー飲んで忘れよう。


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